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下書き再生工場跡地に現れる少女

ジャリ

乾いた砂を踏む音が聴こえるくらい静かだ。
当たり前だ。目の前にある建物には人の気配もない。
そもそもこんな辺鄙な場所に訪れる人もいない。

ここはかつて再生工場と呼ばれた場所。

この地にまた戻ってきてしまった。




この夏、お仕事案内所の掲示板に突如貼られた紙には『匠募集。下書き再生工場』とあった。

期間は短かったが、募集要項には『未経験でもOK。シフトは相談可能。』とある。

私は目が悪い。そしてあまり集中力がない。だから文字の読み間違いを頻繁にやってしまう。

この時も完全に『下ネタ再生工場』と読み間違い、「あ、面白そう」と何も考えずにすぐ連絡先に電話をかけていた。


工場長のすのうさんはとても素敵な女性だった。
まさか女性とは思っていなかったので持病の挙動不審が暴れるのを抑えるのに必死だった。

工場長は作業服という地味な出で立ちにも関わらず、目を瞑ればバーのカウンターでマティーニに唇を付け、残ったオリーブをいたずらっぽい目で私に差し出す光景がありありと想像できた。その視線に耐えきれず私は下を向きながらハイボールのダブルを一気に流し込み完全に酔い潰れていた。初見でこんなビジョンを魅せてくる女性は初めてだった。妄想から我に返ると、すのう工場長は爽やかな笑顔で私を採用してくれた。
「オリーブはいただいてもよろしいですか?」と訊ねると「なんのはなしですか?」と工場長は怪訝な顔で返した。

やった。すのう工場長と一緒に下ネタを再生できる。

そして私はほどなくして渾身の下ネタを生み出し、その結果あっさりと工場から放り出された。


工場をクビになって改めて募集の紙を見ると、ここは『下書き再生工場』だったということを初めて知った。

確かに私以外の工員は真面目に面白い作品を生み出していたのでようやく合点がいった。


その後、工場は予定していた作品全てを納品し、その役目を終えたと風の噂で聞いた。


「もっと工場長と遊んでいたかった。もっと再生できる下ネタがあったのに。」

私は場違いな後悔の念にかられ、新たな職につけないまま漫然と日々を過ごしている。



そして、気がつけば再びあの工場に来ていた。


ほんの少し前までは多くの工員と、納品物を運び出すトラックで賑わっていた工場も、今では人気もなく閑散としている。



私は正面玄関に向かった。

きっとドアは閉まっているだろう。


ドアから5メートルの距離まで近づいた時、その予想が外れていることに気付く。


わずかに隙間が開いているのだ。
俄に鼓動が激しくなる。
「だれか、、、いる?」


このまま引き返そうかと思ったが、万に1つ工場長が帰ってきていたら、と思うと自然と足は工場の奥へと向かっていた。


毎日のように作業していた部屋。当時はここで20名ほどの工員が働いていた。
動かなくなったラインの傍らには資料がそのまま残されているのが見える。


なんでそのまま?と思いながら部屋の奥に進む。


すると



っっ!?




息が止まるかと思った。



誰もいないはずの部屋。


そこには下着姿で一心不乱に作業する少女の姿があった。


傍らには既に出来上がった作品が1、2、、、6つもある。


「な、なにをしてるんですか?」



「修行……。」


ぽつりと下着姿の少女は答える。



「修行ってなんの?」



「ものがたり。完成したら私、アイドルになるの」



「ちょっと何言ってるか分からない。」



「……。」


「私と下ネタ再生、して、くれるかな?」



「いいとも!なんて言うわけないんだからね!したいなら勝手にすれば?!わ、わたし知らない!」


なんだか途端に愛おしくなり、私は横に落ちていた作業服を少女に羽織らせてあげた。
少女は震えながら、その手で作品を作り続ける。





もう、さいとうさんが傑作を出し続けているので感動のあまり書いてしまいました。

ほんと、面白いので読んでみて下さい。
シットするレベルです。




そして今日の勝手に紹介記事はこちら。

ほんとに勝手に紹介なので不都合でしたらおっしゃってください!でもあまりに素敵な記事だったもので即決でした☺️


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