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雨宿りのクロ 3
ボクが縁の下からお店の中に移ってから
分かった事なんだけど、引っ越す直前には
二人に、つまりマー兄さんと洋子さんに
京子おばちゃんはボクの存在を話してたんだ。
「実は三ヶ月ほど前から縁の下に迷い猫が
いるのを偶然見つけてしまってね。
可哀想だからご飯をあげてたんだよ。
ぼちぼちクロも、あっ、" クロ " って
名付けたんだけどね。慣れてきたから
お店の中で飼おうかと思ってね。
それで二人の許可を貰おうかと…」
「え〜何?全然知らなかったわ!」
「そういや、たまに仔猫の鳴き声が遠くで
聞こえてきた事があったな」
「お母ちゃん、ちょっと見てもいい?」
「あぁ、驚かせないようにね」
そう言って三人は縁の下のボクの様子を
見に来たらしいんだ。
らしい?
そう、その時ボクは寝ていて、まさか
寝顔を見られていたなんて……
「ウフッ、かわいいわね。私飼うの賛成!」
「おう、異議なし!」
「どうやら決まったよ、クロ!良かったね」
というわけでお店の中に移されたボクは
また新たな環境に馴染まなきゃならくて
ビクついたりしたけれど、今回は単純に
場所だけの問題だからそんなに心配はして
いなかったよ。
もう三人の人柄が分かってきてたからね。
座敷席の隅に寝床を作ってもらった。
ここが新しいボクの住処だ。
それからというもの、ボクの存在が
商店街中に広まっていった。
ただでさえ色んな人が京子おばちゃんに
相談しにくるから無理もないか!
拡散させた一番の功労者(?)は
京子おばちゃんもよく行く喫茶店ポエムの
ママがその人だろう。
「京子さん、こんにちは!もり一枚ね。
あらっ?どうしたの、この猫?買ったの?
いくらしたの?まっ黒で可愛いわねェ」
「アンタはいつもお金の話だねェ。
買うわけ無いだろ、迷い猫なんだよ。
だいだいねぇ、お金で幸せを買う事は
出来ないよ!まぁ持っていると幸せな
気持ち、気分にはなれるけど、人には
それより大事なものがあるのさ」
「なんだ、そうなの?マーちゃんや
洋子ちゃんは知ってるの?OKなの?」
「何言ってるのよ!知らないわけが
ないでしょう?お店の中なんだから」
「そうだよママ。いくらなんでも店ん中で
ごまかせるほどウチは広くないよ。
はいっ、もりお待ち!」
そうか!
あのちょっと太って、あ、いや、ふくよかな
いつもご飯をくれた女性が " 京子 " さんて
いうんだ。で、あの大きい人が " マー兄 "
なんだね。
「お母ちゃん、ただいま!」
ガラガラと引き戸を開け女子中学生が店に
飛び込んできたんだ。
「洋ちゃん、おかえり」
「おう、洋子。おかえり」
「洋子ちゃん、おかえりなさい」
「あ〜ママ、いらしてたんですね」
うむ、彼女は " 洋子 " ちゃんと言うのか。
おばちゃん……京子おばちゃんの名前や
家族構成が分かってきたぞ。
家族かぁ……
そういえばボクの母さんや兄弟達は
今頃どうしてるんだろう?
はぐれてから三ヶ月。
母さんが探しに来てる様子もなかったな。
ボクがずっと縁の下にいたから見つけられ
なかったのかな?
他の兄弟達の面倒を見ないといけなかった
から、見離されちゃったのかな……
なんではぐれちゃったのかな。
そうじゃなきゃ今頃皆んなと一緒に楽しく
暮らせたんだろうな。
迷い猫になって困り果てていたところを
助けられたボクは何度でも言うよ!
「こがねや」という優しい人達の所に
" 雨宿り" をしたボクはラッキーな黒猫だ。
つづく