帯広へ。②
ざっくり①をまとめると、帯広日帰り、一人、JR遅延、時間がない。
ぎゅーっとぎゅーっとまとめると
そんなお話でした。
それを独り言と写真でお伝えしました。
その続きです。
帯広に着いた。やっと着いた。
13時20分。
約2時間程遅れた。2時間という数字は、時間的にはそこまで遅れてもいないとは思う。むしろ2時間遅れならまだ良い方かもしれない。ただ私は日帰りで、しかも早めの時間に帰るように設定していた、チケットを購入していた為に、余白の時間はそんなに設けていなかった。だから、気が気じゃ無かった。
JRは何が起こるかわからないものだよね。普段の生活では使わないから勉強不足だったな。とりあえず、一瞬でも帯広に来させてもらえただけ、感謝です、ありがとうおおぞら。ありがとう家族。
さてさて。
さて、ここから。逆算する。今13時20分。帰りの列車が15時31分。10分前にはホームに居たい。
目的地まで片道徒歩15分。お土産を帰りに買う時間15分程。イコール目的地滞在時間は1時間。1時間て、時間があるような、ないようなどっちかわからないけど、とりあえず急ごう。
着いた瞬間から時間がない。これ知ってる。前にもやったことある。小樽だ、この前初めて一人で小樽に行った時だ。小樽の時は電車賃が2000円くらいだったけど、今回は15000円かかってるんだよなぁ・・・・・・
大至急、移動。
駅のコンビニで小銭をくだく。
百円玉3枚。入館料の支払いの時に、お釣りがでないようにしておく方がいいのではないかなと思ったから。
あったかい緑茶と、甘納豆のお赤飯を買う。さっきKIOSKにあったお赤飯は小豆のお赤飯だった。お赤飯はどうしても甘納豆が良くて、小豆のお赤飯を見たらどうしても甘納豆のお赤飯が食べたくて仕方がなくなったから、セブンにはあった甘納豆のが。いつ食べれるのかわからないけれど。買う。あ、あたためなくていいですよ。久々に聞かれた気がする。うちの近所のセコマのレジさんはそういえば聞いてこないから、ちょっとびっくりしちゃった。でもレンジでチンしたほっかほかの甘納豆のお赤飯、おいしいよなぁ…
小銭もできたし、さあ行こう。
帯広駅。ホームの吹き抜け部分の空も見える。
もう一度、地図を確認する。
目的地まで
片道徒歩15分なのは知ってる。
地図が案内してきたルートはちょっと思わぬルートだった。碁盤の目のように綺麗に区画整理された道なら定規で引いたみたいにL字で行くのが普通かなと思いきや、途中斜めになった道を案内してきた。
この道は・・・?よく見ると、緑道のような感じ?
ブラタモリをよく見ていた私の直感的に、こういう謎の道は昔からの、開拓当時からの名残では??そういう場所や道には決まっていい風景がある。良い木があったりする。良い景色との出会いがあるかもしれない。この斜めの道を、帯広駅を出てから辿っていくことにしよう。
急ぎ足。ゆっくり立ち止まってのんびり歩きながら写真を撮ったりしたかったな。
人がいない。
帯広は大きな街だし北海道の中では都会。でも目的地まですれ違った人はおばあちゃん二人だけ。日曜日の午後2時前ってそんな感じかな。
日差しがだいぶ傾いて影が強くなっている。写真を撮るには良い。あの斜めの緑道のようなところに入る。ここにも人はいない。
たっぷり紅葉した木々がわさわさと並んでいた。
前日の風は帯広も強かったのかな、葉がほとんど落ちてしまった木もある。
時間があれば、たくさんフィルムでも撮影したかったけれど、なんせ時間がないから、適当に、失礼な撮り方で撮っていく。。
なんか…
…もうじき冬になるのかぁ。
一旦、終わる。
11月になると営業しない場所や店が出てくる。これからいく場所もそうだ。
紅葉ももう終わる。だから自然と気持ちも10月いっぱいまでで「終わる」。11月はタイヤ交換、暖房と加湿器の出番。雪の準備。これから降る雪がいつなのだろう、まだ降らないだろうを繰り返しながら静かに過ごす。
雪が積もると世界が変わってしまう。生活も心も変わる。ひたすらに降ってくる雪を目の前に、ただただ受け入れることしかできない。じっと家の中で眺めて心配することしか。
北海道の人が奏でる音楽に、どこか共通する孤独感が混じっているように感じるのは、そのせいなのかもしれない。
この斜めの道、意味があってこうして残されているんだろう。
ここは一体何の道だったのかな?川?残したい理由があったのかな。
いい光だな、いい木漏れ日だな、寒いけど、厚着してきたから大丈夫だったな
とか
色々考えながら写真を撮っていたら
ああ、ここだ。
着いた。
ついに。
やっと。
あの赤い丸い屋根。
近づく。
歴史を感じる。
植物と溶けている。
振り向いた。
13時40分の日差し。
さっきまで誰かが乗ってたような、温度が残った車が一台、止まっている。関係者の車かな。その横をとおり過ぎて正面へ向かう。ドキドキする。正面まで来て
見た。
・・・・・・・・・。
今回の旅の目的地、そういえば書いてなかった気がする。私が帯広に来た理由。一人で来た理由。日帰りでも時間がなくても来たかった理由。この時期じゃないとダメだった理由。
それは、この場所を、この季節に、この時間帯に、この目で見てみたかったから。大正11年に建てられた幼稚園。
「重要文化財 旧双葉幼稚園」。
そしてここは「スピッツの聖地」とも呼ばれている。
2021年の秋に、スピッツはこの場所で「シークレットセッション」をしたことがきっかけ。
ずっと訪れてみたかった。
どうしても同じ秋に、晴れの日に
ここへ来て、この紅葉する木々と共に見たかった。
だから今日じゃなきゃダメだった。
あの映像と写真と同じように美しい木々と、あったかく優しく冷たく差し込む午後の太陽が、眩しかった。
閉館直前の来週でも良かったのかもしれないけれど、晴れるかどうかはわからない。今回は天気予報が晴れだと教えてくれたその後で帯広行きを決めた。
……
この木々は建物と同い年だろうか。昔からここにいるんだろう。屋根よりもずっと高く伸びている。
建物内部を見学できるその入り口に入るまで、正門から入り口までの10メートルくらいに10分くらいかかった。入りたいけど、入れなかった。この後入ったら更にとんでもない心境になることが予想できた。
心が落ち着くまで、少し外にいた。
でも時間がなかったんだったな。
ガラスの引き戸の中には「公開中」とホワイトボードにぶら下がっている。
(ここは、土日の10時から15時までしか開館していない。10月いっぱいで公開終了。再開はGW)
引き戸をゆっくり、ゆっくり開けると。両端に下駄箱があった。古い。幼稚園で使われていたものだからなのか、一つ一つが小さい。その上にたくさんのスリッパが並んでいる。
「脱いだ靴は下へ入れて、スリッパをお履きください」的なことが書いてあったと思う。(館内は撮影禁止なので、撮れない。)
静かで、歴史感が漂っていて。時が止まったままみたいな。だから緊張感があった。シーンとしているから尚更。少し古い匂い。昔、むかーしの古いじいちゃんちの倉庫とか物置みたいな匂いに近い感じ。
置かれたアルコール消毒、みんな使ってるのかな、手のひらに出して伸ばした。外からきた人。なので。一回、自分を清めるような気持ちで。
その向かいのガラスの引き戸の先に一人の男性が受付に座っていた。
私が恐る恐る入ると・・・
「なんか古ーいって感じ?」
そろりそろり、おっかなびっくり入ってくる私を見てそう言った。怖がっているように見えたんだろうな。(違いますよ。憧れの場所にやっとの思いで来られたことが嬉しくて緊張しているだけです。)
「こんにちは・・・うわぁ・・・」
中に入るとふわぁっとあったかい。
暖房?それとも日差しであったかい?
目の前にあの大きな丸屋根のドーム、八角形の天井があった。
(撮影は、このホールのこの場所からならOKと)
ああ。。。
すごい、同じだ。
見た映像と同じだ。
全ての窓から差し込む光が
きれいだ。
入ってすぐにここがあるんだ…。
まだまだ心の準備も整理もついていないけど、受付をしているその方が気さくに話しかけてくる。
でもその方のおかげで、緊張も焦りもここまでの苦難も全部取っ払ってもらえた。一言二言の会話だけで、ああ、この人は好きな感じの人だなとか、なんか気が合うなと思う瞬間がある。この方はそうだと思った。
父に似ていた。年齢も多分近い。父がもっとおしゃべりになった感じの。似ている。とても。
「どこからきたんですかー?」
「札幌です」
「おお!今週は割と近場の人が多めかなぁ」
(220kmも近場か。笑 そうね全国からスピッツファンが来ているのだから)
「遠いところだとどこから来てるんですか?」
「本当に全国から来るよー!最近だとね、愛知かな。ほら」
手元のメモを見せてくれた。
色んな都市の名前があって、そこに正の字がたくさん書かれている。
「うわ、すごいですね!」
「もう本当に色んなところからね、たくさん来てくれるの、本当にすごいよねーありがたいよー」
「これはみんな・・・?」
「…スピッツファン。」
ハモる私たち。
この会話からも、全国からここを訪ねてきてくれるスピッツファンへの感謝と、ここを撮影地に選んでくれたことへの感謝がものすごく滲み出ていた。この後の会話、全部に滲み出ていた。
いつもここに居る方なのかはわからないけれど、たくさんのスピッツファンと話をしているのだろう。
広い吹き抜けになった丸い天井を見上げる。小さい四角い窓の外では、葉の赤、黄、茶、そして緑色が揺れている。差し込む光が白く降りている。
白い壁。白衣の白ではなくて、羊毛の白に近い、白。
ベージュのモールディングと共に優しくて穏やかな雰囲気。
100年以上前にこれが建っていたとは…
そういえば、なぜここがスピッツの聖地と呼ばれるようになったかを説明してなかった。
2022年1月。WOWOWでスピッツの番組が放送されることに。
撮影場所に十勝を選んだのはスピッツ側で、それを受けてこの旧双葉幼稚園が選ばれた…
帯広の旧双葉幼稚園で秘密に行われたスピッツの演奏の記録。
お客さんがいるライブでもなく、オンラインライブでもなく、ドキュメンタリーでもなく、でもライブのように演奏している。そしてそれをドキュメンタリーを撮ってるような、本気のリハのような、本番のようなものを色んな角度から見ている映像作品。
曲に対する愛やリスペクトを感じる演出やカメラワーク、この丸い屋根からそそぐ光と優しさで溢れた記録。
綺麗な夕焼けも、夜の姿も何より、この場所とスピッツが、楽曲たちが、何の違和感もなく溶けていたし、優しくてナチュラルで、品があった。最初音を聞いた時、大学生の頃に教室でライブをやっていた頃を思い出した。(映像の中でメンバーも同じことを話していたけれど)
このホールにありのまま響いている音がとても良くて。
最初はWOWOWでの放送、その後映画館で上映され、更に2024年6月、DVDになった。
DVDは完全受注生産。特典にはこの旧双葉幼稚園が作れるペーパークラフトが付いている。小さな小さな幼稚園。私はまだ組み立てはいない。ここを訪れてから、そのペーパークラフトを作りたい。DVDが発売された今年中に。だからどうしても今ここへ来たかった。
朝ドラの「なつぞら」の主題歌オファーを受けて、取材と言う名の旅行、十勝、帯広を訪れて作った主題歌「優しいあの子」。リリース時には帯広、十勝エリアではたくさんのお店とのコラボ企画「優しいあんこ」企画もありました。(道産の小豆などを使ったあんこのスイーツを販売)
この後、「優しいあの子」が収録されたアルバム「見っけ」のライブツアー、2020年6月帯広で公演の予定がコロナで中止に。
そこから2021年秋。
この撮影で「優しいあの子」が演奏された。帯広の、この歴史深い場所で。「帯広に行きたくても行けなかった」ともDVDの中で話されていた。それなりの想いがずっとあったのでしょう。
(さらにその後、2023年5月発売のアルバム「ひみつスタジオ」のツアーで初めて帯広で、お客さんの前で「優しいあの子」が演奏された。帯広公演は14年ぶり。)
帯広でお客さん、ファンの方々に直接届けられるまでの道のり。お互いの想い。募りに募っていたことを感じる。
この映像を見終えた後、この場所に触れてみたいと感じるのは自然なことで、そしてスピッツの魅力と同じくらい、この旧双葉幼稚園という優しい空間には魅力がある。
スピッツと似ているのかもしれない。ずっと前からあって、優しいけど、ちょっと変わった他にはない形、造り、存在。
ここへ来るということはイコール、スピッツの名曲たちに触っている、触れているのと同じこと。
この古く優しい空間を確かめてみたくて、日本全国からここへ、ファンが訪れる。どこから来たのか、メモして数えたくなってしまう程。
ロックバンドって何?とかロックって何?というのは、とてもとても難しい話で、争いも起こせる内容で、人を傷つけることもできる内容だと思う。私はロックのロの字も語れないけれど
ここでスピッツのロックが奏でられたことで起こした奇跡というか、魔法というか、そういうものがここには在ることだけはわかったし、言える。
映るこの場所の雰囲気、質感とスピッツが奏でる音が、何の違和感もなく、同時に存在している。それが帯広にあるというのがまた不思議。。。
右耳にイヤホンをしたまま、私と話すこの方。そしてもう一人、先にここへきていたスピッツファンの方。この3人でこの後、おしゃべりしたり、色々見たり、楽しく過ごさせて頂きました。そのことと、外観の写真、帰りのJRの写真、などなどを、次の記事に書こうと思います。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
また、まだ、続きます。
大切なのでもう一度↓