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『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第13話
◆第1話はこちら
第2章 押し入れにひそむ多佳子
6 納屋でのできごと
ある日の夕刻。
多佳子は利蔵の屋敷に来るよう言いつけられた。
使用人用の裏門を開けておくから、そこから屋敷に入り、納屋に来るようにと言われたのだ。
いつもは背中を丸め、のろのろとした足どりで歩く多佳子であったが、この日は上機嫌であった。
他の者が見たら、いつもと様子が違う多佳子に、いったい彼女はどうしたのだ、と首を傾げたに違いない。
それほど多佳子は嬉々としていた。
言われた通り、裏門から利蔵の敷地内に入った多佳子はまっすぐ納屋へ向かう。
「利蔵さん」
暗い納屋を見渡し、多佳子は利蔵の名を呼ぶ。
返事はない。
もう一度呼びかけてみるが、納屋の中には誰の姿もなかった。そこへ、突然背後で扉が閉まる音が聞こえた。
振り返ると、三人の若者が扉をふさぐように立っている。
村の男だ。
顔は知っている。
最近では夏祭りの時に彼らに嫌がらせを受けた。
伊瀬毅。
波木多郎。
山片平治。
利蔵の姿はない。
「利蔵の旦那はここには来ねえよ」
伊瀬毅が納屋の内鍵をかけ、ニヤリと笑う。
「おまえを好きにしていいって言われたんだ。もっとも、好きにしていいって言われても、おまえなんか抱いても気分が悪くなるだけだが、利蔵家には逆らえねえ」
三人の男たちは、逃げようとする多佳子を押さえつけ地面に転がした。
激しく抵抗する多佳子だが、男の力には当然のことながらかなわず、ただ手足をばたつかせ、もがくだけであった。
叫び声を上げようとした多佳子の口を、多郎が手でふさぐ。
「悪く思うな。恨むなら利蔵を恨め」
「俺たちも仕方なくやってんだ」
「でなけりゃ、おまえみたいな醜女を相手にするか」
男たちの手から逃れようと、多佳子はさらに滅茶苦茶に腕を振った。
振り上げた多佳子の爪が、馬乗りになった多郎の頬を引っ掻く。
「この女!」
頬を掻かれた多郎は顔を真っ赤にし、力一杯多佳子の頬を殴った。
それでも、多佳子は必死で抗い続けた。
「やめ……ろ」
「はは、聞いたか? いっちょまえにやめろ、だとさ」
這いつくばって扉に逃げようとする多佳子を、背後から多郎が腕を伸ばして髪を引っつかむ。そのまま、強引に引き戻そうとした瞬間、ぶちぶちという音をたて多佳子の髪がごっそりと抜けた。
多郎はうっ、と顔をしかめ、指に絡まった大量の髪の毛を取りのぞこうと激しく手を振る。
「はなせ……」
「いいから、黙れって言ってんだよ!」
多佳子の身体に覆い被さっていた多郎は、多佳子の声が出なくなるまで何度もこぶしで殴った。そのこぶしには、払いきれなかった多佳子の毛が絡まっている。
さらに、多佳子のひたいをわしづかみにし、地面に後頭部を打ちつける。
「うぐ……」
たちまち多佳子のまぶたや頬が腫れあがり、唇が切れ、口の端から血が流れた。
「おい多郎、いくらなんでもやりすぎだ。それに、おまえ酔ってるのか?」
多郎の暴行を、おろおろとした顔で見ていた山片平治が止めにかかる。
「酔ってるかって? ああそうさ、酔ってるよ! ここへ来る前にしこたま飲んできたからな。は! こんなこと、飲まなきゃやってらんねえだろう!」
狭い納屋で多郎の吐く酒臭い息が充満する。
多郎の容赦ない攻撃に、多佳子の目に涙がにじむ。
「おい見てみろ、この女、涙を流してるぜ。不細工な顔が、ますます見るに堪えられない不細工な面になってやがる!」
「なあ、よくよく考えたらこれは犯罪じゃないのか?」
「今さら何言ってんだ平治。だったら、利蔵さんをつけまわしていたこいつだって立派な犯罪だろうが」
「それはそうだけど……」
平治は顔を青ざめ逃げ腰になる。
「なんならおまえは抜けてもいいんだぜ。そのかわり、利蔵さんには平治は裏切ったと言ってやる」
「待ってくれ! そんなことをしたら俺も親父もこの村にいられなくなる。それは困るんだ」
「だったら、やるしかねえんだよ! いまさらつべこべ言うな」
多郎は多佳子の腰巻きをはぎとると、叫び声をあげようとした多佳子の口にそれを無理矢理ねじ込んだ。
「うう……うっうぐ」
「いいか、二度と利蔵さんには近づくな。これ以上、おまえに付きまとわれたら、迷惑だって言ってたぞ。許嫁に知られるのも困るってさ!」
多郎は多佳子の着物の襟口に手をかけ開いた。
多佳子の胸があらわになる。
「毅、やれ」
馬乗りになった多郎は多佳子から退き、側にいた毅に命じる。
毅と呼ばれた男は、心底嫌そうに顔を歪めた。
多佳子を抱く順番はあらかじめ、クジで決めていた。
負けた者から多佳子を抱くことになっている。
「それにしてもとんでもない醜女だな。萎えちまってできねえ」
「だが、やらねえと報酬はもらえない。分かってんのか?」
「分かってるよ。くそっ! 女の裸を見て元気がでねえのは初めてだ」
「だったら、顔を見なけりゃいい」
「そうは言っても、目の前にこいつの醜い顔があったら無理だろ」
「文句の多い奴だな。なら、これはどうだ?」
多郎は側にあった麻袋を、すっぽり多佳子の頭からかぶせた。
「これなら顔が見えねえだろ」
「確かに、見えないが……」
それでも、毅は呻き声をもらす。
「情けねえな。よし、俺からやる。毅、どけ」
多郎は多佳子にまたがっていた毅を押しのけ、多佳子の身体の上に再び馬乗りになった。
多佳子の口からくぐもった呻き声が聞こえる。
「へへへ、顔は醜女でも身体は普通の若い女のものだぜ」
多郎は激しく腰を動かし天井を仰ぎ見る。
薄気味の悪い女だと嫌々だった毅と平治も、性行為に没頭する波木の姿に徐々に肉欲に火がつき始める。
顔さえみなければ確かに若い女の肉体。
荒々しく多佳子を抱く多郎の行為に、それまでダメだった毅の一物が男をとり戻していく。
三人の男たちは代わる代わる何度も多佳子を乱暴に犯し続け、それは夜明け近くまで続いた。
「なあ、そろそろ引き上げないと夜が明けちまう」
山片平治は納屋の扉に視線を向けた。扉の隙間の向こうに、うっすらと夜明けの気配が漂い始めてきた。
「そうだな。誰かに見つかったらまずい。おい、立て」
男たちに無理矢理立たされた多佳子の股間から、血と濁った体液がだらりと内腿を伝い地面に落ちた。
多佳子から離れた多郎は、かぶせていた麻袋をとりのぞく。
「ぎゃっ!」
「うわ!」
「ひっ!」
三人とも悲鳴を上げた。
髪の毛をむしり取られた生え際から血を流し、顔を腫らし血を流した多佳子が凄まじい形相で見上げてきたからだ。
「おまえら、ゆるさない。ぜったいにゆるさない」
◇・◇・◇・◇
翌朝、利蔵は一人で納屋を訪れた。
辺りに人影がないかを確認してから、納屋の扉に手をかけ、恐る恐る扉を開ける。
瞬間、狭い納屋に停滞していた空気が一気に流れ、納屋の中から漂う生臭いにおいに鼻を押さえる。
床には投げ捨てられた麻袋が放置されてはいたが、他には特別荒らされた形跡がないことに安堵する。
ことを終え、夜が明ける前には多佳子を連れ三人とも撤収したようだ。
伊瀬毅は早くに両親を亡くし独り身だ。他に働き手となる者もなく、たった一人で畑を切り盛りして生活が厳しい。
波木多郎は酒癖が悪く、なかば村の者たちから厄介者扱いされている。
山片平治はいつも人目を気にするおどおどとした男。軽度の痴呆症の父親を抱え、仕事と親の介護に日々追われ、生活が苦しい。いろいろと金がかかるのはいうまでもない。
それぞれ、複雑な事情を抱え、生きていくのに必死だった。
利蔵は彼らの弱みにつけこみ利用した。
多佳子を辱めろと命じた三人の男たちには、じゅうぶんな報酬を与えたから口を割ることはない。もし、このことを他の誰かに口外すれば、この先、村で生活していけないことは彼らも承知のはず。
問題は多佳子だが、たとえ彼女が村の者たちに言いふらしたとしても、誰も信じようとはしないだろう。
村の権力者と、得たいの知れない不気味な女。
どちらを信用するかはあきらかだ。
以来、多佳子が利蔵の家に来ることはぴたりとなくなり、ようやく祝言を迎えようとしていた。
ー 第14話に続く ー