一瞬の風になれ 佐藤多佳子 講談社
取材に数年かけたというだけあって、陸上競技が緻密に描かれている。リレーの醍醐味が迫力満点で描かれている。
オリンピックでリレーのファイナリストの仲間入りした日本が
どんなにすごいことだったか、初めて理解した。
一巻から、なんか感極まる描写が連続してくれるので
ウルウルしながら読み続けた。主人公、神谷新二と親友一ノ瀬蓮を中心に高校三年間を描くスポーツと青春の物語。もちろんこの二人は良いが、周りのキャラクタも捨てがたい。みっちゃんこと三輪先生、筋肉オタクの桃内、クールな守屋先輩、だんだん良い雰囲気になっていく谷口若菜ちゃんも外せない。久々に読み直すと、いかに丁寧にキャラクタ描写されているか分かる。特に谷口若菜の描写は逸品。じっくり読み直すと、なかなかリアリティに富む内容であることが分かる。新二のタイムの伸びや春高陸上部の状況もよく考えての描写だろう。それぞれのシーズンの順位や、蓮のトラブルからの立ち直り。その連が味わった苦悩を後輩の鍵山が同様に味わす様子などは、息が詰まる思いで読み進む。
春高のポジションもリアルではある。公立高校で、そこそこの位置取りの陸上部なので、そうそうビュンビュンインターハイには出場出来るわけでもなく、結果は読んでの通り。
このエンディングが嫌いな人は嫌いだろう。続編を希望する人は存在するし、有る意味正しいかもしれない。でも佐藤多佳子さんの考えは「あとは読者にお任せ」だと思う。一度、白百合大学のパネルトークでお会いしたことがあり、「黄色い目の魚」の時に物語の続編について個人的に聞いてみた。きっぱりした回答だった。「ありません」と。
そうか、著者は物語の世界を読者に託したのだなぁ・・・と考えることにした。新二と若菜ちゃんの後日談や連との「かけっこ」のその後も想像していいのだ。後日談が提示されないということは、何でも有りなのだ。
今も、頭の中に蓮と新二が四継を走る姿が浮かぶ。幸せな感覚である・・・
物語のバトンは私達に渡されたのだ。
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ご存知、本屋大賞受賞作。純粋に、真っすぐなストーリーを楽しみたいならこの人!って思う。佐藤多佳子さんは、永遠に純なストーリーテラーだと思う。