マリアの風 第六話
第六話
「マリア!マリア!大丈夫か?
しっかり。マリア!」
見るとマリアの意識はないみたいだ。
" マリア!くそっ、どうする?
大ごとになるけど、119に掛けるか?
とにかく岡田には連絡しなければ "
俺は岡田の携帯にかけてみたが、留守番電話になってしまう。
「え〜、俺だ。伊藤。とにかくこれを聞いたらすぐに折り返してくれ!」
だめだ、猶予はない。
「あの〜大丈夫ですか?何か手伝える事は
ありませんか?」
大学生ぐらいのカップルが声をかけてくれた。これで少しだけ落ち着いた。
「ありがとうございます!
では、彼女を少し看ててくれませんか?」
マリアをカップルに任せて俺は初めての119番通報をした。
「はい、こちら119番。消防ですか?
救急ですか?」
「救急車をお願いします」
「どういった状況ですか?」
その後、何を答えたのか全く覚えていない。
冷静になれたのは、病院にマリアが
運ばれてからしばらくして到着した岡田と両親の顔を見た時だったように思う。
「伊藤、大変だったな。ありがとう。
お前がいてくれたおかげだ」
「なぁ岡田。最近マリアの調子が悪い事を知っていたのか?」
「あまり食べなくなったというのはあるけど、ほら、女性特有のもあるだろ?父さんや母さんは気付いた事とかある?」
「私には最近はよく疲れやすくって困ると言ってたけれど…」
「すまん、私は聞いてないな」
「岡田さんのご家族の方はこちらへどうぞ」
と看護師がやって来た。
「岡田、あとで聞かせてくれよ」
「伊藤、お前も話を聞いておいて欲しい。
構わないよね?父さん、母さん?」
少し逡巡したけれど、一緒に行く事にした。
「お願いします」
診察室に通された俺たち四人は思いがけない事を医師から聞かされた。
「結論から申し上げます。化膿からくる急性の糖尿病、及び急性白血病です」
「えっ?」
俺も岡田たちも眼を丸くするしかなかった。
「お嬢さんは半年ほど前に足首を捻挫されていたようですね。それで内出血を起こした血液が足首関節の内部に留まり、化膿し、少しずつ腐敗していったのでしょう。
それが原因だと思われます。
最近、喉が渇くとか、疲れやすい、
または食欲がないとか
言ってませんでしたか?」
「確かに疲れやすいとは言ってました」
「それで先生、娘の容態は……?」
「今は何とか維持していますが…。
ハッキリ言って足首の肉が腐ってましたから。何故あんなになるまで放っておいたんです」
「やはり私に対し遠慮があったのかな……」
岡田の父親がボソボソとつぶやく。
「そんな事はないわ。
マリアは貴方に感謝していました」
「そうか。で先生、実際どうなんでしょう?」
「はっきり申し上げると、厳しい状況にあると言えるでしょう。
ここ2~3日がヤマと見ておいて下さい」
何だ?
ここにいる人達は何の話をしているんだ?
急性白血病?
誰が?
まるでトランポリンの上に立っているみたいに足元がグラグラして、
そのくせ力を入れようとすると
今度は余計にフニャフニャと力を分散させられた哀れなサーカス団のピエロの如き状態に
なっていた。
「…う。…とう、いとう!大丈夫か?
とりあえず今日の所は帰ろう。
完全看護の病院だそうなんで僕たちがいても
しょうがないし、逆にジャマになるだけだよ。ここは先生を信じて帰ろう」
「あぁ、済まない。本来なら身内のお前が
辛いはずだものな」 つづく