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慢性肺疾患の呼吸困難感を緩和する方法はないか?

脳深部刺激療法(DBS)が呼吸困難も緩和する可能性がある。
脳深部刺激療法(DBS)
空気飢餓感:air hunger
 
パーキンソン病や本態性振戦に対する脳深部刺激療法(DBS)は、脳の特定部位に電極を挿入し持続的に刺激することで神経症状を緩和させる治療法です。メディアでも登場する頻度が増え、よく知られるようになりました。

この脳深部刺激療法(DBS)、何と「呼吸困難に有効かもしれない」という知見が出てきてます。

European Respiratory Journalに掲載されている。
「Deep brain stimulation of the motor thalamus relieves experimentally induced air hunger
(運動視床の脳深部刺激療法は実験的に誘発された空気飢餓感[air hunger]を軽減する)
(Chapman TP, et al. 
Eur Respir J.2024 Oct 28:2401156.)。

この研究は、脳卒中後の振戦の患者に脳深部刺激療法(DBS)を施すと、

COPDに伴う呼吸困難が緩和されたという過去にの報告1)に着想を得たものです。DBSが上行性呼吸困難のシグナルを緩和するかもしれない?という仮説です。

振戦の治療のために視床腹中間(Vim)核のDBSを受けた16人の患者さん(女性3人)が臨床試験の対象となりました(本態性11人、ジストニア2人、本態性とジストニアの両方1人、パーキンソン病2人)。

脳深部刺激療法DBSをオンあるいはオフにした状態で、吸入二酸化炭素濃度を上げながら換気を制限し、呼吸困難を誘発しました。呼吸困難の表現にはいくつか種類がありますが、
今回検証したのはair hunger(空気飢餓感)です。

※オン状態:DBSデバイスが作動している状態。電気刺激が視床に送られており、症状は抑制されやすい。

オフ状態:DBSデバイスが停止している状態。電気刺激は送られていないので症状は出現しやすい。
患者さんは15秒ごとにビジュアルアナログスケール(VAS)でair hungerを評価されました。air hungerは考えられる最大の呼吸困難を100とした状態で、オン状態で52±28、オフ状態で67±20でした(P=0.002)。

DBSによるair hungerの平均改善は-14.4であり、VASの臨床的に意義の
ある最小差の10を上回っています。

また、EtCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)が連続的に測定されました。
集中治療室などでモニタリングされていることが多いので、ご存じの方も
多いと思います。

高炭酸ガス血症は、オン状態とオフ状態で一致していました。
(EtCO2はそれぞれ43±4mmHg、43±4mmHg)。EtCO2レベルがほぼ同じであることは、DBSのオン/オフ状態が直接的に呼吸の生理学的パラメーターに影響を与えていないことを示唆しており、air hungerの自覚に差があったことは、DBSが中枢神経系でのair hungerの処理に影響を与えていることを示しています。

本研究により、振戦の症状を緩和するためのDBSは、呼吸困難のair hungerの要素も同時に緩和できる可能性が示されました。

これをもって呼吸困難に対してDBSが有効だと断言できるわけではないのですが、慢性呼吸器疾患(COPDや肺癌の末期、間質性肺疾患)で苦しんで
おられる患者さんは多く、将来的にこの知見が役立つ日が来るかもしれま
せん。
1)Green AL, et al. Letter to the editor: Thalamic deep brain stimulation may relieve breathlessness in COPD. 
Brain Stimul.2019:12:827-8.

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