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〔台本〕「摩天楼 作.玉城エト」 作:吉谷しな


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あらすじ

玉城エト。高校生ミステリー小説コンテストで大賞をとった彼女は、その圧倒的な美貌故に絶大な人気を集めていた。緑がかった深い黒髪に、ツンとした鼻。猫のように丸いながらもキリッとした目…。ミステリ作家らしいミステリアスな美貌を備えた類い稀なる文才。完璧な彼女の元へ一本の電話が鳴り響く。

「もしもし、工藤です」。

ただの取材依頼が、彼女の人生を大きく変えることになると…この時の彼女はまだ知る由もない。

登場人物

(女)作家:玉城エト役と彼女の過去作である『摩天楼』に登場する作家役を並行して兼ねることになる。
(男)工藤:豚と呼ばれる殺し屋”伊藤”と、『摩天楼』の登場人物である工藤、二役を並行して行う。
(男)鷹司:伊藤の旧い馴染み。情報屋。胡散臭い話し方。
(女)給仕:鷹司の元で家事などをして働いている。おっちょこちょいなお馬鹿さん。
(女でも男でも)夢花:殺し屋。日本語がとても流暢な中国人。お茶目だが見た目はクール。

店員:
ニュースキャスター:
*店員とニュースキャスターをどなたか兼ね役お願いいたします

上演時間

35分ほど

読み込みの際のヒント

「」の有無

作者の遊び心あふれるなんちゃってレビュー

★★⭐︎⭐︎⭐︎
声劇台本というよりも小説としての面白さが勝る。声のみでカラクリを表現することが難しく、せめて舞台としてそれなりの演出が欲しいところである。
一方で、だからこそ声のみの芝居でどこまで表現できるかという「難しいからこそ燃える」タイプの演者にとってはお気に入りの作品となることだろう。間、息遣いを駆使して「玉城エトの創作の世界」なのか「吉谷の創作の世界」なのか、はたまた現実なのかを醸して欲しい。
なーんちゃって、かっこつけちゃった。


本編

作家:正直、私の作品は世間が言うほど面白いものじゃあないと思う。
私ほどつまらない人間が、前時代の大先生に肩を並べられるはずがない。
にも関わらず、浅薄で観察眼のないメディアは、私のことを次世代の江戸川乱歩だのと騒ぎ立てる。
他の作家と違うところなんて、若い女性であり且つ、少し、容姿が整っていることくらい。
そう、ほんの、少し。

工藤:「もしもし、工藤と言います。」

作家:デビュー作が話題になって、バラエティに出演して。

工藤:「玉城先生の番号でお間違えないでしょうか」

作家:美人だなんだと誉めそやされるのが気分がよくて、ドラマにゲスト出演だなんてしてしまったのが

間違いだったかもしれない。

工藤:「先日は取材依頼をお受けくださってありがとうございました。」

作家:どんな職業もアイドル化が進む現代のことだから、少しの才能と少しの顔の良さに恵まれれば

メディアに出るし、出れば人気になる。

せめて稼げるうちに。

そんな情けない動機でありとあらゆる取材を受けていた。

工藤:「一週間、こまめにはなりますが…どうぞよろしくお願いします。」

作家:それが自身のアイドル売りに拍車をかけて、より一層、自身の精神を病ませるんだけど。


0:取材中

0:可能であれば次の作家のセリフはフェードイン


作家:西野先生と仲がいいかなぁ、同じ女性作家だし。先週は西野先生に誘われて先生の作品に出てきそうなおしゃれなカフェに行ったよ。西野先生、『やっと終わったけど次の作品どうしよう〜』って…ネタ切れするくらい魂込めた作品みたい。

工藤:先生はネタ切れとか経験ないですか?

作家:ネタ切れは創作を生業にする私たちにとっての致命傷だからねぇ、ネタ切れしない…というよりか、しないように頑張ってる…かなぁ

工藤:へぇ、頑張ってなんとかなるものですか?着想を得るきっかけとか…やはりあるんですか

作家:うーん…実生活をもとにした妄想かなぁ、大体は。


0:手帳にメモする工藤の手元を見つめるエト

SE:書き込む音


作家:工藤さんは…

工藤:はい(書き込みながら

作家:携帯とかPC、ないの?


0:ふっと顔を上げる工藤


工藤:携帯は持ってますよ。3つくらい。仕事用と、仕事用と、もう一つは…

作家:仕事用?


工藤:さすが推理小説作家。

作家:でもおかしいね、

工藤:何がです?

作家:私と一緒にいる時間って仕事時間なはずなのに…携帯を使ってるところ、一回も見たことがない。


工藤:連絡にしか使わないですからね

作家:記者ってそんなに暇だっけ。人前でも連絡の一つや二つ、絶対するでしょ。


工藤:絶対?いいえ。現に僕が例外のうちの一人です。

作家:先輩作家と同じくらい、回りくどくてめんどくさい冗長な応え方。

工藤:はは、先輩作家さんと同じくらい…。僕も作家になれますかね?

作家:本当に記者なら、文章力は充分じゃない?


工藤:…大物作家からのお墨付きか。光栄ですね。

作家:工藤さんには無理って意味だったんだけど


店員:お待たせいたしました。こちらアイスティーです。


0:工藤の前にアイスティーを置く店員


店員:そしてこちらホットコーヒーです

注文の品は以上でよろしいでしょうか?

作家:はーい

0:去る店員


工藤:それで…

作家:(コーヒーに角砂糖を七個ほど放り込む)

工藤:どういうことですかね、


0:沈黙


作家:え、なんの話?

工藤:さっきの話の続きです

作家:…?…あぁ、作家は無理だよ

工藤:やっぱりそれほど厳しい世界なんですか

作家:ある人にとっては天職だけど、またある人にとっては転職必須の悲しき世界かもねぇ、

ははー、あ〜寒い

工藤:やはり8年ちょっと記者をやったぐらいじゃ太刀打ちできませんか

作家:作家になりたいの?

工藤:これでも元作家志望ですよ

作家:ふーん、それ”は”本当?

工藤:本当ですよ。文字書きが諦めきれなくて記者という職にしがみついているんです。

作家:今の職が正解かもね

工藤:そうですか?

作家:うん、作家も記者も、大変な仕事だから。

工藤:本当に、疲れますね。編集長に叱られてばかりで。

作家:残念ながら工藤さんのとこにはお世話になったことないからなぁ、編集長、誰だったっけ?


工藤:上坂さんです。

作家:うん、やっぱり記憶にないな…

工藤:厳しい人なので知り合うべきじゃないですね。今回だって、コンテンツを取ってこないとこっぴどく叱られる。

作家:でも辛い取材も今日で終わり、よかったですね、工藤さん。

工藤:今回は随分とかかってしまいました

作家:「私を殺すのに?」

工藤:失礼、なんと?

作家:「大変な仕事だねぇ。君も。私を殺すために一週間も密着取材だなんて。場をセッティングするのにはきっとより長い月日が必要だったろう?でも仮にも私は推理小説作家。探偵ごっこは得意なのだよ。」

工藤:。

作家:。


工藤:「先生おっしゃっていましたもんね。自分の経験をもとに作品を作ると。」

作家:「なかなかいいんじゃないかい?」

工藤:「私がモデルですか?」

作家:「あぁ」

工藤:「殺人犯の?」

作家:「あぁ」

工藤:「光栄ですね。どんな話にするんですか?」

作家:「そうだねぇ。とある推理小説作家が、巷で話題の連続殺人犯をモデルに作品を書く。それが引き金 となってその小説家は命を狙われてしまうんだ。記者と偽って小説家に近づく犯人と犯人の正体を探る小説家、気になる勝負の行方は?小説家は無事生き残ることができるのか?」

工藤:おお

作家:…

工藤:「その話は記事にしても大丈夫ですか、随分と面白そうだ。」

作家:結構粘るね、工藤さん。

工藤:…


作家:「さすがについた嘘に無理があったのではないかな?出版社から金をもらっている作家に対して、『出版社から金をもらっている記者です』と嘘の自己紹介するのは素人でしょう。警察の残飯潰し、「豚」が聞いて呆れるね。」

工藤:(アイスティーを飲む工藤)

作家:だけどどうやって私を殺すつもりだったんだろう?今日が締め切りなのに…まさか!コーヒーに毒でも?

工藤:「口をつけないのはそれが理由ですか?」

作家:…

0:角砂糖の溶け切ったコーヒーをぐるぐるとかき回す作家


工藤:「『先生について知りたいから密着取材をさせてくれ』というのは本当ですよ。」

作家:どっち?

工藤:…

「私がついた嘘は一つだけです。出版社に勤めている、ということ。」

0:作家のコーヒーカップに手を伸ばす工藤


作家:あ


0:コーヒーを一口のむ工藤


工藤:殺すつもりなんてないですよ。

作家:じゃぁ工藤さんは悪質なファン、ストーカーってことでいいかな。

工藤:正解です。

作家:警察

工藤:それは少し待ってください。


作家:少しでいいの?

工藤:いえ、まぁ…むしろ待たなくてもいいですが、無意味です。


作家:今ここで『この人ストーカーです」って叫んでもいいかな

工藤:それはなかなか、困りますね

作家:(大声を出そうと息を吸い込む

工藤:(手で制す工藤)頭のおかしな人と一緒にいると思われるのはいただけない。


0:吸った息をため息にするエト


工藤:「普段から種明かしのシーンは犯人が輝くように丁寧なセッティングをする先生のことですから…

場所を変えませんか。」

作家:…「ちなみにどちらへ?山奥やら岬やらに行くつもりならお断り。せめて死に場所は死体が見つかる

ところがいい。」

工藤:ハハ

作家:「死体を見て…
    探偵に、推理してもらわないと。」


0:場転


鷹司:(ため息をつく

給仕:何読んでるんですか?

鷹司:これ

0:本の表紙を給仕に見せる鷹司

給仕:え、なんて読むんですかこれ、、、しょうてんざくら?

鷹司:まてんろう。どうやったら…?

給仕:まてんろう?萬天樓(まんてんろう)さんと関係ありますかね?

鷹司:あ、晩御飯は久しぶりに中華にしようか

給仕:え!やったー!流れからして萬天樓さんですか?!

鷹司:そうだねぇ

給仕:あ、でも今日祝日ですよ?あいてますかね?


0:勢いよく開け放たれる扉


夢花:ダカズカサん!

給仕:あームンファさんちょうどいいところに!

夢花:うんうん!ココいいところ、わたしもそうおもう

鷹司:今晩、あそこの予約取りたいんだけど…

夢花:アー!あの部屋ネ!イイヨー!今日はダレもこないダカラ

給仕:やった〜!楽しみ〜

鷹司:どうせなら夢花さんも一緒にどう?

夢花:ダカズカサんのモチ?

給仕:もち?

鷹司:もちろん、僕が持つよ。奢り。

夢花:なら食べるヨ〜したい話モある

鷹司:うんうん、だろうなと思って

夢花:何時がイイ?

鷹司:いつでも

夢花:おっけいね。今聞いてみるだから…(携帯を操作しながら)もしかしたらすぐ行けるカモだ。

給仕:え、今すぐ?じゃぁ私お腹空かせないと…

夢花:いつでも言ったのダカズカサン!

給仕:あ!いや、私はいつでも大丈夫です!

夢花:日本人いつも大丈夫じゃないくてもダイジョブダイジョブ言う!どっち?!ダイジョウブカ?!ダイジョウブジャナイカ!!ダカズカサン!!

給仕:あわわ…興奮してどんどん言葉がカタカナに…

鷹司:(本の続きを読んでいる鷹司)

夢花:オイ、頼み事しといて本読むはナイだ。親指落とすねケジメつけロ!

鷹司:あぁ、ごめん

夢花:ンモ!奢るじゃないならパンチだった!


SE:携帯の通知音

0:確認する夢花


夢花:ウン!今から行く!

給仕:えぇ?!は、早い…

夢花:時は金なり、早く

鷹司:行こうか、ちょっと待っててね。すぐ戻る。


0:支度をしに行く鷹司


夢花:オ、タカズカさんはほんとにダイジョブ

給仕:(情けない声)…鷹司さぁん…

夢花:ハァン…ナルホド

給仕:?

夢花:ダカズカサん、アレだ、高いご飯“持つ”の怖くテ、お腹いっぱいのヒナタ、ツれて行く。

給仕:む。鷹司さんはそんなケチじゃないですよ!?

夢花:阿、じゃ、どしてヒナタのダイジョブがダイジョブジャないでアルだと…ん?ヒナタの、ダイジョブ、ソウ、ダイジョブデハない、ん?(話してるうちにわからなくなる夢花)

給仕:本読んでる鷹司さんに話しかけちゃって、その時にムンファさんが来たので…続き読みたかっただけだと思います。

夢花:ア?本?


0:給仕の目線の先にある本を見遣る夢花


夢花:アー!摩天楼(モーティエンラウ)ね!

給仕:知ってるんですか?

夢花:読んだね!

給仕:え、すごい!あ、いや鷹司さんが中国語で読んでるのかな…


0:本をパラパラとめくる夢花


夢花:ンー、これ日本語ねぇ

給仕:ひぇ〜…ムンファさんすごい…鷹司さんの読む本難しそうなのに

夢花:普段は本とかよまねぇだけど…この作者有名カラ、チャイニーズバージョンある。ソレで読んだよ。翻訳もキレイ。オモロしい。

給仕:どんな話なんですか?

夢花:ンーそんなムズカシ話じゃない。短く読む、「アーおもろしかた!」。

給仕:へー!じゃぁ読んでみようかな!

夢花:もしかしたら日本語だけわかる冗談あるカモだが…バカでも楽しむできるお話ね!リポーターの真似したヒトゴロシが作家にコンニチワ、殺すチャンス狙う、

給仕:あぁっ!ネタバレ!

夢花:どんな話か言うてそれハないや。

給仕:ネタバレしないでどんな話か教えて欲しかったんですよぅ…大まかに…

夢花:ごめん無理だ。で…

給仕:あー!あーー!!(次のセリフ中も喚き続ける

夢花:デモ、ヒトゴロシは殺す予定なくて、ただ作家の再現してる、last battleが摩天楼だから摩天楼ネ。

給仕:あーーーーーーーーーー

夢花:マ、トニカク、オモロい話


0:鷹司戻ってくる

鷹司:お待たせ

夢花:ソレジャ、行くか。安心しろタカズカさん。

鷹司:ん?

夢花:ヒナタ、頭いっぱい使ったカラお腹ペコペコだ。


0:場転

0:中華料理店の個室


作家:…ご馳走様

工藤:お口に合いましたか?

作家:味は、なんだかよくわからなかった気がするけれど。

工藤:ハハ、でしょうね。

作家:…

工藤:どこまで分かりましたか?

作家:うーん…

工藤:先生の推理が今日の、この食事の支払いです。

0:真剣な面持ちで工藤を見据えて考える作家

作家:…

工藤:…

作家:…何も…わからない。

0:…

工藤:…っ、ははは!

作家:(ため息)情報を握ってる方は余裕だね…こっちは殺される可能性を捨てきれずヒヤヒヤしてるのに…。この一週間で分かったことなんて、君が私の作品のファンなことぐらい。

工藤:それは伝わりましたか

作家:伝わるよ!熱心なファンでも、ここまでセリフを一言一句正確に覚えてられない。だいぶ重症なタイプのファン…

工藤:「いつ気づきましたか、私が記者じゃないことに」

作家:取材依頼の第一声…いや、それは嘘かな。『工藤と言います』。その第一声で自作品をちらと思い出して…記者じゃないと確信したのは聞き覚えのあるセリフが君の口から出てきて…作品の筋書き通りの返事をしたら筋書き通りの返事が返ってきた…。今だって…うん、すごい、不思議な気分…

工藤:「記憶力には自信があるんです」

作家:そろそろ教えてくれても良いんじゃないの?工藤さん、あなたが一体何者なのか。


0:勿体ぶる工藤


工藤:先生、

作家:…

工藤:摩天楼、面白かったです。

作家:え?あ、あぁ、それは、どうも。うん、だいぶ気に入ってくれたんだろうなとは思ったけど…

工藤:先生も僕のファンだったんですか?

作家:…?

工藤:ふふ、初めまして。僕は、「豚」と呼ばれています。

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