蜜柑の花の香りがする場所に私の家がある
ここ数日、窓を開けて空気の入れ替えをする度に、蜜柑の花の香りがする。
生まれは愛媛県松山市だけど、父親の転勤の都合で幼少期から中学校入学前までは県外に住んでいた。小学校は期間はバラバラだけど、3つの学校に通った。
松山市に住むようになったのは12歳頃から。私が11歳になる年に父親の実家を建て替えたのだが、そこには父の父、私にとっては祖父、しか住む人間がいなかった。(祖母は私が小学校低学年の時に既に他界している。)そのため、今までは家族一斉に行動していたのを、その頃を境に父親だけ単身赴任という選択をし、私は母と祖父と共にこの地のこの家に住むことになった。
特定の土地に根を張ることのない生活が当たり前だったものだから、自分の住んでいる場所への愛着(所謂、郷土愛)というものが希薄だった。だから、興味も湧くわけがないので、その土地のことを知ろうとしなかった。
最近、自分が住んでいる土地のことを知りたいと思うようになってきた。どんな名所があり、どんな花が咲き、どんなお店があってどんな人が住んでいるのか。
愛媛県の代名詞でもある蜜柑は冬に食べる物、という認識しかなく、蜜柑の花がいつ咲き、いつから収穫が始まり、市場へと出回るのか。私が好きなあの皮が薄く甘い蜜柑の名前は何だったか。 そんなことも知らず、対して興味も沸かず、ここに住み始めて15年目を迎えようとしている。
窓を開けて漂ってくるのは蜜柑の花だった。その香りが毎年漂ってきていたことすら素通りしていたのに気づいた今、ようやく私の中で何か始まった気がした。