ブロックチェーンのトリレンマとシャーディングの基礎
はじめに
ブロックチェーン技術は、その分散型で誰もが信頼できる特性から、暗号通貨の世界だけでなく、ファイナンス、ヘルスケア、サプライチェーンなどの多くの業界に大きな影響を与えています。しかし、この革新的な技術は、まだまだ大きな課題に直面しています。その一つが「ブロックチェーンのトリレンマ」です。ブロックチェーンのトリレンマとは、セキュリティ、スケーラビリティ、そして分散化という3つの要素のバランスをどのように取るかという根源的な問題で、未だに解決できていないブロックチェーンにおける大きな課題になっています。
しかし、近年はそのトリレンマを解決できる技術として、「シャーディング」という概念が注目を集めています。シャーディングは、データベース技術から生まれたもので、分散化やセキュリティを維持しながら、ブロックチェーンのスケーラビリティを向上させる可能性を秘めています。実際に、イーサリアムは、2023年の後半にはシャーディングをリリースする予定とするなど、今後のブロックチェーンにおいて重要な技術となっていくことは間違いないと思われます。
この記事では、ブロックチェーンの仕組みを簡単には理解しているが、シャーディングという概念についてはまだ詳しく知らないという方を対象に、ブロックチェーンのトリレンマとシャーディングの基本について解説していきます。
ブロックチェーンのトリレンマ
ブロックチェーンのトリレンマは、ブロックチェーンが直面する根源的な問題で、以下の3つの要素、すなわちセキュリティ、スケーラビリティ、分散化の間のトレードオフの関係を指します。
1. セキュリティ
ブロックチェーンの安全性は、複雑な計算問題の解を見つけることで確保されています。この計算問題を解くことで、ハッシュを生成し、それをブロックチェーンに追加することができます。しかし、このプロセスは大量のコンピューティングリソースを必要とします。そのため、攻撃者がネットワークの制御を取るためには、彼らもまた同様のリソースを持っている必要があります。このようにブロックチェーンでは計算量を必要とすることで、ブロックチェーンは安全性を確保しています(PoWの場合)。
2. スケーラビリティ
スケーラビリティは、ネットワークの能力が増えるとともに、そのパフォーマンスも同様に増える能力を指します。しかし、ブロックチェーンはすべてのトランザクションをすべてのノードで検証するため、大規模なネットワークではスケーラビリティが問題となることがあります。つまり、ネットワークの規模が大きくなるにつれて、そのパフォーマンスは低下し、トランザクションの処理速度が遅くなる可能性があります。
3. 分散化
ブロックチェーンの最大の特徴の一つは、分散型で運営されているということです。すなわち、ブロックチェーンシステムにおいて、データはネットワーク全体に分散して保存され、誰もが同じ情報を持つことができます。これにより、シングルポイントオブフェイラー(単一障害点)がないため、攻撃者がネットワークをダウンさせることは困難になります。一方、分散化はコンピューティングリソースの必要性を高め、ネットワークへの参加ハードルを上げる可能性があります。
これらの3つの要素は、お互いに相反する特性を持っているため、全てを最適化することは現状では困難であり、これがブロックチェーンのトリレンマと呼ばれる所以です。セキュリティを高めようと思うとトランザクションの処理に時間がかかってしまい、スケーラビリティが損なわれる可能性がある。では、セキュリティを高めたまま、スケーラビリティを高めようとすると分散性が犠牲になってしまい、ブロックチェーンの大きなアイデンティティが失われてしまう。
このように、3要素のどれかを優先すれば、どれかを犠牲にしなければいけないというのが、ブロックチェーンのトリレンマであり、ブロックチェーン普及に向けての大きな課題になります。
シャーディングとは
シャーディングとはブロックチェーンのスケーラビリティの問題を解決する可能性を秘めたテクノロジーの一つになります。元々シャーディングとは、データベース技術において、大きなデータベースを複数の小さな部分(シャード)に分割し、各シャードが独立して動作できるようにするという技術です。この技術をブロックチェーンデーターベースにも応用したものが、ブロックチェーンの文脈における「シャーディング」になります。このシャーディングを導入することにより、全てのノードが全てのトランザクションを処理する必要がなくなり、スケーラビリティが大幅に向上します。
シャーディングのメカニズム
それでは、具体的にシャーディングのメカニズムを理解するために、以下の流れを考えてみましょう。
トランザクションの割り振り
ブロックチェーンネットワークは、各シャードにトランザクションをランダムに割り振ります。シャードとは、ネットワーク全体のデータと計算能力を部分的に含む小さなサブネットワークのことを指します。トランザクションの割り振りにより、トランザクションの負荷は全体に分散され、ネットワーク全体の処理能力が向上します。バリデータの割り当て
同様に、バリデータ(ノード)も各シャードにランダムに割り当てられます。バリデータは、割り当てられたシャードに流れてきたトランザクションだけを検証し、検証されたトランザクションはブロックにまとめられます。これにより、個々のバリデータが処理すべきトランザクション数が減り、全体としてのネットワークのスケーラビリティが向上します。ブロックの生成と追加
各シャードで検証されたトランザクションがまとめられたブロックは、それぞれのシャードチェーン(ブロックチェーン)に追加されます。これらのシャードチェーンは、全体の状態を保持するメインチェーンと連携して動作します。全てのシャードチェーンの状態は定期的にメインチェーンにリンクされ、全体の一貫性が保たれます。
以上の流れが、ブロックチェーンにおけるシャーディングの基本的な考え方になります。
シャーディングは、各バリデータが一部のトランザクションだけを処理することで、ブロックチェーン全体のトランザクション処理能力を向上させつつ、各バリデータの負荷も軽減します。また、各シャードは独立して動作するため、一つのシャードに問題が発生しても他のシャードの動作には影響を与えません。
しかしながら、ブロックチェーンのトリレンマを解決するシャーディングは新たな課題も生み出します。
シャーディングとセキュリティ
シャーディングはその概念上、一部のノードだけがトランザクションの検証を行うため、セキュリティに対する懸念が大きくなります。
その主なものが、攻撃者による特定のシャードへの集中攻撃です。51%攻撃と呼ばれるこの種の攻撃は、攻撃者がネットワークの過半数のハッシュパワーを制御すると、ブロックチェーンのコンセンサスを操作できる可能性があることを指します。
全体のブロックチェーンではなく、シャード単位での攻撃を考えると、攻撃者がそのシャードの過半数のハッシュパワーを制御するために必要なリソースは、全体のブロックチェーンに対する51%攻撃よりもはるかに少なくなります。これは、シャーディングがもたらす新たなセキュリティリスクと言えるでしょう。
しかし、このリスクに対する対策はいくつか提案されています。
一つ目が、ランダム性を導入することです。これは、バリデーターをランダムにシャードに割り当て、頻繁にシャード間で移動させることで達成されます。ランダム性の導入により、攻撃者が特定のシャードをターゲットにするのを困難にし、シャードの支配を維持することを難しくします。
また、クロスリンクと呼ばれる技術もあります。これは、各シャードの状態を定期的にメインチェーンにリンクすることで、シャードがメインチェーンのセキュリティに依存できるようにするものです。これにより、攻撃者が特定のシャードを攻撃するためには、メインチェーン全体を攻撃する必要があり、これは非常に大きな計算能力とコストを必要とします。
以上のような手段により、シャーディングはスケーラビリティを向上させつつも、セキュリティの問題を解決しようとしています。しかし、これらの解決策が実際の運用でどの程度有効であるかは、未知数なところも多く、シャーディングにおける一つの課題であると思われます。
まとめ
今回は、ブロックチェーンの処理において重要になるシャーディングという概念を取り上げました。
シャーディングは、ブロックチェーンのスケーラビリティ問題を解決する有望な解決策の一つであり、一部のトランザクションだけを各バリデータが処理することで、ブロックチェーン全体のトランザクション処理能力を向上させるとともに、各バリデータの負荷も軽減します。
一方、各バリデータ―のリソースが減ることにより、51%攻撃が容易になるなど新たな脅威が生まれてしまうのも、課題の一つです。
それでも、各シャードが独立して動作するため、一つのシャードに問題が発生しても他のシャードの動作には影響を与えられないなどは、シャーディングがもたらす耐障害性の向上に寄与します。
結論として、シャーディングはブロックチェーンの可能性を一段と広げる技術と言えるでしょう。スケーラビリティとセキュリティのバランスを適切に保つことで、ブロックチェーンはより大規模なアプリケーションやサービスでの活用が可能となり、ブロックチェーンコミュニティの発展につながると思います。
このブログが、シャーディングやブロックチェーンを勉強するうえで、参考になってくれたら嬉しく思います。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。