伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第37話
◆第1話はこちら
第3章 呪い人形
1 骨董屋でのバイト開始
紗紀は骨董屋『縁』の店内に置かれている商品を、はたきで念入りに掃除をしていた。
バイトは空いている時間、好きな時に来ればいい。
もしかしたら突然、こちらから店番をお願いすることがあるかもしれないが、そういうことはまずないと思っていい。
もちろん、無理だったら遠慮なく断ってくれてもかまわない。
とにかく、学業はもちろんだが、友人との付き合いを優先してもかまわない。
バイトの予定が入っていても、急に来られなくなったら連絡さえしてくれればいい。
お客がいない時は、店で勉強をするなり本を読むなり、好きなことをしていい。
「こんなバイト、まずないよね」
それで時給を聞いたら、驚くような高額な金額でむしろ戸惑った。
おまけに食事付き。
一空はいつもおいしいものをご馳走してくれる。
友人たちにバイトのことを話したら、ものすごく羨ましがられた。
そんな緩くて、好条件なバイトなんて聞いたことがないと。
もちろん、私だって聞いたことない。
「騙されているのよ。もしかしたら紗紀、あんた洗脳されて怪しげな宗教に入信させられるのかも」
それは絶対あり得ないから。
が──。
骨董屋のバイトも兼ねた霊能者の修行だと考えると、決して気楽で割のいいバイトともいえない。
何しろ、店に並ぶ品々の多くがいわく付きのものだから。
この間の呪いの指輪のように、触れた途端、突然体調を崩して倒れてしまうことだってある。
それに、霊能者修行だって最悪、命にかかわることがある。
命にかかわるなど大袈裟だと思うかも知れないが、前回の〝鏡の中の一空事件〟がいい例だ。
凄腕霊能者の一空でさえ、あの時は辛そうな顔をしていたのだから一歩間違えば、あるいは素人なら、確実に命を落としていた。
とはいえ、それでも子どもの頃からずっと悩まされていた、見たくもないのに視えてしまう霊や、望んでもいないのに受けてしまった霊障を自分の力で何とかできるようになるなら、決して悪くはない話ではある。
それも、師匠となってくれるのが、あの超人気有名霊能者、伊月一空なのだから。
あれ? と、はたきをかける手をとめ、店の奥、カウンター横の椅子に座って本を読んでいる一空をちらりと見る。
超人気というわりにはああして、いつものんびりと本を読んでいるよね。
いや、と紗紀は首を横に振った。
ああして暇そうにしているけれど、実はもの凄く大変なのかも。
もしくは他人に忙しくしているところを見られたくない、陰の頑張り屋さんかも。
それよりも、彼のことに関して、見た目がチャラ男な弁護士、チャラ弁が言っていたことを思い出す。
それは前回の鏡事件の直後であった。
ー 第38話に続く ー