「吉田沙保里のタックルは回避不可能」の理由は義務教育で教える事だと思ってたのに記事になるくらい認知されてない現状に危機感を持ったので。
「吉田沙保里は霊長類最強」これは世界の常識。
「吉田沙保里のタックルは回避不可能」これもみんなが知ってる事実。
「吉田沙保里のタックルが回避不可能なのは予備動作が無いから」
…えっとですね、この「予備動作のない動き」はおそらく古武術由来の物で(実際に吉田女史が古武術を学んでいたかどうかは未確認)私は日本のスポーツ科学において「古武術の体捌き」は指導者が子供達に教えるレベルになってると思ってました。
そしたらですよ、こんな記事になって「えーすごい」とかみんなで驚いてる始末ですよ。
いやダメだろ日本のスポーツ科学。
ちゃんと大学で未来の指導者達に教えろよ。
そもそも日本の近代スポーツと古武術とのエンカウントは四半世紀前だぞ何やってたんだよ。
あれから全国に広まるもんだと思ってたらロストテクノロジーになりそうになってんじゃねぇかよ。
そういう経緯からこの記事を書かねばという使命感()
これを読んだスポーツ指導者の方や現役選手の方が古武術に触れて、自分達の成績に繋げられたら幸いです。
近代スポーツと古武術の出会い
事の始まりは90年代の都内公立高校バスケ部。
その高校は公立な上に進学校で練習する時間も中々取れず、勿論特待生なんかいないのでフィジカルも弱いし強豪校と比べると平均身長が10cmも低く、トドメに未経験者ばかり。
それでも都の大会でベスト16迄は行ってたそうなのでかなり頑張っていたのだと思われます。
顧問の先生も大学時代はレギュラーだったとかで、それなりに知識も経験もあって教えられる事はあるんですが諸々の条件から出来る事は限られます。
そんな経緯で古武術の研究してる武道家の方を連れて来たのもせいぜい「何かのヒントになれば」程度の事だった筈です。
武道家の方を紹介された選手の困惑は想像に難くありません。
武道家とはいえバスケはまるで素人で興味があるとは思えない50代。
多分、ボールをあそこのカゴに入れれば得点になるって程度の知識でおそらくトラベリングの概念さえ知らない筈。
まず俺らが教えるとこからスタートじゃね?って話です。
ただまぁ、バスケットボールにはボールを使わない練習もあります。
武道家の方は、1対1の練習を見て自分も参加すると申し出て来たそうです。
バスケットボールの1対1の練習は、ボールを持つ場合と持たない場合があって、ボール無しの場合は攻撃側が守備を抜く練習、守備側は攻撃側に張り付いて好きな位置取りをさせない様に、パスを受けられない様にする練習です。
大抵はコートの長い方を端から端まで邪魔したりされたりしながら走り抜けます。
武道家の方は当時50代、いくら鍛えてると言っても毎日走り込んでる高校生に瞬発力やスピードで敵う筈がありません。
選手達はおそらく最初は「お爺ちゃん無理しないでね?」って思いながら始めたと思います。
ところが、その武道家の方が攻撃側に回った時、誰もそれを止められないのです。
選手だけでなく、顧問の先生もまるで相手になりません。
端から見てると特に武道家の方の動きが速いようには見えませんしむしろ自然体でゆっくり動いてる様に見えます。
なのに実際に目の前に立つと気が付いたら横をすり抜けられてたりどうかすると左右どちらから抜かれたのか分からなかったりするのです。
更に困った事に、何でそんな事になるのかがその場に居る選手も顧問の先生も誰ひとりとして一向に分からない。
目の前で見ても離れて見ても分からない。
分からないので真似のしようもない。
でも、もしチームのメンバーのひとりでもコレが出来たら絶対強くなれる。
「何をやってるんですか?」「僕らにも出来ますか?」
偏差値が高くて知的好奇心と向上心が旺盛な若い子達が「教えて欲しい」と思うのは当然です。
それに対して武道家の方はこんな感じで答えたそうです。
「私には『こうすればいいんだよ』と教える事ができません、しかしやってみせるのならいくらでも出来ます、ですので、私を見て皆さんが真似をして盗んで下さい」
それからは練習には顧問の先生と一緒に武道家の方も指導者として参加する様になったそうです。
ほどなくして、その「都内でベスト16止まり」だった学校は全国大会の常連になり、近隣の学校から「あそこの連中は動きが変」と言われ一目置かれる存在となります。
で、何が違うの?
吉田ネキの話の後に書いた話ですから、古武術の先生の動きが止められないのは「予備動作が無いから」なのだという事は想像出来ると思いますが、じゃあ何で予備動作無しで動けるのか、そもそも何が違うのか?一般の人には想像も付きません。
そもそも目の前で見た連中が分からなかった事です、話だけ聞いてもフィクションっぽくてマンガの中の話だとしか思えません。
後でそこのバスケ部の顧問の先生が本を書いています。
現役の方、もしくは指導者の方で詳しく知りたい!という方はそちらの本を購入される事をお勧めします。
何も貰ってませんので(笑)書名までは書きませんが「バスケット 古武術」でググればすぐ見つかります。
で、別にスポーツやってる訳でないんで本買う程じゃないけど理由は知りたい、という方は私の記事にもうちょっとお付き合い下さい。
ナンバ歩き
吉田ネキや古武術の先生の予備動作の無い体捌きの基本となる動きを「ナンバ歩き」と言います。
ナンバとは、歌舞伎役者の動作のひとつで同じ側の手と足を同時に出す歩き方を指します。
手足が同時に出る歩き方はそれこそ運動音痴のアイコンみたいになってて、逆の手足を出す歩き方こそが生物学的に正しいヒトの歩き方だと思ってる人が大半だと思いますが、実は特に決まりがある訳ではなく、単に学校の体育の授業で行進する時に矯正されてしまうのでそれしか出来なくなってるだけなのです。
ちなみに行進の時に逆の手足を出す歩き方をする理由は「マスゲーム的な見映えがいいから」
この行進の元ネタは軍隊の行進で、欧州の国々が世界中を植民地支配した際に現地の戦力として地元住民で軍隊を編成したり、植民地にはならなかったけど自国の軍隊を近代化する際に欧州式の訓練を取り入れたりした事で世界中に広まりました。
便宜上「ナンバ歩き」に対してこの軍隊の行進が元になっている歩き方を以後「軍隊歩き」とします。
実は明治以前の日本人の殆どは日常的に「ナンバ歩き」だったと推測されてます。
推測というのは、そもそも歩き方を分析・記録した文献自体が殆ど無いから。
ただ、日本には絵が結構残っているので、江戸時代の浮世絵には庶民の生活を描いている物も多く、当時の人達の歩き方を分析する資料にはなります。
Wikiの「ナンバ(歩行法)」の項に貼ってある浮世絵ですが、この中の誰ひとりとして逆の手足が出ていません。
一説には「着物の帯が緩むのでナンバ歩きになった」と考えられています。
昔の日本人は体育の授業で行進したりしなかったので、軍隊歩きに矯正されてないのです。
ここでカンのいいガキは気が付きます
古武術とは「日常的にナンバ歩きしていた人達によって作られた武術」であり、そもそも基礎の歩き方が違うのです。
なので、現代人にはそれを会得するためにはまず歩き方を変えなければなりません。
なので柔道も剣道も「摺り足」をわざわざ練習して身に付けます。
また、和式の作法を教えている所でもナンバ歩きを教えていると聞いています。
昔の養成所出身の芸能人はこういった教育も受けていたそうでして、舞台の前に箕輪明宏さんの控室に挨拶に行ったタレントさんは、舞台衣装を来た箕輪さんが立ち上がって歩いて来た時の様子を「滑って来た」と表現していました。
「ドム」ですよ。
また、フランスでレストランのウェイターの管理責任者「メートル・ドテル」のコンテストに日本人の方がお寺のお坊さん達の歩き方(おそらくナンバ歩き)を参考にした歩き方を見よう見まね身に付けてから参加したら優勝して、あちらで「滑る様に歩く」と評判になったという話も聞いた事があります。
レストランのフロアにドムですよ。
この2例はスポーツではなく「魅せるための仕草」としてナンバ歩きしてるのですけど、まぁそれでも普通に「軍隊歩き」やってて「滑る様に歩く」なんて言われる事はありませんし、箕輪さんに至っては「滑って来た」ですからね(笑)
ナンバ歩きは軍隊歩きに比べて視覚的に印象が大きく変わる事が分かります。
そろそろ予備動作の話しようや
…と、皆さんそろそろシビレを切らしてる頃かもしれません。
私の理解の範囲になりますが、説明させて頂きますね。
まず、予備動作のある軍隊歩きから。
軍隊歩きは、足で進む方向の反対側に地面を蹴り出す事で前に進み力をえる歩き方です。
予備動作を分かりやすく説明する為に、立って静止してる状態から歩き始める迄の一連の動きを説明します。
まず、歩くためには地面を蹴り出して推進力をえなければなりませんが、両足が地面に付いた状態でどちらかの足を蹴り出しても体の向きが変わるだけで前には進みません。
蹴り出すのと反対側の足を浮かせないといけません。
また、片足を浮かせるためには重心を浮かせる方とは反対側の足に移さないといけません。
重心移動させずに足を上げたら、上げた足の方の体重を支える物が無くなってそちら側に倒れてしまいます。
重心を蹴り出す側の足に移して踏み出す側の足を浮かせます。
この重心が蹴り出す足に乗っている状態で蹴り出すと、今度は上半身が反り返るだけで体は前に進みません。
これを防ぐには、進もうとする方向に体を倒して、地面を蹴っても体が反り返らないようにしないといけません。
進む方向は前ですので、体を前に倒し込んで重心を前方に移動させます。
これでようやく一歩目を踏み出す事が出来ます。
上記の一連の動きが軍隊歩きの場合の予備動作になります。
特に視覚的に目立つのが、地面を蹴ったり足を上げたりする為に行う重心移動です。
蹴り足を踏ん張るために移動方向と反対側に重心を移動し、移動方向へ足を踏み出すために移動方向へ重心を移動します。
見た目には上半身が一度下がってから前に進みます。
この動きは、素早く力強くダッシュしようとするほど顕著になり、確かに速く動けるのですけどこれから進む方向がミエミエで相手に事前に行く先を読まれてしまいます。
余談になりますが、この予備動作を逆手に取ったフェイントがあります。
まず、蹴り足に体重をかけるための重心自動をして見せます。
相手がこの予備動作に反応して蹴り足の反対側を塞ぐためにそちら側へ移動するのを確認したら、重心をかけた側へ更に重心を移動し、蹴り足に見せた足は踏ん張らずに脱力して力を「抜き」ます。
そして、フェイントでなかったら踏み出す側の足で蹴り出し、重心を更に移動して蹴り足に見せた足より更に先に重心を移動してその方向に倒れ込むようにします。
そのままだと本当に倒れてしまいますんで、踏み出す予定だった蹴り足を更に蹴る事で重心をかけていた側の足を浮かせて踏み出します。
この場合、蹴り出す足には重心をかけられないので強く蹴り出して素早く動く事は出来ませんが、フェイントで相手を反対側に振っているので速度がなくても相手を振り切る事が出来ます。
ナンバ歩きは軍隊歩きのように地面を蹴って進むのではなく、進行方向に倒れ込み続ける歩き方です。
上記のフェイントに似ていますが、フェイントは動き始めに重心移動して倒れ込む動きを作るのですけど古武術的な動き出しはこれをしません。
人は立って静止してる時、地面に固定されている訳ではなく倒れそうになるのをバランスを取る事で立っています。
逆に言えば、バランスを取らなければすぐ倒れますし、ワザと倒れるのも簡単です。
古武術的なダッシュはこれを使います。
予備動作があるとすればバランス取るのを解除して進みたい方向に倒れる行為くらいでそんなもん目視するのは無理ですし、力を入れるどころか脱力するので筋肉の張りも無い。
倒れ始めたら後はフェイントと同じ要領で残す側の足で体を押し出して進行方向の足を浮かせて踏み出します。
重心を行ったり来たりさせて地面を蹴る軍隊歩きと比べるとやってる事は非常にシンプルですが、故に動き出しを察知される要素がありません。
また、地面を蹴って進む軍隊歩きは蹴ってる間に進むので進行速度に脈動があり体も上下に動きますが、倒れるに任せるナンバ歩きは速度もほぼ一定で体の上下動も少なく「滑っている」様に見える所以です。
無論、脱力してるので初速は低く実は「遅い」ので陸上短距離のスタートでコレやるとタイムは出ません。
陸上短距離のクラウチング・スタートの場合はピストルが鳴る迄に予備動作を済ませてしまえばいいので思う存分スタートブロック蹴っ飛ばして加速出来ますので。
活字ばっかりで分かんねぇよ
本来ならイラストや動画を見ながら説明する物ですんで文字ばっかりで説明した挙句に添付画像がモビルスーツだとチンプンカンプンの方も多いかと思います(そもそもここまで読む人がとか言わない)
もっと詳しく知りたいという方は、前記の顧問の先生の著書やネットにイラストや動画付きで説明してる所がありますんで探してみる事をお勧めします。
今回は動き始め「ダッシュ」に付いて集中的に説明しましたが、古武術的体捌きは体の動かし方そのものですので、色んな事に応用出来ます。
ナンバ歩きの軍隊歩きとの大きな違いに「体を捻らない・地面を蹴らない・踏ん張らない」というのがあります(絶対やらないという訳ではなく、軍隊式と比べるとという話です)
運動量が少なくストライドを長く出来るので長距離移動に適してると考えられています。
「飛脚」はご存知ですよね?
江戸時代の郵便屋です。
コレは以前の佐川急便のマークで今は現在の社員さんが描かれているのですが、このマークでも「ナンバ歩き」(走ってますが)なのが確認出来ます。
実は人間が徒歩で長距離移動する行為は、近代五輪でマラソンが正式種目になる以前は世界的に珍しく、マラソンの元ネタである「マラトンの戦い」の伝令兵は、約40kmを駆け抜けた後に亡くなったとされてます。
欧州では、そんな長距離を走るのは自殺行為という認識だったのですね。
(実は現在でも競技中・練習中の死亡や事故が全スポーツの中で最も多いそうで)
第1回近代五輪のマラソンが行われたのは1896年で日本は既に明治時代に入って約30年、飛脚は郵便事業に取って代わられて行く最中でしたが、この時に飛脚経験者がアテネ大会に参加していたらブッチギリで上位独占してたのではないでしょうか。
現代の選手がフォームを変えてしまうのは非常にリスキーですしナンバ歩きはスピードが出せませんので現代のマラソンにそのまま持ち込むのは無理がありますけど、例えば上体の振りを小さくしてナンバ歩きに寄せて体力の消耗を減らす事を狙うと言った部分的な採用は可能性があると思うのです。
「万能」ではないです
こんな感じで、古武術の体捌きは全ての面において従来の体捌きを凌駕する様な物ではありませんが、用途や状況によっては完全な上位互換になる場合があります。
特に1vs1で守備やる球技や、打撃系の格闘技では予備動作の無い動き出しは武器になる筈です。
例えばボクシングで古武術の動きを採用したって話は聞きませんが、使えるのでは?と思ってます。
ボクシングは一般的には利き腕の反対側を前に出して半身に構えます。
この状態から足を使って間合いを調整して利き腕じゃない方のジャブで牽制します。
この時にも動き出しの予備動作を抑える事は重要になるのですけど、近代ボクシングでは細かくステップを踏む事でその上下運動の中に予備動作を隠すやり方が主流です。
これを古武術的な動きで「そもそも予備動作をしない」方法で対峙されたら、相手はかなりやりにくいと思うのですけどね…
ともかくこういった研究を日本のスポーツ科学の方々が研究している様子がないのは非常に残念で仕方ないです。
本来こういうのは公的機関や企業レベルでやるべき物です。
米国では陸上短距離専門で選手の動きを解析してコーチングしている企業があると聞いてます。
とかく日本のスポーツは過去の実績重視で新しい事を導入する事に(金をケチる、という事も含めて)懐疑的です。
そもそも古武術なんて近代スポーツ誕生の遥か昔から存在してて過去の実績は近代スポーツよりあるんですからもうちょっと皆さん導入以前に興味くらい持つべきでは?と思いますね。
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