医薬品メーカーから医師に払われている報酬(公表している)官僚、政治家、政党に払われている(非公表)癒着が生じる。これではだめ。
反キックバック法
アメリカでは、反キックバック法により、医薬品などの購入を促す見返りに報酬を支払うことは犯罪と位置づけられている。違反した場合、5年以下の禁錮刑等が科される。
これは、医師による診療上の判断が、医薬品メーカーからの働きかけで歪められることを防ぐための規定で、患者や医療制度を守る目的があるとされている。成功報酬型の価格設定は、薬剤費が返還されるかどうか、不確実性を伴う。このため規制当局は、この法律にもとづく措置を講じるかわりに、特定の契約の保護を図るほうが適切であるとみている模様だ。
このように、アメリカでは、現在の法制度が成功報酬型の価格設定を阻害しているとはいえない。ただし、新たな仕組みを拡充するときは、関連する実務上の諸ルールを整備することが前提となる。これらのルールについて、
引き続き議論・検討が進められるものとみられる。
医薬品の価値が不確実な場合でも市場投入できる
成功報酬型の価格設定の最大の利点は、早期の市場投入といえる。
価格を1つに定めるためには、医薬品の価値を評価する必要がある。
医薬品の価値が明らかな場合は、それに応じた価格設定が可能だろう。
しかし、医薬品の価値に不確実性が伴う場合、価格を1つに定めることは困難を伴う。価値と価格の間の乖離、いわゆる「ミスプライシング」が起こりかねないためだ。ミスプライシングは、医薬品メーカーの創薬インセンティブを失わせる恐れがある。このような場合、価格を成功報酬型とすれば、まず市場に投入して、後日、判明した価値に見合った適切な価格設定を行うことができる。すなわち、創薬インセンティブを維持しつつ、市場投入の早期化が図られるというメリットがある。
ただし、有効性だけに着目して医薬品の価値を評価すると、副作用の発生など、安全性の問題が抜け落ちてしまいかねない。医薬品の価値評価には、有効性と安全性をセットでみる必要がある。
成功報酬型導入の課題
欧米で行われている成功報酬型の価格設定には、いくつか課題もある。
少しみていこう。
医薬品メーカーは保険会社等との契約交渉が必要
医薬品メーカーの側からみると、新薬の承認後に、成功報酬の内容について、保険会社等と契約交渉を行う必要がある。その交渉が長引けば、それだけ手間がかかりコストの増加を招く。
また、発売できないことに伴う、利益の逸失も生じよう。これらを反映して、薬剤価格が高くなる可能性もある。
成功の定義づくりが簡単ではない
成功の定義をどのようにするかは、熟考を要する。たとえば、医薬品の効果の有無を患者ごとにみるか、集団内で改善した患者の比率でみるか、といった定義の違いがある。
これらは、医薬品が対象にする病気の種類や、効果の内容に応じて、適切に設定することが必要となる。次章の成功報酬型の医薬品の事例で、いくつか確認していこう。
同じ医薬品でも病気の種類によって価格が異なることがある
一般に、同じ医薬品でも、投与される病気の種類が違う場合、効果は異なってくる。
成功報酬型の価格設定は効果に応じて価格が決まる。このため、病気の種類に応じて価格が異なることとなる。たとえば、リンパ性白血病の治療薬であるキムリアは、成人の非ホジキンリンパ腫の治療にも用いられる。ただし、前者にだけ成功報酬型が導入されているため、両者で価格が異なることとなっている。
成功報酬型の価格設定には実務上の課題も数多く残されている
実際に医薬品の価格設定をするうえで、成功報酬型には、いくつかの実務上の課題が残されている。たとえば、アメリカでは、つぎのような課題があげられている。
成功報酬型の事例
欧米では、近年発売された新薬を中心に、成功報酬型の価格設定の導入事例が増えている。代表的なもは、これらの医薬品には、高額なものが多いことがわかる。医薬品について、いくつか、成功報酬における成功の定義をみてみよう。キムリアは、投与後1ヵ月間に病状が改善した場合に、効果があったとして、薬剤費を医薬品メーカーに支払うこととされている。
レパーサは、投与された患者が心臓発作や脳卒中となった場合に、効果がなかったとして、医薬品メーカーは領収済の薬剤費を返還することとなる。
エントレストは、投与後、心不全による入院患者の比率が低下した場合に、効果があったとして、薬剤費を医薬品メーカーに支払うこととなる。
エンブレルでは、2年契約で6つの基準による効果判定手順に基づいて薬剤費が決められる。このように、医薬品が対象とする病気等により、成功報酬の仕組みは異なっていることがわかる。