スポーツ・教育大国アメリカの「子どもの習い事」事情がヤバイ
先日、米国でも常にトップランクに入る南カリフォルニア大学でのセミナーに参加し、共同研究者の教授から興味深い話を聞いた。
「高校2年生のうちの娘はバレーボールをやりたくてね。
そのために中学の頃からクラブチームに入れて、週末や長期休みにはトラベルチーム(選抜チーム)にも入れて、今ようやく高校でもバレーボールができているんだ。
娘が高校でもバレーボールをやるために、年間$25000-50000(370-750万円)かけて習い事をさせ、平日の夜や休みの日には試合や練習の送り迎えをして、ここ数年旅行にも行けなかったんだ。
アメリカでは、もし君の子どもが高校でもスポーツをやりたいとなったら、小学校、中学校の頃から、いくつものチームに所属して、莫大なお金を投資しなければならない。だって、高校のスポーツ指導者が最初に聞くのは「君はどこのトラベルチームに所属していたんだい?」なんだ。
学校のクラブ活動だけではなく、地域や、さらに高いレベルのチームに所属していないと、鼻っから相手にもしてもらえず、高校でスポーツを続けることはできないんだよ」
この背景にはスポーツ大国、教育大国アメリカならではの事情がある。
近年、アメリカスポーツの中でも大学スポーツの盛り上がりが著しい。その理由は大学スポーツの「プロ化」が進んだことだ。大学のトップレベルのスポーツ選手は、学費が免除になるだけではなく、大学から給料が支払われるようになった。しかも限度額の設定がないため、本当に優秀な選手の給料はどんどん上昇している。
また、以前であれば他の大学に途中編入すると1年間は公式戦に出場できないというルールだったのだが、このルールも撤廃されたことで、大学間での選手の獲得競争が激化した。
これにより、以前はいくつかの有名大学にのみ集中していた優秀な選手が散らばり競技力の差がなくなったことで、全国で大学スポーツの力の均衡がとれ、それにより、より高いレベルの見ごたえのある試合が増えた。さらに、大学を中退してプロへ行く選手も激減し、卒業するまで大学へ残り活躍する選手が大幅に増加し、大学スポーツ人気は右肩上がりというわけだ。
アメリカ大学の学費高騰
そんな大学スポーツ界が視線を注ぐのが高校生の金の卵たち。
高校で注目され、活躍した選手は、無数の有名大学から声をかけられ、学費が免除になり、さらに大学に通いながらお給料を受け取れるという訳である。
年々上昇し続けている高い学費が免除になるならば、小学校、中学校、高校で年間数百万円投資して習い事をさせても惜しくはないと考えるアメリカの親は少なくないようだ。
セミナーのあった南カリフォルニア大学の年間授業料は$75000、日本円でおよそ1125万円、それにロサンゼルスでの生活費を足すと年に1500万円ほどにもなる。大学卒業までにかかる費用は6000万円にも上る。
中学校の習い事で年間300万円投資して、3年で900万円とすると、それで数千万円にもなる大学費用が免除になるのであれば、かわいい我が子の親としては、決して高くはないと感じているようだ。
こうした大学の動きはスポーツだけにとどまらず、芸術、音楽、ダンス、舞台などあらゆる分野にも広がっている。
そのため、親はまず我が子にさまざまなスポーツや文化系の習い事を体験的に通わせてみる。そこで可能性の高いものを一つ選び、その競技や分野に集中して投資し通わせていく。早い子だと、8,9歳ころには一つに特化して恐ろしいほど忙しく習い事に通っている。
アナハイムに住む親しい友人の子どもは水球を習っているのだが、学校から帰宅すると宿題を済ませてすぐに夕食をとり、夕方5時からの練習へと出掛けて行く。そして、友人の子が帰ってきたのは夜の10時過ぎ。この子はまだ10歳である。
友人曰く、息子がやりたいのであれば続ければ良いし、無理矢理にでもやらせるつもりはない。ただ、水球が好きで高校まで続けたいとなると、今から通わせておかないと、好きなスポーツを続けるのは難しいんだ。
友人の子と一緒に通っている子どもの親たちはそんなスタンスではなく、親が決めたスポーツをやらせ、食事からなにからなにまで徹底的にサポートしているらしい。
好きなスポーツや文化活動を続けるために、そこまでしなければならないとは、悲しく、なんとも恐ろしい。
こうした状況はロサンゼルスのような大都市ほどに加速しており、地域差はあるようだが、大学の在り方が変わった今、地方の田舎町でも同じようなことが広がっていくと考えられている。