
1人追いかけ再生工場 ⑰ 『ゆるくスポーツに向き合ったっていいじゃないか』
生まれつきスポーツは苦手だった。
大学の文学部で教授をしている父と、羊毛フェルト作家の母。思いっきりインドア派の2人から生まれた私は、当然スポーツに必要なパラメータはゼロに等しかった。
小学生の頃はとにかく体育全般がダメだった。
走るのも遅いし、鉄棒とかなわとびとか水泳とか、どれもできない。
でも性格上、できないものを認めることもできなかった。
運動会となると、母は立派なお重のお弁当を用意してくれた。そんな母を喜ばせたくて、一生懸命練習に励んだ結果、本番前日に怪我をするのが関の山だった。
中学生になって、メンデルの法則を生物の授業で習った時、思わず声が漏れた。
「あぁ遺伝子ってちゃんと働いてるんだなぁ」
それからしばらくあだ名がメンデルちゃんだった。
メンデルちゃんのくせに、遺伝子に抗おうと、できないスポーツに励む私を見て、父はいつも言っていた。
「ミキ?スポーツができなくても大人になれるんだよ。パパもママも何も困ってない。だからもっと力を抜いてゆるく考えたらどうだい?」
父はそういうけど、まん丸い体にメガネをかけて、冬でも汗をかく父は、思春期の女子からすると「だいすき、パパ」とはもう言えなかった。
当時は出来るだけこの人とは違う人生を歩みたい、と本気で思っていた。
そんな私がインターハイの代表選手に選ばれるなんて。やはり努力は裏切らないのだと知って、嬉しかった。
そして迎えた当日。
私は片道2時間の電車にゆられ、そこから歩いてさらに30分。
ようやく大会の会場にたどり着いた。
会場の入り口にはしっかりとこう書かれている。
第十二回 全国高校総合変態道大会
日本中から変態道を極めるべく、練習してきた猛者が集まる大会。
毎年ここからプロの変態家も現れるとあって、メディアの注目度も高い。
何より高校生活で最もハイレベルな大会だ。
そこに選手として選ばれること自体、誇れることだった。
「さぁ、伝説の始まりよ」
私は自分を奮起すべく、わざと独り言を大きな声に出し、会場へと足を踏み入れた。
周りにいる選手たちにもその声は聞こえていたはずだが、皆ニヤニヤとするだけで、誰も気にしていない様子だった。
◇◇◇
第1回戦
私はまさに今、初戦の相手と向かい合っている。
相手は頭にゾウのジョウロを結びつけている。
「ラッキィ池田流か」
オーソドックスだが、隙がなく古くから愛される流派だ。
だが、オーソドックスということは、似たような変態家とは何度も戦ってきたということ。
脳内で相手の最初の一手を何パターンもシミュレーションする。
チャリン
私の靴下についた鈴がなる。
武者震いだろうか。
「はじめっ!!!」
審判の合図の声とともに、私は纏っていた服を脱ぎ捨てた!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
本田すのうさんの企画『下書き再生工場』では、下書きに眠るフレーズ、タイトルをもとに参加者みんなで記事を再生してきました。
その時に出てきた60個もあるネタを、たった1人で再生し続けるシリーズです。
こちら、先を走るゆったんの作品です。
リアリティもあってとても面白いお話でした。
毎回先に読んではこれとは違う路線かぁ、と考えるので大変です💦
最後まで読んで下さりありがとうございました😊
いいなと思ったら応援しよう!
