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人はなぜ山に登るのか?

みなさんは「大台ヶ原山」という山に登ったことはあるでしょうか。またはご存じでしょうか。
奈良県と三重県の県境にある標高1695.1mの山。「日本百名山」に選ばれ、日本百景、日本の秘境100選にも選ばれるなどかなりの有名山。日本一雨が降る場所でも有名です。

私は登山初心者なので当然この山に関する知識ゼロ。しかし先日友人にそそのかされてこの大台ヶ原山を登ることになりました。
登山用ザックに速乾Tシャツ、山登り用のタイツにショートパンツ、足元にはkeenの登山シューズを、買い揃えました。ザックにステッキをぶっ刺していざ出陣です。初心者なのにその重装備?との声が聞こえてきそうですが、初心者は初心者なりのプライドを持っているものです。初心者だからとクロックスで気軽に登り、足を痛めては元も子もないのです。遭難するのも避けねばなりません(初心者コースで遭難するのは至難の技ですが)。
その為、にわか登山家の私は万全の登山スタイルで大台ヶ原山に挑むことにしました。
森林の中に足を踏み込むと、マイナスイオンが体全体を包む感じ。思わず深呼吸をしたくなります。
都会ではミンミンゼミがメインボーカルですが、森の中では色々な鳥や虫の声が飛び交います。しかも、広い自然の中にいる動物たちは余裕の歌声です。ウグイスとか?知らんけど。
ミンミンゼミが路上ライブなら森林はコンサートホールというところでしょうか。
上品なホールに佇み、私たちのためにライブを繰り広げてくれている森の主たちの洗礼を受けながら、黙々と歩みを進めます。気温もだいぶ低く感じ、「気持ちいいー」と両手を広げ、登山を楽しむ自分に酔いしれたのでした。

それから50分。
私はすでに体力の限界を感じ始めていました。
そこへきて無数の階段が「ウェルカムー」と言わんばかりに立ちはだかっているではありませんか。
「もう少しで展望デッキだよ。雲一つない晴れの日は遠くに富士山も拝めるみたい。楽しみだね」
日本一雨が降る場所という予備知識を入手していた私は「それはどんな奇跡なの?無理じゃね?」
と友人の言葉に心の中で悪態をついてしまっていました。
そして登っても登ってもやってくる、階段(体力がなさすぎてエンドレスに感じる)。
手すりに上半身を全部預けながら、ゼーゼー言いながら登ります。
後から登ってくる人に道を譲るフリをして止まって休憩、を繰り返します。途中手すりのなくなる区間が何箇所があり、「これは何の修行なの?ふらっとしたら落ちるやんー。罠か?いや、その手には乗らん!」と見えない'階段設計者'と戦いながら登り続けたのでした。
呼吸が浅くなり、心臓がバクバク鳴り、心臓から血が出てきたんじゃない?と思えるほどの心拍数を感じ増す。スマートウォッチに表示された自分の心拍数が「159」となっているのを友人に見せながら「もう無理。嘘じゃない。これ(心拍数)見て」と言いましたが、友人はあっさりとスルー。文明のリキも体力の限界を伝えることはできず、『竹内力の方が役に立ったかもしれないな』などと、思考の混乱も起こっていました。
そして「もうちょっとだよ」と何度も励ましてくれる友人の『もうちょっともうちょっと詐欺』を全身で浴びながら残りの階段を登り切ったのです。
やった、私!えらいぞ私!

這うようにして展望デッキ付近の丸太(ベンチ)にたどりついた私。持っていた500ミリの水筒のお水は空っぽになりました。大丈夫、もう一本持っていますよ。

確かに展望デッキからの景色は、絶景。
良く言えば「超絶景」、悪く言っても「絶景」って感じでした(語彙力ゼロ……)。
360度、山、山、山、雲、ちょっと遠くに民家が見えます。
絶景の詳細を知りたい方はご自身のスマホでググってみてください。真面目な登山家さんたちが詳細に掲載してくださっています。Google先生、神。いや本物の登山家さん、神。

さてこんな時、広大な自然を前に『人間なんて無力だなぁ』と感じます。
私たちは自然の中で生かされている一生命体に過ぎないのです。

私が尊敬する野口嘉則さんの「自分という大地に根を張る生き方」という講演会での、こんな話を思い出しました。
“現代人は「思い通りにならないことへの耐性」が低いと言われています。クレーマー、モンスターペアレント、操作主義に走る人々が増えているんですね。ストーブやエアコンが当たり前にある時代になり、リモコンのスイッチ一つで環境をコントロールしています。自分で何でもコントロールできるのだというコントロール幻想(万能感)に取り憑かれてしまっているのです。これほど文明が進んでも、私たち人間は台風一つコントロールすることはできない。地震も津波もコントロールできませんよね。自分たちではコントロールできない自然への畏敬の念を忘れてしまっているのです。“

これを人間関係にも当てはめてみましょう。コントロールできることが増え過ぎた私たちは、人間関係もコントロールできると錯覚してしまうのです。いやいや、人間はコントロールできないでしょ、と思ったあなた。良く考えてみてください。反対意見の同僚に反論するのをやめないのはなぜですか?家族とぶつかった時、自分の意見を通したくなる、説得してしまうのはなぜでしょうか。人は知らず知らずのうちに「コントロールしたい」という欲求を抱え、それを満たそうとして生きているのです。

山の頂上で自然の中で佇む私たちは「無力」を感じることができます。自分が決して万能ではなく、自然の中で生かされているちっぽけな、しかし美しい唯一無二の生命体だと再確認することができます。
「いやぁ、山登りってほんといいものですね」
山のこだまに乗せて水野晴郎氏を完パクしたセリフが聞こえた気がして振り返ってしまいました。
なぜ人は山に登るのか?
そんな答えのない質問を自分に投げかけながら、爆笑をやめない膝と一緒に(もちろん詐欺師の友達とも一緒に)無事に下山することができました。

あなたの「なぜ山に登るのか?」は見つかりましたか?まだの方は「大台ヶ原山」に登ってみてください。

実はこの展望台はメインの絶景ではないのです。このあともっと壮大な景色を目の当たりにすることに。
続きはまたどこかで……。

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