遥香との別れ

8月の下旬に遥香の引っ越しが決まった。
 
引っ越し当日
何か知らないけど
妙に落ち着かなくソワソワする。
 
「ちょっと出かけてくる」
母に伝える。
 
ソファーにふんぞり返り
テレビを見ながら
煎餅を食べていた母が答える。
 
「あー行ってらっしゃい」
 
その瞬間、母に呼び止められた。
 
「おい瓶汰、ちょっと待った」
 
何時になく神妙な趣だ。
 
「ちゃんと自分の気持ちを伝えるんだぞ」
 
「・・・」
 
無視をして玄関を出て
突っ走る。
 
 遥香の家まで必死に走る。
 
角を曲がった丁度その時に
ご近所への挨拶を終えて
車に乗り込もうとしている遥香の家族がいた。
 
「あら瓶汰くん」
 
ボクに気が付いた遥香のお母さんにペコリとお辞儀をする。
 
その瞬間、遥香が気が付いた。
 
「ちょっと待ってて」
遥香が家族に言う。
 
遥香が近寄って来くる。
 
微笑みながら遥香が言う。
 
「今までありがとう瓶汰」
 
「身体に気を付けてね」
 
「前みたいに倒れたら嫌だよ」
 
ちょっとムッとして
 
「そんなの大丈夫だよ」
 
「それこそ遥香こそ病気になったりするなよ」
 
恥ずかしさの余り
ぶっきら棒に言う。
 
「うん分かった」
 
「じゃあ元気でね」
遥香の右手が差し出される。
 
右手を出し握手をする。
 
ふと左手に持っているものを
思い出して渡す。
 
「これあげる」
 
遥香が渡されたものを見る。
 
傷だらけで所々塗装の剥げたアニメのフギュアだった。
 
「これって・・・」
 
「瓶汰が大事にしていたものじゃない?」
 
「いいんだ。俺はもう要らないから」
 
「ありがとう」
遥香が嬉しそうに答える。
 
「大事にするね」
フギュアをギュッとしながら遥香が答える。
 
「じゃあね」
遥香が悲しそうに笑う。
 
もう、何だか訳が分からなくなって
前が見えなくなってきた
 
「じゃっ、じゃあな」
情けない涙声の小さな声で答える。
 
遥香が車の後部座席に乗り
こちらを振り返りながら手を振る。
 
非情にも車は発進した。
思わず下を向てしまった。
 
でも自分の思いを遥香に伝えなくてはならない。
 
遠く離れていく車に向かって
思わず走り出した。
 
無我夢中で走っている内に
途中で足が縺れて転んでしまった。
 
立ち上がり
離れていく車に向かって
ありったけの大きな声で叫んだ。
 
「俺さあ・・・」
 
「俺さあ、強くなるから」

「絶対強くなるから」

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