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『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第11話

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第2章 押し入れにひそむ多佳子

4 余所者の女

  あれ以来、体調を崩すことはなくなった。おそらく一時的なものだったのだろう。
 突然胸のあたりに激痛が走り、どうにかなってしまうのかと思ったが、やはりストレスが原因だったのかもしれない。

 慣れない土地に、慣れない生活。
 変化した環境。
 難しい人間関係。
 それらすべてが一気にのしかかり、自分ではそうとは思わなくても、心身ともに負担に感じていたのだ。

 八坂医師が言っていた通り、私って意外に繊細だったのかしら。
 なんてね。

 笑いながら雪子は両手でぱしりと自分の頬を叩く。
 しっかりしなければ。
 自分からみんなと打ち解けていくよう、心がけなければ。
 世津子さんに、少しでも気に入られるよう努力しなければ。
 大丈夫。私なら頑張れる。
 この程度で弱音を吐くなんて、私らしくない。

 雪子は気を引き締め活を入れる。
 何より、嫁いだ以上、後戻りはできないのだから。
 それに祝言はもう間もなくにひかえている。そうなれば、自分は正式に隆史の妻となる。

 そう自分に言い聞かせ、頑張ろうと思ったある日のことだった。
 お風呂からあがり、離れの自室に戻ろうとしたその時、隆史の部屋から話し声が聞こえた。
「だから、余所者の女などこの屋敷に迎え入れたくなかったのです」
 余所者という言葉につい反応してしまい、雪子は思わず立ち止まった。
 立ち聞きはよくないと思いつつも、足がその場から動けない。

「そうはいっても……」
「あの女、私のご機嫌をとろうとしているのがみえみえなのです。使用人たちにもこびへつらって手懐けようとしているのですよ! なんていやらしい女。それに、私は一生懸命頑張っています。努力しています、とあからさまな態度が鼻について、気に入らないわ!」
 間違いなく、自分のことを言っているのだ。

 私、そんなふうに思われていたのね。

「まだ式をあげる前です。理由をつけてあの女を返してしまいましょう」
 気に入らないから実家に送り返してしまえ。
 世津子の口ぶりは、まるで荷物かなにかのような物言いだ。
「そもそも、あんな年のいきすぎた女に子を孕めるとは思えません。もっと若い娘を選ぶべきでした」
 雪子は足元に視線を落とす。

 それほどまでに、自分は世津子に嫌われているのだと改めて知る。
 分かっていたとはいえ、こうもはっきり言われてしまうと傷つく。
「雪子さんはまだ二十四歳ですよ。じゅうぶん……」
「二十四だなんて! たとえ子ができたとしても高齢出産。無事に産んでくれるかどうかも怪しいものです!」

 年齢のことだって、いまさらだ。
 最初から分かっていたではないか。

「とはいえ、この利蔵の家に子をなせるのは、村の外から娶った余所者なのだから。だから今、雪子さんにここを去られては元も子もないでしょう?」
「だったらなぜ、もっと若い女を見つけて来なかったの? 子どもが産めそうな若い娘なら他にいたでしょう!」
「町で知り合ったのが、たまたま雪子さんだったから」

 たまたま?
 そうか、そうだったんだ。
 跡継ぎを産むなら、誰でもよかったんだ。

「ああ……こんなことになったのも、すべて〝たかこ〟のせい。たかこがこの利蔵家に厄を持ち込んだから。とにかく誰でもいいから跡継ぎを産んでさえくれれば……隆史? この際だから、お妾さんでも囲いなさい。私が許します」
 これ以上聞くことはできなかった。
 いや、聞かなければよかったと後悔する。

 雪子はうなだれたまま、その場を後にする。
 自分は子どもを産むためだけに町から迎えられた。
 望まれたわけではなかった。
 何となくおかしいと思ったのだ。

 隆史ほどの家柄と、若くて見た目の良い男性がなぜ、余所者で凡庸な自分を嫁に選んだのか、不思議に思っていた。
 雪子はふと立ち止まり、一度だけ隆史の部屋をかえりみる。
 先ほどの会話に、一人の女性とおぼしき名前が出たことを思い出す。

「〝たかこ〟のせい? たかこがこの家に厄をもたらした? たかこって、いったい誰?」

ー 第12話に続く ー 

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