【詩】システム梗概
これはシステムという物語のあらすじです。
これは物語ですが、本当にあったお話です。
本文は至る場所に在り、万物の中に格納されているので、読むのに何億光年もかかる出来事です。
ですが、これはあらすじなのでこの原稿用紙数枚です。
正確には、主人公=僕が生まれてから死ぬまで耳に目にした四半世紀の一部を十枚に圧縮します。
こんなことを書いていても仕方がないので早速始めます。
目覚める
スマートフォンを布団から伸びた手が掴む
今午前三時
昨日九時に寝たから六時間で目が覚める
毎日同じ
地球の回転
銀河の呼吸
天体の軌道
ビッグバンから続く習慣
目覚まし音がスマートフォンから聞こえ
黒のジャージーに着替えて机に座る
膝に白い文字でHave a good dayの刺繍
美しく印象的な字体
この服を買う気にさせた刺繍
ブランドのロゴ 宗教的な価値観
香水 ファッション 混んでいるレストラン
パソコンを起動して文字と数字を入力
今日の計画をカレンダーに書き込む
あらかじめ表示された予定と重なると警告音
警告音は緊急時には必ず発生
銀行の金庫が破られた時
軍の防御網が突破された時
救急車が走る時
パトカーが本気になる時 とか
欠伸をして冴えない頭を働かそうと
コーヒーを電気ポットで沸かす
英語だと I make some coffee
日本語とは主語と述語が逆になる文法
SomeのSの発音は舌先を下の前歯の付け根につける
カフェインが脳を刺激
見えない所から電気が流れて来て
湯気が部屋に浮かぶ
しかしすぐに部屋に溶け込む
物理法則 飽和濃度に達しないから
今日が進む
午前六時になったので
朝食のスムージーにトマトとセロリを入れる
ジューサーの刃が回転し赤緑の液体が誕生
新鮮な舌触り ビタミンの確保 健康になれる予感
リュックを背負って
電車に乗る
アプリがモバイルフォンの画面に並んでいる
交通案内で鉄道運行状況のチェック
人と言葉が交錯しているプラットホーム
電光掲示板が列車の遅延案内
駅員のスピーカー放送
復旧の見通しは立っていません
お客様にはご迷惑をお掛けします
この国では昔から同じ台詞だ
今日はついてないな
気分を変えよう
出来心で休暇にして街をぶらぶらする
会社に連絡するのに先週まではメールだった今週からチャットになった
彼女とデートしようとしたがあいにく仕事で会えない
喫茶店に行って本でも読むか
僕はkindleが好きでない
つかみどころのない手触り
距離感を覚える
文字が言葉でなく情報として感じられる
間が無い
紙は僕にとって神だ
石板より軽いしパラパラと捲って遊べる
パピルスという言葉の響きも好きだ
春先の寒くない朝
オープンカフェの円卓
あいにく空いている席は一つ
お気に入りの隣の席には中年の女性が先に座っていた
彼女の膝の上に座りたかったがもしそうしたらすぐに逮捕されるだろう
それが法律という見えない暗黙の了解事項
鳩が訪れる足元
誰かがこぼしたポップコーン
強度な鳥の嗅覚
首を前後に揺らしてジグザグに動き回る
空が彼らの影になる
注文を取りに来るウェイトレス
紺色のワンピースの制服
彼女はいつものやつかと訊いた
微笑んで
漂うモーニングセットの香り
通りの向こう側
若い女性が黄色いスカートで通り過ぎ
彼女は金髪で魅力的だった
こちらを振り向かないか
若い男として僕は期待する
残念ながらそれは無かった
テーブルに広げた本の上に覆い被さる黒い影
見上げる前に
振動と炸裂音
強烈な熱気で僕の視界は溶け
その何億万分の一秒の間に
システムから解放される快感と激痛を感じた
この先は分からない しかし
今まで通り自動進行するだろう
大都会の一部が焦げたように黒ずんで煙を上げ
悲惨で聴こえないくらいの悲鳴と啜り泣き
蜻蛉のように行き来するヘリコプター
駆けつける救急車と消防車とパトカー
消火 見守る群衆
怪我人の救出と病院への搬送
テレビやSNSの情報拡散
行方不明者の捜索(私を含む)
救出犬が尻尾を振る
かつての地震の時も
同じようなシーン
テロの犯行声明
首相の反声明
航空会社トップの声明
墜落した民間機の事故調査委員会による原因究明
模倣犯 脅迫電話
追悼式
儀式はシュメール人が好んだ
慰霊碑
に刻まれた楔形文字みたいなもの
最後に私が思いたかったのは
自分がシステムでない証明
運
個性
思いつき
気まぐれ
直感
好き嫌い
笑う
走る
微笑む
後ろ向きに歩く
遠回りする
言葉で遊ぶ
「ば」を入れるとか 例えば「おはよう」を「おぼはばよぼうぶ」と言う
これはシステムでない
感情はシステムでない
いいえ 分泌されるホルモンのせい?
先祖の誰かからのDNAの仕業?
それに
たられば
もし今日 会社を休まなかったら
事件を二十階のオフィスで知るはずだった
A Iが詩が嫌いなことを祈りたい