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1億円以上を失った、ディナー業態の大失敗。「得意を自覚すること」の難しさ

自分たちの一般的な店舗サイズは、15坪。もしもこれが3倍広い区画なら、売上げを3倍にできるのでは? さらにディナータイムまで広げられたら、お酒も出せて、お客さんの単価アップが見込める?

多店舗展開するときに、やってくる「楽しげな誘惑」です。

私も3店舗、4店舗、5店舗……と多店舗展開するなかで、「ほかの勝ち方もあるかも?」とポジティブなアイデアを膨らませました。

それを形にして、2018年にWithGreenの6店舗めとしてオープンしたのが、ダイニングレストラン「WithGreen Grill & Salad 大崎店」(以下、Grill & Salad)と、8店舗めとして、2020年に出したカレー店「SHIBUYA FARM CURRY」(以下、 FARM CURRY)でした。

Grill & Saladでディナーメニューを薦める創業者の武文謙太(サラダ弟)

サラダボウル専門店を拡張させた新業態として、これはいける! と出店したのです。

結果は、2つとも大いにスベりました。閉店して、いまはありません。今回は、WithGreenのここまでの失敗について。失敗とは何なのかについても、考えてみます。

新業態で狙った戦略は「夜も」と「カレーも」の二毛作

自分たちの得意領域はどこか、「勝ちパターン」が見えていませんでした。WithGreenにはほかの勝ち筋もあるのでは? そんな可能性に手が伸びました。

そこで、夜もお客さんが来てくれるダイニングと、1つのキッチンで2つのメニューが提供できるカレー。Grill & Saladと FARM CURRYの2つに共通していた狙いは、「二毛作」です。

まず、Grill & Saladのほうは、それまでのWithGreenの平均的な店舗の約3倍の広さで、夜はダイニングとしてお酒も提供しました。1万人以上人が働くビルの1階での出店です。ビル内で働く人の1%でもお客さんとして来てくれたら、十分な売上げになると計画しました。

初期投資には、WithGreenの店舗の3倍以上となる、約6000万円をかけました。お店のイメージは、世界で展開しているサラダバー&グリルレストラン「Sizzler」です。共同創業者である弟の謙太は、飲食経験が豊富で料理の技術もある。さらに元々イタリアンのシェフを採用していたので、自分たちの強みが活かせそう。今後チャンスがあったら拡大していく、WithGreenディナーダイニング業態の第1号店だというぐらいの、気の大きさでいました。

WithGreen Grill & Salad 大崎店

FARM CURRYについては、商業施設側のディベロッパーから、サラダボウル+αの2業態でやれないかと依頼があったんです。いい話だと思いました。WithGreenが大事にしている「お客さんの健康をつくること」「国産野菜100%」というコンセプトに沿った商品開発を追求し、時間も予算もかけました。

サラダボウルでも、メニュー開発こそが私たちの武器ですから。実際、こだわりが強い弟もうなる、おいしいカレーが完成しました。

月に100万円~200万円の赤字が続いたダイニングレストラン

どれだけ考えて、考えて、考え抜いて実行しても、その成功確率は2割ぐらいでしょうか。Grill & Saladも、FARM CURRYも、残念ながら、その2割にはなれませんでした。

1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月と続けても、まったくといっていいほど、人が集まらなかったんです。Grill & Saladはメインに考えていた夜の集客が壊滅的に悪く、50席以上ある広いホールに、5人〜10人のお客さんがぽつぽつ。とても寂しい状態でした。

満を持して出したFARM CURRYのカレーは、そもそも、注文してもらえません。1日に10食も出ませんでした。

この状況を、なんとかしなければならない! 私も謙太も、状況を好転させるために考え、改善し続けることになりました。

特にGrill & Saladのほうは、深刻でした。売上げよりも家賃や人件費といった経費のほうが高くつき、毎月100万円〜200万円前後が赤字として出ていっていました。設備投資に6000万円かけているうえで、です。

人気店の黒字で補填し、どうにかこうにか全体で利益を出すことをしていましたが、Grill & Saladのマイナスは、WithGreen全体の重荷でもありました。

Grill & Saladがうまくいかなかった理由は、駅直結でもないオフィスビルに出店という、立地の構造的問題が大きかった。そこで働く人の気持ちを考えれば当たり前なのですが、日中働いている自社ビルで、夕食までとりたい人はなかなかいません。同僚にプライベートの姿まで見られたくないのは、多くの人の感情ですよね。

そんな環境要因はあるといえ、どうにか立て直す! それが、私と弟のモチベーションでした。オフィスビルの通りや入口から店の中を見えにくくする仕切りをつくったり、メニューの見せ方を工夫したり、どこかに突破口はある!と、あの手、この手で試行錯誤をしました。

FARM CURRYは半年で閉店、Grill & Saladは4年続けるもコロナで諦めた

FARM CURRYは1日10食の注文も出ることなく、半年で辞める決断をしました。結果的には、トータルで数百万円の赤字で収まりました。

Grill & Saladのほうは、カレーのようにすんなり撤退、とはいきませんでした。契約期間がありましたし、初期投資額もFARM CURRYの20倍です。好転させる方法はきっとある! トライ&エラーの日々でした。

ですが、新型コロナの到来で、ディナー業態のお客さんはさらに遠のき、どうにもならなくなりました。初期投資と4年分の赤字でその損失は、1億円以上。2018年のオープンから2022年1月の4年弱で、ダイニングレストランへの挑戦は、終わりました。

人のイメージを崩すのは簡単ではない! 「認知がなかった」という失敗

痛い目をみて、新業態は生半可ではつくれないことを知りました。敗因は、自分たちのフィールドから離れて新しい業態をやる場合、しっかりマーケティングしないといけない。これに尽きます。

商品開発は私たちの強みですから、Grill & SaladもFARM CURRYも、時間をかけて本気で追求しました。とても、おいしい料理ができたんです。

でも私たちには、その先にある、届け方への意識が欠けていました

大きな気づきは、イメージをしてもらうことの難しさです。WithGreenはサラダを提供している店とまでの認知はつくれていても、それが夜になったときにどんな店なのかはわからない。Grill & Saladで「ディナーを食べる」「サラダ屋で、お酒を飲む」というイメージに、至らないんです。想像ができない店は、入りづらいですよね。

FARM CURRYも、WithGreenのコンセプトに沿ったカレーを、提供しているつもりでした。一方、お客さんのなかでは、サラボウル専門店とカレーのイメージは離れていた。私たちも、サラダ店とカレー店をつなぐ届け方のアイデアを出せませんでした。

先入観やイメージを崩すというのは、簡単なことではありません。

本気でやった失敗だから、身体を通して学べる

では、1億円以上の損失を出したGrill & Saladの経験は、ムダだったのでしょうか?

私は、そうは思いません。本気でやった結果としての失敗だから、身体を通して学べます。痛い目を見るからこそ、ほんとうの学びが得られるとも言えるかもしれません。

実際、新業態に挑戦して破れたことからの収穫は、たくさんあります。先に書いた新業態は難易度がとても高いということが1つ。

2つめは、自分たちが得意とすることに注力すること。Grill & Saladの大コケ以降、私たちの得意な店舗サイズは15坪前後だとの理解は深まりました。コロナの打撃で世の中が変化したことも重なり、オフィスビルに出店する方針を変えました。いま進めている全国出店は、このときの失敗から見出して強化した「勝ちパターン」通り、徹底的にやっています。

3つめは、経営者である私の経営判断ミスは、チームにとてつもない影響を与えてしまうこと。意思決定の精度を上げなければいけない。自覚しました。そのためにも、どこかの店舗が不採算店になることを想定して、余剰資金をしっかり持っておく。ファイナンスへの意識も高まりました。

逆境に抗うなかで生まれた「法人向けのサラダ」

Grill & Saladは、金銭的には大失敗でした。Grill & Saladの大きな不採算がなければ、閉店までの4年間は、もっと楽に全体の利益を出していけたでしょう。間違いありません。

でも。失敗って、時間の区切り方で成功にしていくことができます。

Grill & Saladを、なんとかしないと! WithGreen全体の窮地でもあったからこそ、必死で考え続けました。立て直しのために、あらゆる施策を打ちました。

そんながけっぷちの中からひねり出てきたのが、法人向けの福利厚生サラダです。

WithGreenの法人向けサラダボウル

早々に気づいた立地の構造的問題から、途中でシフトチェンジをしていました。

ちょうど、企業が福利厚生の一環として提供する法人サラダの注文が増え始めていたころで、「企業から注文を受けたサラダをつくる場所」として機能させたんです。夜のメニューも出すGrill & Saladは、キッチンも広いですからね。平日の毎朝7時から、1日300個以上Grill & Saladのキッチンでつくり、発送していました。

法人サラダは、コロナの打撃の中でもエッセンシャルワーカーへ提供するためニーズは止みませんでした。いまも、右肩上がりで問い合わせは増えていています。WithGreenの、次の大きな面になりそうな手応えがあります。

逆境こそが、新しいアイデアにつながることがある。たとえるなら、飛行機は向かい風を受けて高く飛ぶように、逆風を取り込んで浮力に変えられるということでしょうか。

Grill & Saladで失った1億円が、未来への種まきだったということも起きるのです。

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WithGreenのサラダボウルで、日本のおいしさを

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サラダボウル専門店 WithGreen/ウィズグリーン編集協力/コルクラボギルド(文・平山ゆりの、編集・頼母木俊輔)


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