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歴史に学べば人生が面白くなる

「大丈夫です。やれます」

フロア全体を占めるオープンなオフィスの片隅に、
そこだけが空間を区切られた小部屋がある。
あの頃、その密室でどれだけ涙をこらえただろう。


2018年になって会社の組合から支部役員をやってほしいと指名が来た。
当時私は36歳。いわゆる脂がのった時期で非常に多くの仕事を抱えていた。
上司からの信頼も厚く、重要な仕事をいくつも任されている状況。

順風満帆だと思っていた。
でも、その小部屋で放ったたった一言で歯車が狂いだした。

「組合の役員、受けようと思うんです」
上司に一応相談したところ、明らかに顔色が変わった。
「そんなことしてる場合じゃないでしょ。やってる余裕ないはず」

当時の私は自分のキャパをわかっておらず、
できないと言えない困った若造だった。

「大丈夫です。やれます」

それまでだって、決して仕事を断ったことはなかったんだもの。自分なら出来るはず。

苦虫って見たことはないけど、たぶん噛みつぶしちゃったんだろう。
上司はひどい顔で「ぼくならやらないよ」と言い捨て小部屋を去った。


結局私の意志は関係なく、翌日には上司から組合に断りの連絡が入っていた。

そしてそこから『上司の言う通りに動かない問題児』のレッテルが張られ、それまでの蜜月の関係が嘘のようにぎくしゃくした関係になった。

半年ほど経つと、上司との関係はさらに悪化し、日常のちょっとしたことで叱責を受けるようになっていた。

右足から歩き始めようとしただけで、左足からだろ!と怒鳴られる。
もはや何をやっても怒られる。息するだけで怒られる。

その状態に耐えかねて私は海外に逃げ場を求めた。
上司から離れたい一心で留学先を探し、幸いにもアメリカのUCSDに1年半行くことが決まった。

上司も私の顔を見たくなかったのだろう。
その時ばかりは小言も沢山言いながら、留学に必要な手続きをサポートしてくれた。

大学との手続きも完了し、ビザも無事取得した。
当時3歳だった子供と妻とで夢のアメリカ生活だ。
家財の半分を船便で送りだし、あと1か月で出国するとなった時。


コロナウイルスのパンデミックが発生した。


結局そのまま留学の話は白紙になった。
三密、ステイホームが基本となり、実験室で仕事をしてなんぼの我々研究員は、はっきりいって仕事にならなかった。

毎日家で論文を読んだり、パワポの資料を作っていると上司から突然電話がかかってくる。
まだ小さい子供は電話中だろうがお構いなしに横で話しかけてくる。
その声が上司の耳に届くと「こどもが仕事の部屋に入ってこないようにどうしてできないんだ!」と怒鳴られる。

ステイホームが解除されれば、例の小部屋に呼び出され毎日怒鳴られる。
しまいには、他の同僚がいる前で能力が足りないだのなんだのとねちねち言われる。

もう限界だった。

徐々に酒の量は増え、現実から逃げたい気持ちでいっぱいだった。


そんなある日、ふと「最近音楽聞いてないな」と思った。

学生時代はそれこそ音楽を聴くことが趣味の一つだったのに、育児と仕事に追われるうちにすっかり習慣から抜け落ちていた。

無料で聞けるアプリを検索し、spotifyをダウンロードした私は、音楽だけじゃなくてpodcastの番組も入っていることを知った。
何気なく番組リストを見ていると、楽しそうな雰囲気の番組を見つけ、本当に無意識にその番組を聞き始めた。

軽快なトークで進行する樋口さん、そして歴史に超詳しい深井さんとヤンヤンさん。

スマホの向こうでは御三方が楽しそうに吉田松陰について掘り下げていた。

それがコテンラジオとの出会いだった。

これまでの人生で歴史が面白いなんて思ったことはほとんどなかった私は、その内容に衝撃を受けた。

教科書なら数行で飛ばされていくような出来事も、その時代背景を理解し、人物の生い立ちを理解した上で聞くと全く面白さが違う。
まるでドラマを観ているかのようだった。

これは深井さんとヤンヤンさんがそれこそ何十冊と文献を読んで全体を掴んだ上で話してくださるからこそ成立しているのだが、そんな内容のとっても濃い番組に出会ってから、毎日の通勤のお供がコテンラジオになった。


会社が辛いのは変わらないけど、楽しみが出来たことで幾分か気持ちが楽になった。


吉田松陰の破天荒さに笑い、スパルタという国があった古代ギリシャの価値観に驚き、始皇帝の有能ぶりに感嘆した。


聞いていてわかったのは、深井さん達は単に歴史の面白さを伝えてくれるだけではなくて、現代社会で起こる様々な問題やストレスを乗り越えるために必須の考え方を教えてくれているのだということだ。


例えば対人関係で悩んでいるとき、相手の背景(立場や生い立ち、性格など)を知ると何故相手がそんな態度なのかが少しわかる。
もちろん他人なのでどうやっても理解できないけれど、少し歩み寄って相手の目線で捉え直すことができる。
あるいは、歴史上で似たような人物関係があれば、自分のとるべき行動などを客観的に捉えることができる。
これをメタ認知というそうだが、コテンラジオを聞いているうちに、自然と『パワハラ上司』の気持ちに立って物事を捉え直す事ができるようになった。


上司は30人ほどの部下を抱える責任ある立場だ。
その中で各メンバーに期待する役割があって、部署として会社に貢献するための計画が彼の中であっただろう。

そんな中で私が突然業務以外の組合に手を出すと言い始めたり、コロナで部署の仕事ができなくなったり、と次々に計画を変更せざるを得ない状況になって、上司も不安だったんだろう。

背景はある程度理解出来たし、その上でやはり、パワハラという言動は許せないとも思った。

それまでは自分に全て責任があって、「できない自分が悪いのだ」という気持ちになってしまっていたのが、コテンラジオでエネルギーをもらい、自身の置かれている状況をしっかりメタ認知することで、会社と組合に相談するという行動をとることができた。


その結果上司と離れることができ、危うく全てを投げ出しそうになる前に踏みとどまることができた。


パワハラに悩む自分を支えてくれたのは間違いなくコテンラジオだった。


そこから深井さんとヤンヤンさんの会社、株式会社COTENにも興味が湧いた。

コテンラジオの中でも会社の紹介をされていたことがあるが、この会社の面白いところは、歴史のデータベースをつくっていることだ。


例えば関ヶ原の戦いという出来事に興味があればその時の時代背景や登場人物がどんな人達だったのかをクリック一つで知ることが出来る。

あるいは、上司にいじめられてしんどい思いをしていた歴史上の対立構造にはどんな例があったのかを検索できる。

歴史上のできごとと、そこに存在する人々。

それらをつなぎ、だれでも簡単に理解出来る夢のようなデータベースを社会実装する。


そんな途方もないことをやろうとしているのが株式会社COTENだ。


私はコテンラジオを聞いて、先が見えなくてどうしようもない闇の中に光を見出し、人生が軽くなった。
そんな私がしたような経験を世の中に広めていく。


なんて面白い会社なんだ!


株式会社COTEN。それがわたしイチオシの会社だ。


ちなみに、深井さんがnoteを始めたよ、というのを聞いて私はnoteの存在を知った。


当時は読む専門だったし、アカウントすら作らなかったのに、今こうして毎日noteの世界を楽しんでいるのもまた面白い。



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