『ドローンとは何か?』という一般の方の問いに対してキチンと答えてる記事が無いのでちゃんと書いてみる。

プロローグ

まず最初に断言させて頂きます。
「ドローン」という呼称は正式な物ではなく主に自律飛行する無人航空機に対して使われてる単語で「人が乗れるドローン」とか「ドローンタクシー」とか、人が乗って操縦したらもうそれは無人航空機じゃねぇよな?みたいな例が山程ある訳ですが、そんなのも十把一絡げで「ドローン」と呼ばれております。
こういう記事を書くくらいですんでそういった「本物談義」には心躍ってしまう気質ではあるのですが、その手の話はISOとかJISとかの仕事だと思ってますんで「コレがドローンでコレはドローンじゃありません!」みたいな話はここでは無しです。
言うなれば、「全部ドローン」で、「全部ドローンじゃありません」です。
そういう心積りでこの先にお進み下さい。

『ドローン』という呼称について

なので、まずは「何故あの手の無人航空機が『ドローン』(オス蜂の意)と呼ばれるのか」から。
Wikipediaで「無人航空機」の項を読むと「ケタリング・バグ」という無人機が巡航ミサイルの始祖として紹介されてます。

Wikipedia

こちらの完成は1918年、ライト兄弟の世界初有人飛行から15年で人類は無人で飛ぶ飛行機を完成させています。
「ケタリング」は設計者の名前、「バグ」は昆虫、主に羽虫の意味です。
英語圏では無人航空機に羽虫のイメージを重ねていたようで「Queen Bee」(女王蜂)など、もろ虫の名前があてられたものもありました。
その一環で「Drone」の呼称が米英軍の間で無人航空機を指す物として軍関係者の間で一般的になったようです。
「Drone」の呼称が軍関係者の間で定着したきっかけはおそらく「ターゲット・ドローン」によるところが大きいと思われます。

Wikipedia

ターゲット・ドローンとは射撃訓練の際に使用する標的用の無人航空機の事です。
無人航空機は前途の通り飛行機が誕生してすぐに造られましたが、正直使い道が限られている上に効果が低いのに高コストで普及しませんでした。
一方で飛行機が軍隊で採用されて以降、各国の軍隊は訓練で使用する飛行機の様に空を飛ぶ射撃用のマトの必要性から色んな方法を試します。
その中で、マトをヒモで飛行機に繋いで引っ張って飛ぶ方法と、ラジコン操作の無人航空機が主に採用されました。
特に米国では引退した戦闘機や専用の機体を新造した物など多種多様なターゲットドローンを運用していました。

無人航空機って新しい物なのか?

「飛行機を操縦者抜きで飛ばす」というアイデアはケタリング・バズの様に百年以上前から存在してて実際に飛ばせる物を作る事が出来ています。
しかしこれらは総じて「高コストな割に元が取れない」物でした。
この頃の無人航空機はまっすぐ飛ぶことが出来るという程度で、無線で遠隔操作出来る物が登場するのは戦間期。
それでも着陸させるのは至難の業でこの頃の無人航空機は基本的に使い捨てです。
それこそ家が買える様な値段の物が『使い捨て』ですよ?
なので巡航ミサイルや標的機といった最初から回収するつもりがない用途でしか使えませんでした。

で、最近「ドローン」と呼ばれている物、大抵はちゃんと着陸して回収出来る様になってます。
無論、自爆ドローンの様にミサイル的な使い方をする物もありますんで全部ではありませんが、そうでない物はだいたい戻って来ます。
更に、ラジコン程度の大きさになり電動になり、小型・安価・メンテフリーになって誰もが手を出せる身近な物になりました。

大抵の人はDJIのマルチコプターと米軍などで使用されてる無人偵察機が同じカテゴリーの物だとは思いません。

「無人航空機」も「ドローン」も、それこそ大抵の人が生まれる前から存在してるのですが、現在の電動4ローターがそれらとは別の物だと考える人には「全く新しい物」だと思うのは仕方ないのかもしれません。

現代基準の「ドローン」の誕生

私、ドローンの話題が出る度にあちこちで書いてますが、いわゆる「現代基準のドローン」を最初に作って市販したのは「ヤマハ」です。

ヤマハ発動機

元々は農水省の外郭団体が農薬散布用の無人ヘリの開発をしていて、そこではエンジンが作れなかったのでヤマハにエンジン制作のオファーが来て、そのまま全部作る事になったのがきっかけだそうです。

海外の大規模農場では農家が飛行機やヘリ持ってるのは普通で、農薬散布や種撒きに使われています。
日本の場合は海外みたいに農場が広くないのと飛行機やヘリを維持するのにお金がかかり過ぎるんで使うにしても自前で所有せずに航空会社に依頼して飛んで貰ったりしています。
薬剤散布に航空機使うと一気に終わらせられるのですが、日本ではお金がかかり過ぎるのです。
なのでラジコン使って散布する方法もあるのですが、操縦がもう滅茶苦茶に難しい。
特にヘリコプターのラジコンは操縦が難しく、思ったように飛ばせる様になるには相当練習しないといけませんし、着陸に失敗すると全損とか普通。
何十万もするラジコンがパーです。
そこで農水省が「難しくないラジコン」を作って農家の皆さんに使って貰おうと研究していたみたいなのです。

その農水省外郭団体がどういった経緯でヤマハに打診したのかは分かりませんが、この話をヤマハに持って行ったのは「分かってる」と言うしかありません。
ヤマハと言えば「ヤマハのコピペ」にある通り、新しいジャンルの製品を次々と生み出すクリエイティブな企業です。
ヤマハがこの農業用ラジコンに何をしたのかと言うと、本物の飛行機に使われている様な自動操縦装置を組み込んで、離陸から着陸までを自動で行い事前に設定したコースを飛ぶ様にしたのです。
勿論ラジコンみたいにリアルタイムで操縦も可能ですが、その際に姿勢制御を行ってフラフラさせずに飛ばせる様にしました。
特に離陸・着陸時には機体の姿勢が保持出来ず不安定だとすぐ事故を起こして機体を破損させかねないのですが、マニュアル操作でもアシスト入って機体を安定させますし、上記の様に自動で設定した場所に降りる様にする事が出来ます。

目的が薬剤散布なので搭載量を増やす為にそこそこ大きいですが、それでも軽トラの荷台に載せられる大きさで大型のラジコンくらい。
ヤマハがこれ作るまでは自律飛行する無人航空機は有人航空機の様な人が乗れる大きさの物ばかりで、現代の手の平に乗る様なサイズの物は不可能でした。

慣性センサー

無人航空機の小型化が出来なかったのは、自動操縦装置の根幹になる「慣性センサー」の小型化が困難だったからです。

Wikipedia

こちらが小型化が可能になる前の慣性センサーです。
慣性センサーとは、物体が動いた時に発生する反力を検出する物で、以前は回転する物体が現在の位置を保持しようとする原理を応用して角度と位置の変化を検出していました。
慣性センサーから出力された信号から機体の角度や位置の変化を読み取り、自動操縦装置に入力して補正します。
これが自動操縦装置が機体を安定させる原理です。
この慣性センサーってのが結構な大きさと重さで、大型の飛行機ならともかく小型の戦闘機や軽飛行機に ま載せるのは躊躇してしまう様なサイズになります。
この慣性センサーの中で回っているコマの事を「ジャイロ」と言い、慣性センサー自体をジャイロと呼ぶ事もあります。

飛行機ほど小型軽量化が性能向上に繋がる乗り物はありません。
あらゆる構成部品は他の乗り物とは一線を画すコストをかけて軽量化が施されていて、それは慣性センサーも例外ではありません。

「日本の工業技術が素晴らしい」という話の度に持ち出してる話ですが、米国は90年代に巡航ミサイルの慣性センサーの小型化に苦心していて、それまで全て米国内製造品で賄っていたのを輸入品も視野に入れる事にしました。
慣性センサーの心臓部はジャイロです。
回転部を大きく重くすれば検出精度を上げられますがミサイルの積載重量を取られる事になるので、機体の大きさが同じならば火薬や燃料の量を減らさなければならず性能低下する事になります。
ジャイロの回転部を小さくして検出精度を維持する為には、回転部の高回転化と軸受けの精度を上げる必要があります。
高回転に耐えて且つ精度の高いベアリングが必要です。
米国は世界中のベアリングメーカーからサンプルを集めてトライアルを行いました。

丁度その時期は日本で8mmビデオが流子していた頃です。
8mmに限らず録画用ビデオレコーダーは回転する磁気ヘッド部を持ち、これの小型化がビデオカメラ小型化の核心部分で各メーカーが小ささと精度、そしてコストで凌ぎを削ってました。
トライアルに出されたのはその8mmビデオカメラに使用されてたベアリングで、米国製の同等の規格品と比較して1/10以下の価格で10倍以上の精度の高さを示しました。
価格に付いてはウン億円するミサイルに数個使う部品でしかないので、日本円にしてミサイル 1発辺り数万円程度のコストダウンでしかないのですが、精度10倍以上はコストの差以上の価値があります。
精度が高いという事は、さらに小型化してもまだ精度に余裕があるという事です。
その後、米軍は装備のいくつかを純国産から輸入品を含めた物に置換してある程度のコストダウンと圧倒的な性能向上を実現しています。

圧倒的成長

で、こちらが現代の「慣性センサー」です。

小野測器

それまでの回転体による機械的な物から電子部品になり、重さや体積は1万分の1とか10万分の1とか、そういうレベルにまで小型軽量化が実現出来ています。
ドローンどころか皆さんが使っているスマホに搭載されているくらいには小型化出来る様になりました。
しかも精度は極めて高い。
移動量をミリ単位で拾えるくらいの精度です。
航空機にそこまでの精度はいりません(笑)
しかもこれ、とってもお買い得。
物にもよりますが、数百円からあります。
機械式のジャイロに使われてた日本製のベアリングよりも安い。
機械式ジャイロ、おそらく数千万円程度と推測してるので、それが数百円になるのは物凄いコストダウンです。
しかも使い捨てで数が必要な巡航ミサイルだと全体で考えると一体いくら節約出来るか。
性能向上した上に億単位で節約出来るんですから、やらない奴はあたまおかしい。

晴れてドローンは小型高性能に

日本の半導体産業は80年代バブルの頃にはパッとせず他の産業がウハウハな一方で冷や飯食わされてたのですが、バブルの頃に銀行がジャブジャブ融資してくれたのでその恩恵が90年代に花開きます。
ショルダーバッグ形状だった携帯電話は胸ポケットに入るサイズになり、カクカクドット絵にBeep音だった家庭用ゲームは流麗画像にPC音源になります。
無論、半導体慣性センサーも存在はしていた筈ですが、おそらく航空機の姿勢制御には使えるレベルではなかったのでしょう。

ヤマハ発動機

ヤマハが無人機開発に着手したのは83年でその後一時休止、再開して一気に高性能化したのは90年代に入ってからで市販開始は95年。
姿勢制御装置が小型化出来るようになったのでおそらくこの頃に世界中の企業が同様の物を開発し始めたと思われますが、元々やってたヤマハに一日の長があったのは明白。
特に評価されているのを見た事はありませんが、現代基準のドローンを初めて「実用化・市販化」した事は評価されるべきだと考えます。

まとめ

Q:ドローンとは何か?

A:無人航空機の事を広く曖昧に指す言葉、明確な定義はない


Q:ドローンとは新しい物なのか?

A:ライト兄弟の有人飛行成功の15年後に無人航空機が完成しているので無人航空機の歴史は有人航空機の歴史とほぼ同じ

Q:ドローンの開発で日本は遅れているのか

A:元 祖
ちなみにドローンの自律飛行によるスウォーム(群体行動)を最初に一般公開したのは2014年紅白のPerfumeです

Perfume global lab

日本は航空法が厳しく一般向け市場が期待出来なかったので各メーカーが消極的だったのが中国に先を越され原因でしょう。
軍用ともなるとメーカー側からプレゼンするのも困難。
そもそもドローンに関わる技術の殆どは日本由来ですんで、防衛省が計画立てて予算が付けばそれはもうモリモリ開発されるでしょう。

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