白と黒2
ー防衛省 情報本部(DIH)ー
2週間後、僕と玄武、安村警部、窪田警部、高崎巡査部長は出向という形で防衛省情報本部に来ていた。
実際は出向とは名ばかりの、転職だった。
僕の身分(籍)は表向き上
警視庁 刑事部捜査1課となり現役警察官だ。
しかし、本当の所属は …
防衛省情報本部 (DIH)情報6課 となっている。これも仮の所属でしかない。今回、新設された部隊は公式には発表されておらず、防衛省の一部の人間、及び警視庁の高級幹部しか知らないらしい…
理樹「何か凄いところに来てしまいましたね…」
柊甫「だね。防衛省に入るのは久しぶりだけど…情報本部は初めてだよ。」
渉「秘密部隊って感じやなぁ…」
???「お待たせしました。皆さんこちらへ」
その時、眼鏡をかけた長身の自衛官が僕達一行に声をかけて来た。そして、会議室のような所に案内された。
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ー会議室ー
僚一「はじめまして。私は情報本部情報6課統括課長の3等海佐 間島僚一です。よろしくお願いします。」ビシッ
柊甫「警視庁 刑事部捜査1課課長の安村警部です。お世話になります。」ビシッ
安村警部の敬礼に全員が倣う。
僚一「さっそくですが 皆さんにはこれを…」スッ
間島3佐から手渡されたのは、カードのようなものだった。そこには顔写真に氏名と所属が記載されていた。それを1人2枚ずつ手渡された。
理樹「これは…?」
僚一「皆さんは本日から防衛省情報本部の人間となります。ですので、入館する際はそちらを提示して頂きます。」
1枚目のカードには…
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海上自衛隊 幕僚監部 広報室 広報官
2等海尉 直枝 理樹
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となっていた。
2枚目のカードには…
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防衛省情報本部 情報6課捜査課
2等海尉 直枝 理樹
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情報本部所属の身分証となっていた。
文書偽造で訴えられないか心配になってきた…
ちなみに…それぞれの身分は
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(表)陸上自衛隊 幕僚監部 監査部
3等陸佐 安村 柊甫
(裏)防衛省情報本部 情報 6課捜査課長
3等陸佐 安村 柊甫
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(表)航空自衛隊 幕僚監部 広報室班長
3等空佐 窪田 渉
(裏)防衛省情報本部 情報 6課潜入工作課長
3等空佐 窪田 渉
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(表) 陸上自衛隊 中央情報保全隊
2等陸尉 松原 玄武
(裏)防衛省情報本部 情報 6課捜査課
2等陸尉 松原 玄武
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(表)航空自衛隊 補給本部 第5整備課
1等空尉 高崎 祐介
(裏)防衛省情報本部 情報 6課潜入工作課
1等空尉 高崎 祐介
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それぞれ、階級は2尉以上の幹部で尚且つ隠れ蓑にしやすい配置となっている。
僚一「それでは、制服に着替えてから再びこの会議室に集合してください。」
そう言うと、間島3佐は部屋を出て行った。
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〜銃器対策部隊〜
隊員「ょう…小隊長…熊岡警部補」
俺は名前を呼ばれ振り返る。
そこには、柳本ケンジ巡査部長が立っていた。
樹「どしたん?ケンジ悩み事か?」
ケンジ「いえ、訓練報告書ができたので確認をお願いします。」
樹「おう」
俺はケンジから報告書を受け取り目を通す。
しばらくの沈黙…
ケンジ「あの…どうでしょうか…」
樹「ええんやない?隊長に見せてきまい。」
ケンジ「はい、あと…小隊長」
樹「ん?」
ケンジ「SATの選抜を蹴ったっ…うぉっ…」
樹「ちょっと来い。」
俺はケンジを連れて給湯室に向かった…
ケンジ「どうしたんですか、小隊長」
樹「その件については口外できんのやけど、とりあえずその話は蹴った。それだけや。」
ケンジ「は、はい…」
樹「話は以上や…」
ケンジ「すいません…」
樹「俺の方こそすまんな。」
今、俺の計画を公に遂行するわけには行かない
しばらくは銃器対策部隊小隊長として動くしかないようだ…
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ー防衛省情報本部ー
制服に着替えた後、僕たちは会議室に再び集合し情報本部副長と面会した。
副長は情報1課〜6課までを統括する立場で
実質、僕たちの直属の上司となる。
柊甫「警視庁捜査1課 安村警部以下4名 警視庁より出向を命ぜられ只今着任しました。」ビシッ
富竹「はじめまして、情報本部副長の富竹です。あなた方にはこれから身分を偽って任務に就いて頂きます。」ビシッ
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(表)陸上自衛隊 中央業務支援隊 司令
1等陸佐 富竹 次郎
(裏)防衛省情報本部 副長
1等陸佐 富竹 次郎
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情報本部の副長とだけあって、百戦錬磨の自衛官という雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。
情報本部の組織図としては…
情報本部長
↓
情報本部副長(富竹1佐)
↓
情報1課〔外事1部(中東、東アジア)担当〕
情報2課〔外事2部(朝鮮、韓国)担当〕
情報3課〔国内治安担当〕
情報4課〔北方領土担当〕
情報5課〔サイバー攻撃担当〕
今回新設される…情報6課
〔国テロ担当〕
概要としては、国内に潜む国際テロリストを警察組織と連携し捜査することを主任務とする。
6課統括課長 3等海佐 間島僚一
同 捜査課長 3等陸佐 安村 柊甫
捜査員 2等海尉 直枝 理樹
2等陸尉 松原 玄武
同 潜入工作課長 3等空佐 窪田 渉
工作員 1等空尉 高崎 祐介
我々情報課の他に
通信担当課と後方業務支援課があり
特殊情報保全隊(SITF)が配備されている…
これを知っているのは一部の自衛官のみで公にはされていない。
また、ここに所属する自衛官は家族や同僚にさえ自分の身分を明かすことは許されない。
僚一「大まかな説明は以上です。分からないことがあれば私に聞いてください。席順は6課統括課長の私、次席に安村3佐、窪田3佐の順になります。フロアには各課人員が集まっている頃でしょう。人選は各課長にお任せします。」
そう言うと間島統括課長は会議室を出て行った
しばらくの沈黙…
理樹「僕たちは本当に警察官なんですかね…」
祐介「戸惑うのも仕方ない。」
玄武「今は警察官と言うことは忘れて、ここでの任務に徹せよってことですね…」
柊甫「そうね、とりあえず各課に分かれよう」
渉「高崎、俺らは潜入工作課じゃけ向こうのフロアやな」
祐介「そうですね。行きましょう」
各々の仕事に着手した。
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〜警視庁公安部 公安第一課〜
公安部のフロアに女性警官の姿があった。
細身の体型、長髪の髪で美しく凛々しい女性だ
梨花「最近はどこも静かなようね。」カタカタ
彼女はそう呟きながら、パソコンに何かを打ち込んでいる。
???「梨花…」
ふと、誰かに声をかけられ私はキーボードを打つ手を止めて振り返った。
梨花「はい? あ、舞先輩…」
そこに立っていたのは、私と同じ大学の先輩で
上司でもある 川澄 舞警部が立っていた。
舞「梨花、ここのところ根詰めすぎよ。」
梨花「心配ありがとうございます…」
舞「最近は、大きな事件(ヤマ)が無いから比較的平和だけど来たる日に備えて休める時はしっかり休むのよ?」
梨花「はい。」
舞「あと、課は違うけど沙都子ちゃんにもしっかり休むように伝えておきなさい。あの子もあなたと同じくらい無理をするから…」
梨花「ふふっ…先輩は相変わらずお母さんみたいですね。」ニッコリ
舞「そんな事ないわ、可愛い頑張り屋な後輩2人を労ってるのよ。」
梨花「ありがとうございます。伝えておきますね。」
舞先輩は大学時代から周囲を見て、他人に気を遣える優しい先輩だった。
ちなみに…私と沙都子は表上は警視庁捜査一課(S1S)所属の刑事となっている。
舞先輩はと言うと…
警視庁 組織犯罪対策部 組織犯罪対策4課
所属になっているが、実際の我々の所属は…
警視庁公安部 公安第一課 つまり…国内での日本赤軍の情報収集や極左暴力団体の情報収集を行っている。3係は主に前者の日本赤軍について情報収集を行なっており…私と舞先輩はここに所属している。
ちなみに…沙都子は外事第四課、主に国際テロリストの情報収集を行う課の所属である。
課長「よし、みんな居るね。会議始めるぞ」
その時、公安一課長が会議から戻ってきた。
それを皮切りに、一課の定例会議が始まった。
課長「各自の入手した情報を報告してくれ。まず、川澄から」
舞「はい、現在のところ日本赤軍関係者及びその内縁者に関する不穏な動きはありません。ただ、赤軍とは別で極左暴力団体の(爆秋会)がここのところ活発に動きが見られます」
課長「具体的にどのような動きがあるんだ?」
舞「はい、まずはこちらの資料を」
そう言って舞先輩は全員に資料を回した。
そこには、爆秋会の最近の動き、並びに国内に違法で持ち込まれた銃火器類の行き先について記されていた。そこに不可解な事が…
???「ん?待ってください…このルートって…もしかして」
口を開いたのは、私の班の班長を務める。
北川警部だった。
課長「ん?どうした、北川」
北川「この、武器購入代金が支払われている讃渓通商って…」カタカタカタカタ
何かを思い出したかのように、パソコンのキーボードを打つ相沢警部 そして…
北川「あった…画面に出します。」ピッ
プロジェクター画面に映し出されたのは。
PC(ペーパーカンパニー)のリストだった。
その中で赤い印が付けられた部分に
〔讃渓通商〕が入っていた。
北川「讃渓は以前に摘発して、ほぼ使われる事がなかったのでは…?」
舞「普通に定石通りに行けばそう考えるわね…でも、相手は極悪団体よ一筋縄では行かない…」
北川「課長、讃渓の他にも多くのPCを経由して流入の行き先を追えないような工作がなされています。」
課長「そうみたいだな。讃渓、青島テクノ、島崎電工…どこもPCもしくはDCじゃないか…
金の流れは分かった、次に銃火器の流入先はどこになってる?梶本班」
課長に名を呼ばれた 梶本警部が立つ。
渓太「はい、銃火器の流入については…現在確認できているだけで、爆秋会傘下の組及び半グレに流れています。特に、菅島建設(株)に6割が流れているようです。」
課長「菅島建設に?確か、DCで組対4課に摘発されてたろ?まだ動いてるのか?」
渓太「どうやら、裏で糸を引いている人間が居たようです。」
課長「その人間の調べは?」
渓太「すいません、そこまではまだ…現在、私の部下を内調させてます。結果は今日中にも出るかと思います。」
課長「了解した。なるべく急ぐように伝えておいてくれ。」
渓太「分かりました。」
課長「あと、皆に伝えておかなければならない事がある…」
北川「どうしました?」
梨花「なんですか?改まって」
舞「まさか…」
課長「川澄は勘づいたようだね、上から降りてきた情報なんだが…ゼロが動いている。」
梨花「ゼロ…」
渓太「まさか…作業班も?」
課長「まだ詳細は分からないが、恐らく動いているだろう。くれぐれも注意して動いてくれ…」
全員「分かりました。」
ゼロとは…
警察庁警備局警備企画課 通称(ゼロ)
表向きな業務内容は警視庁や都道府県警の公安職員の作業指導だが、本当の任務は
日本という国の安定を脅かす組織…
例えば、右翼団体、テロ組織、自衛隊クーデター、日本共産党、朝鮮総連などの情報収集が主任務だ…そして、任務遂行のためなら手段を選ばないのがこの組織だ。
厄介なのどのような人間がどれほどの規模で
動いているのかが分からない事だ。
・PC=ペーパーカンパニー
(実在しない書類上の会社)
・DC=ダミーカンパニー
(実在はするが隠れ蓑的な会社)
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〜防衛省情報本部 捜査課〜
僕 、安村3佐 、玄武の3人は捜査課のフロアに来ていた。そこで初めて捜査課のメンバーと顔を合わせた。
柊甫「初めまして、本日付で情報6課捜査課長に就任した、安村3佐です。よろしく」
全員「よろしくお願いします。」
柊甫「じゃあ、端の君から氏名と階級、所属部隊名を教えてくれる?」
男「あ、はい!」
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ーー
数分後、全員の自己紹介が終わった。
我が捜査課は僕と玄武、安村3佐を含め10名で動くことになる。
ふと、新宿署で刑事をしていた頃を思い出す。
1人の捜査員と目があった。彼女は確か…
仲村ゆり 3等海尉 情報6課捜査課
海上自衛隊 中央システム通信隊 所属
だったはずだ…
理樹「え、と仲村さん?だっけ、どうしたの?僕の顔に何かついてる?」
ゆり「いえ、なんでもありません。知り合いに似ていたもので…少し見入ってしまいました。気を悪くされたなら、すいません。」
理樹「大丈夫だよ。これからよろしくね。」
ゆり「はい、よろしくお願いします。」
そう言うと彼女は立ち去っていった…
玄武「おぅおぅ、モテモテだな理樹」
理樹「揶揄わないでよ。玄武」
玄武「そんな事言って、沙耶さんが居るのに浮気しようって算段か?」
理樹「人聞きの悪い事言わないでよ…玄武だって唯湖さんがいるじゃないか。」
玄武「へへっ、まぁな。」
ふと視線のようなものを感じて僕は振り向く…
理樹「ん?」
玄武「どうした?」
理樹「視線を感じたんだけど…気のせいか…」
理樹の死角になる柱の影から覗く人間の姿がそこにあった…
???「……。」
(彼の周辺を調べてみる価値はありそうね。)
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〜警視庁 警備部銃器対策部隊 諜報課 〜
課長「どうかね?ネズミの動きは、熊岡君」
樹「はい、現在 私の部下を潜り込ませています。今のところ目立った動きはしてないみたいですが、油断できません。」
課長「そうだね。何せ我々と同じで秘密裏に動く部署だからね…ネズミめ…厄介なところに異動となったものだ…」
樹「そうですね。あと、警視庁の公安第一課も国内の極左暴力団体と赤軍を追う傍ら、ネズミの行方を追うようです。」
課長「公安一課となると…島田君の部署か。」
樹「お知り合いですか?」
課長「捜査一課時代の後輩だよ。優秀な人材でね、是非ウチにもして欲しかったんだが断られてしまったよ。とりあえず、くれぐれも彼等に勘ぐられないように動いてくれ。話は以上だ」
樹「分かりました。失礼します。」
コンコン
課長「入りたまえ。」
俺と入れ替わるタイミングで、1人の男が入ってきた…
太一「失礼します。調査報告に参りました。」
同期の池脇太一 警部補だった。
本来の表向きの俺と太一の本来の所属は
俺が、警視庁警備部 銃器対策部隊 第9小隊長
太一も同じく銃器対策部隊 第7小隊長となっている。しかし、実際は…
警視庁 警備部の諜報課(情報収集班)
通称 〔SiCO〕となっている。
よく、警察庁警備局警備企画課(ゼロ)と混同されがちだが、俺たちの存在は諜報課課長を始め、一部の人間のみ知る部署である。
課長「ご苦労様、池脇君。見せてくれ。」
太一「どうぞ…」スッ
樹「太一、お前のとこの内調はどうよ?」
太一「外人相手じゃ出てこねぇな…ただ…」
樹「ただ?」
太一「韓国系マフィアで日本ではヤクザ相手に不動産売りつけてる〔金龍会〕の動きの方が最近は活発やなぁ…」
金龍会…表向きは〔(有)日清不動産〕だったはずだ。不動産とは名ばかりで実際は在日韓国人労働者やホームレスに不当な金額で賃貸や闇金を貸し付けるとんでもない会社で、過去に警視庁捜査一課が家宅捜索に乗り出した事があったはずだ…
樹「まだ、息してやがったか…金龍会」
太一「そういや、樹も湾岸署の所轄時代に追っかけてたっけ?」
樹「そうそう、途中で捜査は打ち切りになって池袋のS1Sに持って行かれたな…」
課長「あの当時、新宿の課長していたがまさか池袋が持っていくとは思わなかったな。あの時、池袋に君達の同期の安村君も居たね?」
樹「ですね…」
課長「とりあえず…ネズミと金龍会の方も慎重に探りを入れてくれ。」
2人「分かりました。」ガチャ
俺たちは部屋を後にした。
続く…