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マリアの風 第二話
第二話
「一体君が誰で、一体何処へ行けば
いいんだい?
目的もなしに俺に声をかけたんじゃ
ないだろ?」
当初の少し怒りにも似た感情はRZの加速と共に置き去りにしてきた。
「名前はまだ教えない!もう少ししたらネ、
分かるかも…。行き先は◯✕町三丁目に
お願い!」
◯✕町三丁目といえば同じクラスの岡田んちのすぐ近くじゃないか。
そこならある程度、土地鑑がある。
「このオートバイ、速くて気持いいネ!」
「何だって?聞こえないよ!」
「速くて気持ちいいネって言ったの!
貴方って肝心な事は聴き逃がすタイプなのネ」
「知ってる風な事言うなよ」
憎まれ口を叩かれても何故か頭に来なかった。むしろ、どこか懐かしく、遠い記憶の中に目印として留めたポストイットのように何か重要なファイルを見つけた感じ。
「何でまた一人であんなトコにいたの?
誰かと待ち合わせしてたとか?……
あっ今こうして俺といるからそれはないな。
それよりさ、早く名前を教えてくれないか?」
俺のRZの後ろに乗り、口では強がっている様に見えても、俺の腰に回した腕にギュッと力を入れている女の子の事が気にならない訳がない。無反応の男がいたら連れてきて欲しい。
「そうね、いずれ分かるものだから……。
いいわ、教えてあげる。まりあ、まりあよ!」
「えっ?まりあだって?」
「そうよ、教えてっていうから教えてあげたのにヘンに驚いちゃってるけど…」
「いや、小さい時、同じ名前の女の子を知ってたから…。まりあってどう書くの?平仮名?
片仮名?上の名前、名字は?」
もしかしたらと思い、聞いてみたのだが、
「あっもう三丁目の近くね。ありがとう!
れはこの辺りでいいわ」
と、はぐらかされてしまった。
「もう少しで分かってくるはずよ。
今日はありがとう、じゃあ!」
半キャップのヘルメットを俺の胸に押し付け、小走りに曲がり角へと消えて行った。
「まさかあのマリア?でも面影がなかった様に見えたんだけど…10数年も経てば雰囲気も
顔立ちも変わるかぁ。まして女の子なら。
でも、もうすぐ分かるってどういう意味だ?」
頭の中は疑問符だらけの俺だったが、今は浜中にヘルメットを返しに行く途中だという事を思い出した。
一人になったRZ250は本来の加速を取り戻し、浜中の家へと走り出した。
それが10日前の出来事。
あれから1週間が経ち、岡田の同窓会の日が
やってきた。
俺はジーンズにTシャツ、MA-1。
上着は暑くても必ず着る事にしている。
万が一、転倒した時の上着一枚。
これが有るか無いかでは本当に天国と地獄に
別れる所を見てきたし、経験もした。
足元はアディダス・スーパースターと、
いつもと変わらない服装で出掛ける事にした。もちろん少しぐらいのオシャレをして行くっていうのも普通はアリなんだろうが、RZに乗って行くつもりだったし、別に俺のお見合いとか、ましてやデートでもないんだから、
いつもの俺でいいやと考えた。
俺とRZは◯✕町三丁目付近へとさしかかり、
岡田の出身校である◯✕第三中学校を目指す
為には、次の交差点を右折だったはず。
不思議なもので道路に関してだけは記憶力が
良くなり、一度通った道、一度訪れた場所は
何年間は憶えている。
そう、道路に関してだけは……。
◯✕第三中学校が見えてきた。
校門の前には岡田と数人の仲間が俺を待って
いてくれた。
「悪いな、伊藤。わざわざ来てもらって」
「ホントに部外者の俺で良かったのか?」
この期に及んでもやはり不安だ。
「あぁ、お前じゃなきゃ駄目なんだよ。
他の皆んなも教室で待ってる。
とにかく行こう」
「俺じゃなきゃ駄目……?」
どういう意味だ?
つづく