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【withE通信:読めるけど書けない、書けるけど読めない】

12月に入り、2021年も残りわずかとなりました。先週ごろから初雪、初霜も続々と発表され、いよいよ本格的な冬に突入です⛄️
この時期になると外に出るのが辛いですが、そんな時に強い味方になるのがカイロ。貼るタイプや貼らないタイプ、靴用などさまざまな種類があり、寒い冬に手放せないアイテムの1つです。


<カイロは漢字でどう書く?>

ところで皆さん、この“カイロ”、漢字で書くことができますか?
パッケージなどではカタカナで書かれているので、目にすることはあまりありませんが、漢字では「懐炉」と書きます。「懐(ふところ)に入れて体を暖めるもの」ということで、納得感はありますよね。

さて、今回は「カイロを漢字で書けますか?」という質問でしたが、これが「『懐炉』の読み方は?」という質問だったらどうでしょうか。なんとなく答えられそうな気がしませんか?

懐炉は普段目にすることがない漢字なので、ピンとこないかもしれませんが、これが「薔薇」「醤油」「憂鬱」だったらどうでしょうか。どれも漢字を見ればすぐに読めますが、「『バラ』『しょうゆ』『ゆううつ』を漢字で書いてください」と言われると正しく書けない人がほとんどだと思います。
他にも「親戚」「挨拶」「牡蠣」「躊躇」など、どれも漢字の形はぼんやりと思い浮かびますが、いざ書けと言われると自信がなくなります。

このような、いわゆる「読めるけど書けない漢字」は日常生活に多く存在します。では逆に、「書けるけど読めない漢字」と言われたら皆さんは何を思い浮かべますか?

「秋刀魚(サンマ)」「案山子(かかし)」「黒子(ホクロ)」のような「1つ1つの漢字は簡単だけど全体では読めない」漢字のことだと思う人もいるかもしれませんが、ここでいう「読めない」はあくまで「読み方を“知らない”」という意味です。

ですが、世の中には実際に「読み方がわからない」漢字が存在するのです。こうした漢字は、「幽霊文字」と呼ばれます。


<幽霊文字とは>

幽霊文字の最大の特徴は、漢字自体はパソコンなどで表示できるのに、その読み方はわからないという点です。

まず、パソコンで表示される文字には、それぞれ文字コードと呼ばれる数字が割り振られています。文字コードの割り振り方にはいくつかの種類があるのですが、日本で最初に定められたのが「JIS C 6226」という文字コード表で、これには6,349字の漢字と453字の非漢字が含まれていました。

これをもとにして、パソコン上で日本語を表示できるようになったのですが、次第に、読み方や出典が不明の“幽霊文字”が複数存在することが明らかになりました。

その後1997年に行われた調査の結果、幽霊文字の多くは地名などで使われていたことがわかったのですが、それでも正体がわからなかった漢字がいくつかありました。それが次の12字です。

墸、壥、妛、彁、挧、暃、椦、槞、蟐、袮、閠、駲

実際に見てみると、ありそうな字も多いですが、どれも読み方が不明の漢字です。では、これらの幽霊文字はどうして生まれたのでしょうか?


<幽霊文字が生まれた背景>

なぜ幽霊文字が生まれたのか。
出典がわからなかったり、出典はわかるものの発見ができなかったりするため、正確なところはわかりませんが、多くは「写し間違い」だと考えられています。

例えば、「妛」は「𡚴」の誤字とされています(横棒があるかないかの違いです)が、これは「山」と「女」が書かれた紙を組み合わせて「𡚴」を作ろうとした際に、そのつなぎ目の部分を横棒と見間違ったために「妛」になってしまったと考えられています。実際、「𡚴」は地名で使われている漢字ですが、この字はJIS C 6226には含まれていませんでした。
「椦」についても、「橳」という字が地名に使われていながらもJIS C 6226に入っておらず、「橳」と間違って「椦」が登録されたと考えられています。

その他の字についても、古い資料に偶然一致する字が載っていたり、似た字が存在したりするなどの手がかりが見つかっているのですが、唯一「彁」だけは出典もわからなければ、過去の用例も全く見つかっていません(彊の誤字という意見もあります)。その点では、「彁」だけが真の意味で「幽霊文字」と呼べるのかもしれません。


<結局のところ真相はわからない>

幽霊文字の生まれた原因は、ただの写し間違いという少し拍子抜けなものでしたが、それは見つかった事実から導かれた推測であり、あくまで可能性でしかありません。もしかしたら、もっと面白いストーリーがあったのかもしれませんね。
作:高妻(英語担当)

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