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ハノイから200kmバイク旅「工場フェチ女子」と行くギソン(ニソン)製油所

※ロコタビで1人の女性からハノイの在住者(ロコ)に相談があった。相談内容はハノイからギソン精油所までの車を手配してくれる方を探しているだった。彼女は「工場フェチ」でハノイ旅行の1日を使って見に行きたいと言う。

※ロコタビ(旧名:トラベロコ)は海外在住日本人(ロコ)に旅の相談や
プライベートツアーなどのサービスを依頼できるプラットホーム

しかしハノイのロコたちの彼女の相談に対する反応は鈍かった。なぜならギソン精油所はハノイから200kmも離れていて観光地ではない。車を1日チャーターしようにも往復8時間以上も掛かるような仕事を引受けてくれるドライバーは見つからない。乗合バスを使えば安く行けるが、通訳ガイドを付けなければいけないので運賃が2倍かかる。

僕は「工場フェチ」と言うワードに興味を惹かれ何とかならないか調べる事にした。いつも使っている仲の良いタクシードライバーに相談するがやはり行くのを嫌がった。しかし彼にとって僕は上顧客の1人。僕が空港に行く時も日本のお客さんを案内する時も彼にお願いしている。なので金額だけは出してくれた。大体2日分の運賃とガソリン代の金額だった。

僕は彼女にその金額を案内すると同時に、バイクで行けばもっと安くなると提案した。僕がバイクを運転して彼女を後ろに乗せればドライバー代は必要なくなる。バイクは車より燃費がいいのでガソリン代は安く済むだろう。彼女は今までバイクには乗った事がないが僕のその提案に乗った。

ここから200kmの旅が始まる。

旅の朝、彼女が宿泊している旧市街地のホテルの向かいのカフェでお茶とタバコを楽しみ彼女を待った。カフェと言っても歩道に小さなプラスティックの椅子が置かれているだけの露店茶屋だ。使ったガラスコップは水の入ったバケツに潜らせるだけで茶渋でくすんでいる。僕はこの日本にはないアジアを感じる露店茶屋が大好きだ。露店茶屋の事はまた別の記事にしようと思う。

集合時間より少し遅れて彼女は現れた。125ccのバイクにまたがり彼女を後ろに乗せて南に向かって走りだした。ベトナムには南北を貫く国道1A号線がある。ベトナムに来て間もない頃にハノイからダナンまで759kmをバイクで往復した事がある。見覚えのある風景が通り過ぎて行く。しかし今回の旅はあの時のように1人旅ではない。お客さんを後ろに乗せている。スピードは出せないし無理な運転も出来ない。事故は絶対にできない。

ハノイから1つ目の町フーリーを通過してニンビンの町に着いた頃には昼を過ぎていた。ギソン製油所まではまだ倍の距離がある。すでに5時間経っている。日没までに間に合うか心配になった。彼女は夕日に照らされたギソン製油所を見たいのだ。また暗くなれば道を間違いやすい。お昼ご飯を食べながら僕は彼女に1時間に1回の休憩を2時間に1回に変更する事を伝えた。バイクは運転する側はもちろん疲れるが後ろに乗っている側も疲れる。長時間乗っているとお尻が痛くなってくる。お昼ご飯を済ませて出発する。次の目標はタンホアの町だ。

国道1A号線は比較的アスファルトは綺麗で道幅もある。しかし大型トラックや長距離バスが物凄いスピードで走っている。そのために舞い上がる砂ぼこりと排気ガスが僕の顔にへばり付き顔は真っ黒になった。タンホアの大きな町が見えてきた。疲れ切った僕はここがゴールだと思いたいが、タンホアの町からギソン製油所までは昼に走った分の同じ距離がある。ここまで来て引き返す訳にはいかない。ギソン製油所は国道1A号線沿いにはないので、ここからは慎重に進まないと道を間違えると日没に間に合わない。タンホアの町の何人かのベトナム人に道を訪ねるとみんな親切に答えてくれた。疲れ切ってボロボロになった2人の日本人を見て可哀そうに思っただろう。

また地平線まで真っ直ぐに続く国道1A号線をひたすら走った。日が傾き始め日没までのタイムリミットが迫る中、僕の視界に地平線の奥の煙突が映った。あれがギソン精油所だ!もう迷う事はないミッションはクリアした。

ギソン製油所に近づくに連れてその大きさに驚いた。ヘルメットを被った沢山のベトナム人が工場のゲートを出入りしていた。僕と彼女は工場の全体が見える場所で座って夕日に照らされていくギソン製油所を眺めた。僕は「工場フェチ」ではないが無機質で巨大な塊に何本ものパイプや機械が繋がれたそれを見て確かにカッコイイを感じた。運転中は話が出来ないため、1時間ほどそこで座りながらお互いの事を話た。彼女には息子が居て僕みたいな生き方もある事を伝えておくと言った。

目的は達成したが遠足は家に帰るまでが遠足。明日の朝、彼女はハロン湾ツアーに参加するので朝までにハノイに戻らなければならない。晩ご飯を食べたいが完全に暗くなる前に出来る限り戻っておきたい。

ここからハノイまでの旅が始まる。

2時間ほど走り辺りはすっかりと暗くなった。バイクを止めて晩ご飯を食べながら僕は彼女に今の状況を説明した。夜の国道1A号線は電灯がなく真っ暗だ。バイクはヘッドライトが1つで小さいために他の車は距離感が掴めずらい。夜は昼間よりも車の数は少なくなるが車の走るスピードは変わらない。
もし接触事故を起こして倒れても誰にも気付いてもらえず朝になって死体で見つかるって事もある。なので昼間以上に慎重に運転しなければならないためスピードが落ちる。行きで9時間かかったが、帰りは9時間では足りない。また、夜遅くまで開いているガソリンスタンドは少ない。ガソリンスタンドがある度にガソリンを満タンにするため、これもタイムロスをしてしまう。

晩ご飯を食べ終えて再びハノイに向けて走り続けた。もう何時間バイクにまたがっているだろうか?あっという間に夜の12時は過ぎて日付けは変わった。僕と彼女の体力はすでに限界を通り過ぎでいたが、他にも限界が来ているモノがあった。それはずーと乗り続けたバイクだ。エンジンは高温になり時折止まった。オーバーヒートだ!一度エンジンが止まると冷えるまではかからない。エンジンが止まる間隔が短くなってきている。これはまずい!そのうちにエンジンを冷やしても復活しなくなる可能性がある。

僕は運転に集中しているので眠気はないが後ろに乗っている彼女は睡魔に襲われていた。彼女の意識が落ちかけると僕のヘルメットにコツっと彼女のヘルメットが当たる。その衝撃で彼女は目を覚ます。車だったら運転者以外はぐっすり寝る事は出来るがバイクは寝たら落ちてしまう。左手でふらつく彼女を支えながらハノイを目指した。

ハノイに近づくと国道1A号線と南北鉄道が並列する所がある。もうハノイは直ぐそこだ!雨が降りバイクのエンジンを冷やした。天が僕らの悲惨さを見て涙を流してくれたのだろう。

やっと旧市街の彼女の宿泊するホテルまで着いた。ここで旅は終わった。
絶対に味わえない忘れない旅になったと別れ際に彼女は言った。それから僕は僕の家に向けて走った。このバイクってこんなに軽かったけ?家に着く直前にエンジンは掛からなくなった。お疲れ様とバイクに声をかけて家までの500mをバイクを押して歩いた。

みなさんはこんな旅は...したくないですよね(笑)

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