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【withE通信:ガソリンとコロナ】

2022年もあっという間に1ヶ月が過ぎようとしています。まだまだ暖房器具が手放せませんが、気になるのが止まらないガソリンや灯油の値上がり。

24日には、レギュラーガソリンの全国平均小売価格が170.2円となり、約13年ぶりに170円を超えました。

これを受けて、ガソリンの価格抑制を目的とした「激変緩和措置」が発動(関係ないですが、ニュースで「発動」という表現を聞くのは珍しいですね)。石油の元売り会社に、1リットルあたり最大5円を補助金として支払うという異例の対策です(27日の適用時点では3.4円でした)。

この措置によってガソリンや灯油の値段が少しでも下がれば良いのですが、そもそもなぜこんなに高くなっているのでしょう?


<石油の価格は何で決まる?>

まずは、日本のエネルギー事情についてです(数値、グラフはエネルギー白書2021より )。日本のエネルギー自給率は約12%ととても低く、原油(石油は原油を精製して作られます)に至ってはその99.7%を輸入に頼っています。では、その原油がどこに埋まっているのかというと、グラフのような内訳になっています。


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世界の原油の約8割は中東、南北アメリカ大陸にあり、実際、日本の輸入先も中東が9割を占めています。つまり、原油の価格はこれらの国々の影響を強く受けることになります。

例えば、去年8月にアメリカを襲ったハリケーンでは、石油施設も被害を受けました。こういった出来事が起こると、原油の生産量が減り、価格の上昇につながることになります。

ただ、今回の価格高騰の要因で1つ特徴的だったのは、石油の産出国が“意図的に”生産量を減らしていたということです。世界で必要とされている量に対して生産量が足りてないため、価格が上がっているのです。では、なぜそんなことになったのか、その経緯を見ていきましょう。


<原油減産の背景>

まず予備知識として、原油価格の国際的な指標の1つに「WTI原油先物価格」と呼ばれるものがあります。これはニューヨーク商品取引所で取引される原油の先物価格のことで、19日にはこれが1バレル(≒160L)あたり87ドル台後半と、約7年ぶりの高値になりました。

「先物価格」という言葉には聞き馴染みがないかもしれませんが、簡単に言えば「将来の価格」です。先ほど書いたように、石油は産出国の状況に大きく影響されるため、価格が変動しやすいというリスクがあります。そのため、あらかじめ「今後、価格が上がっても下がっても、決められたこの日に現在の価格で買いますよ」と取引の約束をするのです。この時約束された価格が先物価格です。約束の日が来た時に、取引の時点より価格が上がっていれば買った側が得をし、反対に下がっていれば売った側が得をすることになります(この説明がわかりづらかった方はこちらのページを読んでみてください)。

つまり、WTI原油先物価格は「あらかじめ約束された将来の原油の値段」ということになるのですが、2020年に入ってこの価格が急激に下がりました。その原因となったのがコロナウイルスです。
2019年12月に初めて確認されたコロナは、瞬く間に世界中に拡大し、各地でロックダウンや渡航制限といった措置がとられました。経済活動は停滞し、世界的な原油の需要も大きく減りました。その結果、原油が売れなくなり、価格が下がったのです。

この状況を受けて、「OPECプラス」と呼ばれる産油国のグループは2020年4月、協力して原油の生産量を減らす「協調減産」を決定しました。


<原油はしばらく高いまま>

その後、コロナの落ち着きとともに世界の原油の需要も戻っていったのですが、すると今度は、需要が供給を上回るという事態が起こりました。

というのも、OPECプラスは、去年8月から徐々に生産量を増やしているものの、その増え幅は現在伸び悩んでいます。その原因の1つに、OPECプラスの一部の国々にあまり余力がないことがあります。例えば、加盟国の1つのロシアはすでにコロナ禍以前の水準近くまで生産量を戻しており、これ以上の増産はあまり期待できません。また、世界的に「脱炭素化」が進められていることも、増産の障害となっています。
一方の余力がある国にとっても、脱炭素化の逆風が吹く中、原油が高く売れるに越したことはありません。結果、OPECプラス全体としての生産量がなかなか伸びないのです。

そして、こうした状況にさらに追い打ちをかけているのが、中東とウクライナの情勢です。17日に起こったアラブ首長国連邦の石油関連施設がある地区への攻撃や、ロシアのウクライナ侵攻への懸念など、最近になってまた緊張が高まっています。
こうしたさまざまな背景が相まって、世界的に原油が足りなくなるのではないかという不安が高まり、原油の価格がここまで上昇しているのです。原油の価格はまだ下がらないと見られており、ガソリンや灯油が安くなるのはまだまだ先になりそうです。

<原油の価格がマイナス?>

ここからは余談ですが、協調減産が発表された直後の4月20日に、WTI原油先物価格が一時マイナスになるという史上初の出来事が起こりました。

「価格がマイナス?」となった方もいるかもしれませんが、これは本来売り物である原油を、お金を払って引き渡すことを意味します。なぜそんなことをするのか。それにはWTIの取引の仕組みが関係しています。

この月のWTIの取引決済日は翌21日で、この日までに先物を売らなければ、買い手は原油を現物で受け取らなければいけませんでした。しかし、当時は需要が減ったことで原油が大量に余っていました。そのため貯蔵スペースを確保するのが難しく、仮に確保できたとしても価格の下がった原油を輸送、貯蔵するコストを考えれば、お金を払ってでも手放した方が損失を抑えられたのです。


<注目されるトリガー条項>

余談をもう1つ。ガソリンの値上げが続く中で、「トリガー条項」と呼ばれるものが注目されています。あまり知られていませんが、ガソリンの価格には
①揮発油税:48.6円
②地方揮発油税:5.2円
③石油石炭税:2.8円
④消費税:10%
の4種類の税金が含まれています(①〜③の税金を足した後に消費税がかけられるので二重課税だという批判もあるようです)。

トリガー条項とは、3カ月連続で1リットル当たり160円を上回った場合に、この揮発油税と地方揮発油税の合計53.8円のうち25.1円分を一時的に停止する制度のことで、2010年に導入されたものの、東日本大震災の復興財源の確保のため凍結されていました。すでに発動条件は満たしているのですが、凍結解除のための法改正が必要などの理由で、実現は難しいようです。

ただ、ガソリンスタンドで表示されている価格の半分近くが税金というのは少し驚きですね。
作:高妻(英語担当)

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