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スキー、スノーボードって安全ですか?

11月中旬になるとアイスクラッシャーを駆使してオープンするスキー場もちらほら、一気にスキー・スノーボード熱が高まります。
私のnoteを読んでくださる方は恐らくある程度のスキー・スノーボード歴がある方ばかりかと思います。
長年ゲレンデにいると自身の怪我や周囲での事故を経験された方も結構な割合でいらっしゃるのではと思いながら、私自身の経験を共有したいと思います。

まず前提として私はこれまでスキー場に勤務し管理責任を負っているコース内で死亡事故2件、重大な障害の残る事故2件を経験してます。
およそ20年間で直接関わった重大な事故です。
骨折や脱臼、脳震盪などは数え切れませんし治る怪我は怪我と呼ばなくても良いのではと思うほどに日常的に発生してます。
あえて嫌な言い方をすると私が管理するコース、パークにおいて2人が亡くなり、1人が下半身不随になりもう一人の女性は下半身の痺れが取れず真っすぐ立つ事が出来ない体になりました。
大変心が痛みますし、10年以上経過しても後悔とも懺悔ともつかない重い気持ちを持ち続けてます。

私は小学6年の時に隣のスポーツ少年団のライバルだった子が練習中に立ち木に衝突して亡くなるという事故を経験してます。
中学の時にはチームの先輩がダウンヒルの公開練習でクラッシュして顔面から突っ込みヘルメットの破片が口内に刺さるような事故も見ています。
スキーが安全なスポーツであると思った事はなく、一定のリスクと引き換えの爽快感やスリルを楽しんでいる自覚を持ってきたように思います。
死にたくなければもっと上手くなりコントロールすべきだという自己責任論を信条にしているかも知れません。

2件の死亡事故については1件はコース脇の立ち木への衝突でした。
これまでの歴史の中で立ち木への衝突に関してはコースのど真ん中であろうと避けて滑るべしというのが判例として出ており管理責任は問われません。
ただしリフト支柱やスノーマシンなどの人工物に関しては防護策を取るべしという判断になってます。

この人工物は事業者責任という判例がいわゆるパークでの事故について判断を難しくさせます。
もう1件の死亡事故はコース内に造成したキッカーにスタート位置のポールを無視してオーバースピードで進入し飛びすぎたシニアスキーヤーが後頭部を強打した事で発生しました。
そこにわざわざ私がキッカーを作らなければ発生していない事故であり、スタートを強制的に下方にするような規制があれば防げたかも知れない事故です。
しかし自分の意思でジャンプに挑まれた事も同行者からの証言で確認できており、スタートの位置には注意看板とゲートがあり一定の配慮をしていた点が認められて事件化は避けられました。
繰り返しますが亡くなられた方のご冥福は心から祈っております。
今でも防げたかも知れない事故として心に重い十字架を課しております。
当時在籍していた会社には大変な迷惑をかけましたし、何より一つの命が目の前で無くなった事にとても衝撃を受けました。
当時の会社としての決定はそのような危険な造成物は不要であるとの結論にいたり以降一切やってません。
私はその事故の2年後別のスキー場運営会社に誘われてスキー場管理者として再度パークの製作を自ら圧雪車に乗り手がけました。
大きな事故が発生した際に自分が明確に責任を負える立場でいようと思い、他の従業員には任せないようにもしていました。
パークアイテムの造成について浮遊感はあるが落差の小さな形や衝撃の逃げやすい着地面の角度など技術と知見を蓄え対策はしていました。
しかし根本的な部分で『リスクはゼロにはならない』という意識があり『そのリスクも含めたのがスキー、スノーボードの本質である』という信念は今でもあります。

コース内での交錯による衝突事故、滑走禁止エリアでの遭難、スノーボードの板流し、ブラインド地点での座り込みなど様々な議論が出てくる時期です。
まずは体一つで時速数十km/hが簡単に出るという認識を共有した所から始めると良いのでは無いかと思います。
「安全なスポーツだから皆やりましょう」では無く「リスクを凌駕するほどの楽しみがあるスポーツだから、リスクを理解した上で長く楽しみましょう」を謳う事業者が増えれば良いなと願ってます。

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