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京都の中心で愛を叫ぶ 小さな恋の物語
「好きです!あなたのことを幸せにする自信があります。付き合ってください!!」
ドラマか何かと振り返る人々。
四条大橋のど真ん中。
叫ぶ男と戸惑いを隠せない女の子。
私のせいで渋滞が発生している。はっきり言ってめっちゃ迷惑だ。
でもそんなの関係ない。
「マイトン先輩、ワタシはーーーー」
🟰🟰🟰🟰
3年半という交際期間を経て前の彼女とはお別れした。
ーーーはずだったがその後も微妙な距離感を保ちながら徒に時間は過ぎて行った。
その間積極的に出会いの場に身を置いたが、どうにも元カノを忘れることができなかったのは事実だった。
私はその間に修士課程に上がり研究室には新しく3人の新四回生が配属されてきた。3人とも女の子でキャラは三者三様。ギャル系におっとり系にボーイッシュ。
私はそのうちボーイッシュなSちゃんの指導係に任命された。ベリーショートのSちゃんは身長170センチを超えスラリとしたモデル体型。ヒールを履くと180も超えるから見上げる形になる。女子校だときっとファンクラブができるようなカッコ良い女子だった。
快活なSちゃんは私にとって新鮮で毎日研究室で顔を合わせるたびにくのいちの影が薄くなっていったように思う。
そして私がバイトしていた薬局にたまたまSちゃんも入ったことで研究室以外にバイト先でも顔を合わせる機会が増えていた。
平日夜の薬局は忙しくてバイト同士で会話する余裕はない。
でも土日のシフトは比較的お客さんもまばらでゆっくり仕事ができた。
仕送りもなく奨学金で生計を立てていた私は少しでも稼ぎたくて土日のシフトを積極的に入れていた。そしてSちゃんも同じく土日にシフトを入れるタイプだった。結果的にゆったりしたバイト時間に色々と話す機会が増えて行った。
「休みの日何してんの?」
「バイトですよ〜 入れれるだけシフト入れちゃいました!てか先輩一緒やし笑。あ、でも暇な日は母とお買い物とかですかねぇ」
後で知ったことだが、Sちゃんのお父さんは難病で亡くなっていたらしく、残された母娘のキズナは強かった。
「じゃあさ、今度の土曜のバイトの後、映画とかいかへん?美味しいご飯も…」
この時私の中でSちゃんのことをお付き合いする対象と見ていたかというと5割くらいだったと思う。研究室では実験を教える師弟の関係。バイトでも他愛のない会話をする中で、彼女が映画好きであることや、美味しいご飯を食べるのが好きなことくらいしか情報は無かった。ただ実験もバイトも一生懸命取り組む彼女を毎日見ていて応援したくなる気持ちは日に日に大きくなっていることを感じてもいた。
もう少し彼女のことを知りたい、そんな程度のデートのお誘い。
断られても仕方ない。あれ、ただその場合師弟関係が気まずくなるのか?ナチュラルにお誘いしてしまったがちょっとまずかったか?
一瞬彼女が沈黙する。
慌てて言葉を重ねる。
「あ、急にごめん。お母さんと遊ぶ日じゃなかったら空いてるかな、とか思って」
と言い訳にもならない意味不明な言葉を発する私にSちゃんは笑って答えてくれた。
「いいですよ。その代わり映画とご飯は私が決めますよ!」
百点満点の回答を貰い、その日はウキウキしてバイトを終わらせた。
🟰🟰🟰
そして迎えた土曜日。午前中は2人でバイト。終わってから四条のMOVIXに向かう。
何の映画を観たか正直覚えていない。
大学で見ていた彼女、バイト先で見ていた彼女、街中で横にいる彼女、どれをとっても裏表のない女性だということが分かり、過ごす数時間の間にSちゃんに対する想いがどんどん大きくなっていった。それだけは覚えている。
映画の後は普段食べに行かないお店がいいと言う漠然としたリクエストに応えてカジュアルフレンチのお店を予約していた。
出てきた料理の見た目と味に感動し、コロコロ笑うSちゃん。こんなに喜んでもらえるとは。Sちゃんと食べると2倍美味しく感じられる。
私の方こそ楽しかったよ。
そう、とても楽しかった。変に相手の気持ちを推し量る必要もなく自然体でいられる。
好きかも、Sちゃん。
そして楽しい時間は終わりお会計をすませる。
今日は奢りだよ、と伝えると「いやいや、半分払いますよ」と焦るSちゃん。
誘ったのはこっちだし払わせて、と伝えると「じゃあ、ご馳走様です!美味しかったです😊」と返してくれるところも百点満点。
このまま今日別れていいのか。
私自身もついさっき気付いた好きという気持ち。
これを彼女に伝えなくていいのか。
いや、流石に最初のデートでその急展開はないやろ。
いやいや、思い立ったら即行動、がマイトンでしょ。今日の感じならいけるって!
私の中で保守派と過激派がお互いの主張をぶつけ合う。
Sちゃんは京阪電車で実家に帰るが私は丸太町の下宿に戻る。
お店を出るとそこでお別れだ。
「楽しかった。また行こう」
「またいきましょうね」
なんて笑顔で別れの挨拶を交わして彼女の後ろ姿を見送る。
少しずつ遠ざかる後ろ姿を見ながら再び保守派と過激派が激論を始めた。
ほら、Sちゃん帰ってまうやん。どうするねん?
今日はこれで終わったらいいやん。普通そうやろ。また週明けには研究室で会うんやし、いくらでもこれからチャンスあるって。
至極真っ当な意見を言う保守派。
そうだよね、今日は楽しかったし初めてのデートとしては本当に申し分なかった。普通はこのまま帰宅してメールで少しやりとりして余韻を楽しむよね。
と、ここで『普通じゃ嫌だセンサー』が大きく反応を始める。
お前の人生、普通でいいのか?
人と同じでいいのかよ?
ほら、帰っちゃうぞ彼女!
今すぐ追いかけろ。
ほら、早く。
走れ!
は!し!れ!!
一分程度の葛藤の後、私は走り始めていた。
自分でも分からない。
何かに突き動かされる感覚。その初めての感覚に戸惑いながらも走る。
走ると言っても人通りの多い時間。
人混みをかき分けてSちゃんを追いかける。
いた!
Sちゃんだ!
「Sちゃん!!!」
不意に後ろから声をかけられて立ち止まるSちゃん。
「どうしたんですか?ワタシ忘れ物しました?」
そうだよ大事なことを言い忘れていた。
「?携帯はあるしなぁ」
違うよ。忘れたのはそれじゃない。
「違うねん。さっき言い忘れたことがあってーーー。」
きょとんとするSちゃん。
大きく息を吸い込んで想いを吐き出す。
「好きです!あなたのことを幸せにする自信があります。付き合ってください!!」
どこかでその言葉を待っていたのかもしれない。Sちゃんはこう切り返す。
「マイトン先輩、ワタシは今誰かとお付き合いするとか考えてないんです。
ちょっと前にお別れしちゃってそんな気分にはまだなれない。
でも今日は楽しかったです!また来週からよろしくお願いします。」
帰ろうとするSちゃんに食い下がる男。
「そうやったんや。でも、おれSちゃんを幸せにする自信ある。絶対後悔させへん!だから付き合ってほしい!」
なんの具体性もない提案。
「ふふ。珍しく大風呂敷広げますね。そこまで言うなら分かりました。考えさせてください。」
そう言って今度こそ帰り始めたSちゃんの後ろ姿を見送るのだった。
🟰🟰🟰🟰
最後まで読んでくださりありがとうございました。
当時の気持ちを丁寧に書こうとすると三千字になってしまいました。とりあえず冒頭の告白までは回収できてよかった。
あれ、今回笑い無しでしたね。まいっか。
こちらは続き物になっています。
前回のお話はこちら。
書いてて思いました。
暑い夏!恋がしたい!!なんてね。
需要がありそうなら続き書きます。
くのいちアンコールの声が大きければまた18禁投下します😆
気に入ってくださったらスキやコメント、フォローなどいただけると嬉しいです。
皆さんの1日が笑顔と安心で満たされますように。
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