
4.転機・新藤健一氏との出会い
2022年10月、ついに正明さんの初公判が開かれました。本人は「全ての容疑についてその事実はありません。したがって無実であり無罪です」と起訴内容を否認しました。このニュースを新聞で読んだとき、私は「どうして真実を話さないのか」と感じました。SNS上でも「無罪なら、なぜ逃げ続けたのか」「警察官を焼き殺した鬼畜」「極刑に処されるべき」といった投稿が目に入り、そのたびに、正明さんには贖罪の意味でも刑期を全うしてほしいという思いを強めました。
しかし、そんな私の考えを揺るがすSNSへの投稿記事に出会います。それは、「真犯人は誰でしょう」というタイトルで渋谷暴動事件について書かれたものでした。記事を書いたのは、元共同通信のニュースカメラマンであり、帝銀事件の平沢貞通被告の獄中写真や、ダッカ日航機ハイジャック事件をスクープした新藤健一氏でした。
私は新藤氏の著書『写真のワナ』を購入して読み、思い切ってSNSを通じて新藤氏にメッセージを送りました。その結果、電話で話をする機会をいただきました。
新藤氏は、渋谷暴動事件で無期懲役の判決を受け獄死した星野文昭さんの裁判で写真鑑定に携わった経験を持ち、正明さんが殺人犯である可能性についても信憑性が揺らぐことを実感させてくれました。さらに、新藤氏からは渋谷暴動事件の本質を理解するには、1971年11月10日に発生した沖縄ゼネスト警察官殺害事件についても調べる必要があると助言を受けました。
新藤氏との出会いは、私の中で一つの大きな転機となりました。「信じるな・疑うな・確かめろ」というビジネス書の格言を思い出し、事件の真相を自分自身で確かめたいという思いが芽生えたのです。そして、ついに裁判を傍聴する決心を固めました。
裁判所前に到着すると、スーツ姿の人々が携帯電話のカメラで傍聴に訪れた人々を撮影している様子が目に入りました。それが公安の方々だと分かった瞬間、何とも言えない威圧感に襲われました。また、傍聴のための抽選に並ぶ人々の中には、どれだけ中核派のメンバーがいるのだろうか、自分がDNA採取に協力したことで報復を受けるのではないか、そんな恐怖も頭をよぎりました。

それでも裁判所では、新藤氏の取り計らいで弁護士や救援会の方々と話す機会を得ました。そして、その中で事件が起きた当時、正明さんが現場にいなかった可能性が非常に高いという事実を知りました。これまでメディアの報道を鵜呑みにしてきた私にとって、これは大きな衝撃でした。
正明さんが犯人ではないという証拠がいくつもあることを私自身が確認した以上、親族として正明さんを応援しない理由はありません。それどころか、正明さんが犯罪者だとされてきたことで、私自身が味わってきた嫌な思い出を払拭するためにも、正明さんの無実を信じる覚悟が生まれたのです。