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1人追いかけ再生工場 ⑪ 『若く見られて困ってます』

40年近く生きてきてずっと女性に縁のない人生だった。運動もダメでコミュニケーションも苦手だった私には勉強しかなかった。
かと言って勉強が得意だったわけでもなく、二浪してなんとか入った大学では気の合う友人もなかなかできなかった。
気が付いたら大学デビューする前に卒業していた。当然彼女なんてものはできることなく、強いて言うなら右手が恋人だった。

女性への興味は毛根の幹細胞くらい無限に湧いてきていたが、ムッツリ教(ムッ教)の熱心な信者である私は、そんな内なる助平SBを1ミリも出すことは無かった。
そのお陰なのか、真面目な国家公務員として就職し、この歳になるまで毎日なんの変化もない日々を過ごしていた。今のところ痴漢で捕まっていないことを考えると、内なるSBも表には出ていないのだろう。それもこれも毎朝ムッ教神に祈っているお陰かもしれない。

気付けば来年で40歳。このままでは田舎で暮らす両親に孫の顔を見せることもかなわない。周りがどんどん既婚者になっていく中でさすがに少し焦っていた。
そこで同期で一番仲のいいノムラに相談したところ、マッチングアプリを薦められた。アプリで婚活ってのも気乗りはしなかったが、登録してすぐにミキたんと出会った。

ミキたんに興味をもった理由はひとつだ。はっきり言って可愛かった。いや、可愛すぎた。

アイドルかと思う容姿で、見た目は10代後半だろうか。teen向けの雑誌にもよく出ているというのも頷ける。これで35歳というのだから、女性というのはわからないものだ。

街中で一緒に歩いていると誰もが振り返ってこちらを見てくる。
それはそうだ。いかにもアラフォーのおっさんと、女子高生と言っても違和感のない少女が手をつないで歩いているのだから。どう見ても親子、ではなく似ても似つかぬ2人はパパ活と思われているに違いない。

こちらとしてはいつ職務質問を受けるかとヒヤヒヤしているのだが、当のミキ本人はおもしろがって、今日も下着が見えそうな短いスカートを履いてきては周囲の視線を余計に集めている。横で私の内なるSBが外に出ちゃうのをぐっとこらえているとも知らずにS D   G      s  

そんなミキたんのことを周りに自慢したくて仕方なかった。どこに行くのもミキたんを連れていきたかった。
気がつくと周りにいた人たちがさぁーっと離れていったように感じたが、それも私のことを羨ましがってのことだと思いあまり気にはしなかった。
すると、ノムラがある日休み時間に話しかけてきた。

「おいおい、あの子はやめた方がいいぜ。お前、最近皆からなんて言われてるか知ってるか?寺西さんだぞ?」

「なんだよ、寺西って?」

「ローリー寺西だよ。あんな少女連れ回すなんていつか仕事クビになるぜ」

「忠告どうも。でもミキはおれと歳近いはずだから大丈夫!」

「まじかよ。それは怪しいなぁ。あ、そうだ。これ貸してやるよ」

ノムラが渡してきたのは1つの小さな手鏡だった。

どういうことだろう。ノムラに聞こうと思ったら休み時間の終わりを告げるベルが鳴ってそれ以上聞けなかった。


◇◇◇


家に戻った私は例の手鏡を覗き込んだ。
特に装飾もないシンプルな鏡。
そこに映るのは39歳の疲れた自分の顔だった。

そういや、最近鏡なんてちゃんと見てなかったなぁ。

こんなところにシワが。

あれ、もみあげに白髪交じってる?

自分の顔をまじまじと見つめていると、鏡の中の自分が突然右に視線を向けた。

なんだろう、と自分も右を向く。





あれ、今鏡の中の自分が先に動かなかったか?



すると、右へ向いた自分がそのまま鏡の外へフェードアウトした。



え?


残されたのは何も映らない鏡。


どういうことだ!?あわててノムラに電話する。


「おい、なんだよあの鏡?変なもの映ったんだが」

「あー、渡す時ちゃんと説明できなくてすまん。あの鏡に映ったものは真実の姿に戻るんだって。おれもそれ以上は知らん。知り合いから貰ったけど怖くて見てないから」

「なんでそんなものおれに?」

「いや、お前の目が覚めるかなって。最近明らかにおかしかったから。で、どうよ?何か変わった?」


確かに、私の中でミキに対する気持ちが3℃くらい下がった気がする。



◇◇◇

次の日、仕事が終わって帰宅すると鍵が開いていた。
ミキが部屋に来ているようだ。

連絡くれればいいのに。

前だったら急に家に来るのも嬉しくて仕方なかったはずなのに、なんだか煩わしい気持ちが大きい。

玄関に乱雑に脱がれたピンヒールも妙に気になる。ちゃんとそろえろよ。


1DKの狭い部屋だ。すぐにミキの後ろ姿が見えた。

「ただいま。来てたんだね」


「おかえりなさい」


そう振り向いたミキの顔は私が知っているミキの顔ではなかった。



「え?」



「ねえ。そこにあった鏡使ったんだけど、私が映ってたのに急にどっか行っちゃって。ねえ、どうしよう。なんなのあれ?」


ひどく怯えた様子のミキらしき女性。

見た目はちょうど40くらいか。ミニスカート姿に若干違和感を覚える。

「ミキ、、たんなの?」


「え、どういうこと?何言ってるの?それより鏡が変なのよ」


支離滅裂な掛け合いだったが、それで私は全てを察した。
そうか、これがミキの真実の姿なのか。


私と同じように鏡を見て、偽りの自分が何処かに消えたのだろう。


ひどく狼狽えた年相応の女性。
その姿を見て不思議と新たな気持ちが湧き上がってきた。

これまでミキを見てどこか無理をしているように感じていた。

それが自然体になって、確かに見た目は前ほど派手ではないけれど、確かな美しさがそこにあった。


「ミキ、好きだよ。今日も素敵だ」



怯えた様子のミキの顔に安堵の表情が戻る。

「もう、なによ。ふふ。もっと言って。一日十回は言って。私も好きよ」



ミキを抱きしめながら、真実の姿も悪くないなと思った。

鏡のおかげでやっとミキと通じ合えた気がする。



床に転がっている鏡には、しっかりと抱き合う2人の姿が映っていた。








こちらは変態再生工場です。
本田すのう工場長の下書き再生工場跡地にて、1人こつこつと変態を60体生み出す一大プロジェクトです。

そしてようやく⑪まで来ました。先はまだまだですね。

まずはオリジナルの再生品を紹介します。完璧に再生されてます。

さらに、その後1人で再生工場を始めたゆったんの作品はこちら。読んで以来ずっと瀬戸さんを探しています。あなたが瀬戸さんですか?あぁ、違いますか。


ではまた次の作品でお会いしましょう。


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マイトン@路地裏で遊ぼう
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