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鬼滅の女たち考 ① 産屋敷の四姉妹

この ↓ にも書いたが、『鬼滅夜話』 の書評を練り練り中 (年をまたいで
しまったが・・・) である。

そうしているうちに、またぞろいろんな疑問が湧いてきた。
まず、産屋敷家の女性たちに関する疑問である。
主に、

① 産屋敷家の長女二女はなぜ両親の自爆に殉じたのか
② 産屋敷家の三女四女はその後どんな人生を送ったのか

この二点。

産屋敷家は、

 ◦ 男子は病がちで30歳まで生きられない
 ◦ 女子は13歳までに他家に嫁がなければ (産屋敷でなくならなければ) 死ぬ

という業 (呪い) を生まれながらに負っている。
つまり、産屋敷家の血を引いて生まれた者、特に男系の男子には、当主と
なることの計り知れない重圧がのしかかるわけである。
嫁ぐ前の女子、もしくは嫁ぐ前の女子が産んで置いていった子が当主に
なったという可能性もなくはないので、女性・女系の当主もいたかもしれ
ないが、13歳 (というのが満年齢にせよ数え年にせよ) 未満で無事に子を
残せたかどうかは疑ってかかるべきだろうから。

産屋敷輝利哉が同い年の姉妹たちとは別格の扱いで敬われ傅かれていた
のも、重い宿命を背負うことと引き換えの特権であろう。

そこに生まれたがゆえに去らねばならない女たちにとっても、外から嫁いで
くる女たちにとっても、産屋敷家は苛酷な “場” なのだ。

産屋敷家と縁を結ぶということは、呪われた宿命に関わってしまうことを
意味し、産屋敷家の跡継ぎを生むということは、その子に苛烈な人生を
歩ませることにほかならない。

産屋敷家の女子を嫁として迎えることもまた、呪いの波及を考えれば、
手放しで歓迎されたとは考えづらい。
婚家で産んだ娘を、生家の嫁として差し出さなければならなかったかも
しれないし、あるいは呪いの影響を最小限にするために、その家の当主や
後継者ではなく、すでに現役を退いたご隠居の年齢の相手と娶され、子を
儲けることもなく、不遇のまま生涯を終えた者も、少なくはなかったかも
しれない。

もちろん、一族は呪いを回避するためにあらゆる試行錯誤をしたと思う。
魔除けに男児を女装させて育てるというのもその一環だろうし、女子に
男名をつけて男として育てるとか、いったん外に養子に出して産屋敷家と
縁を切った格好にするとか、産屋敷家の直系を戸籍上だけは他家の人間と
いうことにする等・・・ 全部徒労に終わったことであろう。


******


物語に登場する産屋敷家の四姉妹、

 頭の右側に三つ組みの髪紐 (赤) をつけているのが長女のひなき
 (柱合会議で鱗滝さんの手紙を読み上げていたのがこの子)
 頭の左側に同形の髪紐 (黄色) をつけているのが二女のにちか
 頭の左側に菊の髪飾りをつけているのが三女のくいな
 頭の右側に藤の髪飾りをつけているのが四女のかなた

このうち上のふたりが、父母と共に爆死するに至ったわけであるが、
無惨が産屋敷家に現われた際、庭で毬遊びをする姉妹は特に緊張した
様子もない。
無惨を油断させるために、普段どおりである必要があったのであろうが、
彼女たちは何も知らずに巻き添えになったわけではないと思う。

お館様の耀哉があらかじめ言い含めたとも考えられるが、大勢の 「子ども
たち」 を死地に送りこんだ己が、実子だけはそうした運命を免れさせるわけ
にはいかないと考えたゆえであっただろうか。

それよりも、道連れになることは姉妹が志願したことだったのではない
だろうか。
両親が同道を許さざるを得ないほどの覚悟を姉妹が示したから、と思えて
ならないのである。

姉妹の上のふたりは、一見したところ個が希薄である (当初は4人全員が同じ
に見えたが、少なくとも下のふたりはかなり性格が異なっていることが後に
判明している)。

姉たちは輝利哉がコンプレックスを抱くほど賢く身体も丈夫だったらしい。
とはいえ女性は当主になれない、なれたとしても13歳になる前までの一時的
なものにすぎない、そうした制約の中で彼女たちには、自らを囮に一世一代の大きな賭けを成し遂げようとする父に、すべてを擲って供をすることに
何のためらいもなかったであろう。

ここから先はあくまで想像の域を出ないことだが、姉妹はしのぶと珠世が
開発した薬を、あらかじめ服用していたのではないだろうか。
やがて自身の命をも蝕むそれを摂りこんでおけば、無惨が耀哉を揺さぶる
ためにまっ先に自分たちを食い殺したとしても一矢報いることができる・・・
そう考えたとしても不思議はないのではないか。
彼女たちはただの8歳の子どもではなく、産屋敷なのであるから。

上のふたりが下のふたりに何を伝え、どんな別れを告げたのか、想像する
だに胸がつぶれる思いがする。
いかに産屋敷とはいえ、わずか8歳の子どもであったから ――


******


鬼なき世で、残った妹ふたりはどう生きただろうか。

思うに、1人は早くに嫁にいき、もう1人は生涯独身 (もしくは晩婚) だった
のではないだろうか。

鬼が滅びたからといって呪いが解けたという確証はないから、とにかく
1人は呪いを回避するために13歳未満で嫁ぎ、もう1人は呪いの解消を
確かめるために家に残る、そうするのが順当であろう。

どちらが? と考えたら、おしとやかな かなた が嫁ぎ、胆力のある くいな
が残った、となりそうだが、案外その逆もありえたかもしれない。

くいな は感情的になりやすいが、その実 繊細で (兄をひっぱたいて喝を
入れた後 自己嫌悪に陥っていた)、かなた はか弱いようでいて、存外肝が
据わっているように思える (玄弥の暴挙にもまったく動揺してないように
見えた) ので。

ついでに飛躍しすぎかもしれないが、嫁いだ相手が不死川実弥だったり
したらいいのに、と妄想したりもする。
産屋敷ならではの鋭い感性でもって実弥の深いところを本能的に理解し
慕っていたとしてもおかしくはないし、共に命の期限を抱えている身と
して・・・ 云々。
(実弥に子孫がいる以上、妻子がいたことは確かなのであろうが、できれば
 鬼狩りとしての彼を知っていた人に寄り添われたのであってほしいという
 願望である)

原作では明確に描かれていないけれど、輝利哉同様、令和の時代まで彼女
たちが長生きしていても不思議はないし、時代の波に乗ってデジタルツール
も使いこなし、ビジネスで世界選出も果たし、ご長寿兄妹で TikTok に動画
投稿などして人生を謳歌する姿もまた、想像に難くないのである。

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