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ストーリー作り|学びの記録.09 主人公&作者への試練が物語を動かす

物語の役割は、主人公を予想もしない試練の中に置き、その試練をどう乗り越えるのかを読者に追体験させることにあります。特に現実ではあり得ない状況に主人公を置くことで、非日常的な体験を提供し、読者に興味を抱かせます。今回は、主人公に試練を与える方法やその効果について学びました。


読者のために主人公に試練を与える

物語が読者に面白いと感じられる理由は、主人公が試練に苦しむ様子を観察しながら、自分ならどう対応するかを学ぶためです。主人公が苦しむことで、読者は間接的に困難を乗り越える知識を得られ、実際に苦しむことなく新たな学びを得られるのです。そのため、物語の中で主人公には本気で苦しんでもらう必要があります。主人公が心底から苦しむことで、読者は感情移入し、その試練を自分のことのように感じます。このプロセスを通じて、読者は物語から価値ある学びを得られるのです。

ここでの作者の重要な役割は、主人公の計画や期待を意図的に崩壊させ、物語を深める工夫をすることです。仕掛けを考え、徐々に災難を増幅させることで、読者は緊張感を持ちながら次の展開を楽しむことができます。読者を魅了する物語作りには、自分の可愛い主人公を苦しませる勇気が必要です。

主人公を鍛えるために試練を与えよう

物語を魅力的にするには、主人公をあえて苦しませる必要があります。読者を引き込み、主人公を成長させるために、どのような試練を与えるべきか。その方法と意義を深掘りします。

読者のためを思って、主人公に試練を与える

主人公が直面する困難は、物語を創る作者が用意するものです。愛する主人公を守りたくなる気持ちはわかりますが、それでは読者が楽しめる物語は生まれません。主人公が避け続けてきた問題に立ち向かうようなプロットを作り、困難を増していきましょう。
たとえば、主人公が成功しそうな瞬間を演出することで油断を誘い、そこから予想外の打撃を加えます。試練を重ねることで、主人公は初めて「英雄」としての立場を確立できるのです。

苦難こそが主人公を成長させる
物語の本質は、挑戦と困難の連続にあります。主人公がゴールにふさわしい存在であることを示すためには、困難を乗り越える過程が必要です。
良い行いが報われるどころか、手荒な扱いを受けることもあるでしょう。ときには、全てが順調に進んでいるように見えても、それがさらなる試練の伏線となる場合もあります。
主人公が「降参!」と叫ぶほどの圧力をかけ続けることが、読者にとっても心に響く物語を生み出す鍵となるのです。

試練がなければ英雄は生まれない

主人公を苦しませるのは、意地悪ではありません。それは彼らを成長させ、読者に感情移入させるための作家の愛情表現です。どんなに苦しい状況でも圧力をかけ続けることで、物語はより感動的で深いものになります。
主人公が苦難を乗り越え、最後に栄光を手にする姿は、読者に大きなカタルシスを与えます。彼らが英雄になるためには、作者が心を鬼にして試練を与える覚悟を持たなければなりません。

主人公を鍛え上げることは作者の責任です。その過程で作者自身が苦しくなることもあるでしょう。しかし、その試練こそが、読者を物語の世界に引き込み、心を揺さぶる力となります。主人公をいじめる勇気を持ち、彼らを真の英雄へと成長させましょう。

主人公を鍛える「恥」の試練とは?

物語において、主人公を成長させる試練のひとつが「恥をかくこと」です。身体的な痛みとは異なり、恥や屈辱は深く残り、主人公の内面を揺さぶります。この特別な試練がどのように物語を深め、主人公を英雄へと導くのかを解説します。

主人公に「恥」を与える理由

恥は物語において特別な役割を果たします。それは、単なる身体的な痛み以上に主人公の内面を掘り下げる要素です。身体の傷は時間とともに癒えますが、恥や屈辱は消えず、何年も心に残ります。この「社会的な痛み」は、主人公にとって避けられない試練となり、読者に深い共感を与える要因となるのです。
たとえば、主人公が過ちを犯し、それが公然と知られるシーンは、彼の内面をえぐり出します。その一方で、この屈辱を乗り越える過程が、彼を成長させる糧となります。

恥を克服するプロットの重要性
物語の中で主人公に恥や屈辱を克服させるプロットは、成長を描くのに最適です。読者が主人公の計画を知ったうえで、それが挫折する瞬間を目撃させることは、ストーリーに緊張感を生み出します。
主人公がこの挫折を克服するためには、何度も試練を経験し、準備を整える必要があります。越えるべき最後の障害がとてつもなく高いものであればあるほど、試練は効果を発揮します。

試練を通じて英雄へ

主人公が恥を克服し、成長する姿は読者に感動を与えます。計画が破綻し、屈辱に耐えながらも立ち上がる主人公の姿は、物語のクライマックスをより輝かせるでしょう。
このために、作者としては主人公を鍛え続けることが求められます。彼らに多くの試練を与え、成長への道筋を作るのが、物語の鍵となるのです。

「恥」という試練は、主人公を英雄へと成長させるための強力なツールです。試練を恐れず、主人公を鍛え抜くことで、物語はさらに深みを増し、読者を魅了するものとなります。

都合の悪い事実を認めるときには理由が必要

物語において、主人公が都合の悪い事実を認めたり明かしたりする際には、それ相応の理由が必要です。理由のない告白や説明は、物語の緊張感を損ね、キャラクターのリアリティを弱めます。

主人公に理由なく認めさせてはならない

物語では、主人公が自分の秘密や感情を認めるとき、そこには必ず「理由」が必要です。たとえば、幼少期に無理やり何かをやらされそうになった経験を思い出してください。そのときの自分が「絶対に認めない!」と抵抗したように、主人公も簡単に白旗を上げるべきではありません。

認める理由がないと物語の緊張感が失われる
何かを認める行為は、物語における「情報の取引」ともいえます。この取引が簡単に行われてしまうと、物語の緊張感が一気に薄れてしまいます。たとえば、主人公が自らの秘密をただ感情的になって明かしてしまう場面は、不自然で読者を失望させかねません。
情報は通貨のようなものだと考えてください。通貨には価値があり、それを得るには何らかの努力や対価が必要です。物語の中でも同じで、主人公が何かを認める際には、明確な理由や動機が必要です。

認めるときに必要な条件

主人公が何かを認めるとき、それがただの偶然や気まぐれではいけません。以下のような強制力や動機が必要です。

・強制的な状況:たとえば、頭に銃を突きつけられるなど、物理的に抵抗できない状況。
・得るべきものがある場合:情報を明かすことで、主人公が何か利益を得る。
・危機を回避するため:情報を提供しないと、さらに状況が悪化する場合。

主人公が特に理由もなく何かを認めてしまうと、キャラクターの信念や葛藤が弱くなり、読者にとってその行動が説得力を持たなくなります。このため、物語を進める上では、主人公が行動や言葉に対して「いたしかたない理由」が必要です。

主人公を説得力ある行動に導くために

主人公にとって、認めることや明かすことは重要なターニングポイントです。この瞬間をドラマチックに、そしてリアリティを持たせるには、読者が「そうなるしかなかった」と納得する理由づけを提供することが大切です。それは強制力、利益、または危機回避のような動機で支えられるべきです。このようにキャラクターにしっかりとした動機を与えることで、物語の緊張感と信憑性が高まり、読者を惹きつける展開を作り上げることができます。

主人公の秘密を物語に活かす

物語を魅力的にする要素のひとつが、主人公の秘密です。しかし、その秘密をただ隠しておくだけでは物語の力を最大限に引き出すことはできません。

主人公が秘密を守る理由

人が秘密を守る理由はただひとつです。それは、秘密が明らかになることで何かが変わることを恐れているからです。変化を避けるために秘密を抱える心理は、物語の中で主人公の葛藤を生み出す重要な要素となります。
しかし、物語の中では主人公に簡単に秘密を守らせてはいけません。秘密とは、主人公の脳内で「明かしたい部分」と「隠したい部分」のせめぎ合いの結果です。この葛藤こそが、物語に深みと緊張感を与えるからです。

読者には秘密を知らせよう

もうひとつ重要なのは、主人公の秘密を読者には隠さないことです。読者は物語の「事情通」でありたいと望むものです。主人公が隠している秘密を読者に明かすことで、読者は物語への理解を深め、主人公の行動に対する緊張感を楽しむことができます。
たとえば、主人公の言葉と本音のギャップが読者に伝わることで、物語の中に新たな緊張感と期待感が生まれます。この「秘密を知る特権」が、読者を物語に引き込む強力な武器となるのです。

主人公の秘密を物語の推進力にする

秘密を単に隠すだけでなく、次のポイントを意識することで物語をさらに魅力的にできます。

・秘密を守る理由を明確に描く:主人公が何を恐れているのか、どんなリスクを避けようとしているのかを示しましょう。
・秘密を明かさざるを得ない状況を作る:緊迫した場面や避けられない対立を通じて、主人公の秘密を暴きましょう。
・読者との情報共有を大切にする:秘密を読者に明かすことで、物語への没入感を高めます。

主人公の秘密は物語を動かす強力な要素ですが、それをただ隠しておくだけでは効果が半減します。秘密を守りたい主人公と、それを明かさせようとする物語の構造を作ることで、読者に緊張感と楽しさを提供しましょう。また、秘密を読者と共有することで、主人公の葛藤をより深く味わわせることができます。主人公が秘密を明かす瞬間こそが、物語の真価を問われる場面となるのです。

主人公の行動が逆効果となる展開をどう活かすか?

物語に緊張感を与える方法のひとつが、主人公の行動によって状況がさらに悪化する展開を描くことです。この手法は、主人公に新たなハードルを課し、読者を物語に引き込みます。

主人公の判断が新たな引き金になる

物語の中では、主人公の一つの判断が次の行動の引き金を引き、さらなる混乱を招くことがあります。この連鎖によって、物語は緊張感を高め、読者に「次はどうなるのか」と期待させる力を持つのです。状況が悪化することで、主人公は新たな視点で状況を見直し、次の手を考えざるを得なくなります。これが物語のダイナミズムを生むポイントです。

例文①
響子は、長年片思いをしていた優作に近づくため、彼が勤める広告代理店に応募し、採用されることに成功した。しかも運良く、彼の部署に配属され、毎日顔を合わせることができるようになる。だが、響子が持ち前のスキルで業績を上げるたび、優作は彼女と比較され、次第に肩身の狭い思いをするようになった。最終的に、優作は別の支社への転勤を余儀なくされ、響子との距離はさらに広がる。
一方、響子の努力が評価され、上司から大きなプロジェクトのリーダーに抜擢される。しかし、その仕事の責任の重さが彼女の生活を圧迫し、優作との関係を築くどころか、自分自身も疲弊していく。最初は優作に近づくための行動だったが、結果的に響子の計画はすべて裏目に出てしまう。

例文①では、小さな判断が予期せぬ大きな結果を引き起こすことで物語に皮肉な展開を生み出しています。主人公が状況をコントロールしようとした結果、思いがけない方向に物語が進んでいます。

例文②
響子は片思いの相手である優作に近づくため、勇気を振り絞って彼の勤める会社に入社する。入念な計画の末、同じ部署に配属された響子は、ランチタイムを利用して彼に手作りのお弁当を差し出し、ついに告白のチャンスを得た。優作は驚いた顔をしたものの、突然響子を抱きしめ「僕も君をずっと見てた」と答える。喜びに震える響子。しかしその後、優作が続けた言葉は予想外だった。
「君のこと、フィギュアたちの笑顔を一体ずつ眺める時間くらい愛してるよ。」
その後、彼がSNSに投稿した部屋いっぱいに並べられたフィギュアの写真と、それぞれのポーズや表情を解説した長文キャプションを目にした響子は、自分の選択を大いに後悔することになる。

例文②では、主人公が計画通りに目標を達成したにもかかわらず、その結果が皮肉な方向に転じています。主人公の成功が予想外の不快感や滑稽さを伴うことで、ストーリーにユーモアや感情のねじれをもたらしています。

主人公の失敗が物語を動かす

主人公の行動によって状況がさらに悪化する展開は、物語に緊張感や予想外の展開をもたらし、読者の興味を引きつけます。さらに、状況を改善しようとする主人公の努力が新たな問題を引き起こすことで、物語は予測不可能でスリリングな展開を生み出します。この過程では、主人公が困難に直面し続けるため、読者は「次に何が起きるのか」という期待感を抱き、物語を読み進めたくなります。

また、一見成功したように見える展開が予期せぬ厄介な事態を招くと、読者はその意外性に驚き、物語に引き込まれるきっかけになります。このような皮肉な結果を通じて、主人公が行動を見直し、成長する過程を描くことで、キャラクターの魅力がさらに増すのです。

主人公に安堵の暇を与えるな

物語を面白くする秘訣は、主人公の望みが簡単には叶わず、状況が予想外に悪化していく展開にあります。読者や観客は、問題が解決するどころか事態がさらに混乱する様子に引き込まれるものです。

「すべては悪い方向に向かう」展開とは?

物語における悪化の基本原則は、主人公が最小限の努力で問題を解決しようとする一方で、事態が予想外に悪化することです。最初のうち主人公は、欲しいものを簡単に手に入れる幻想を抱きます。読者もまた、その幻想に共感し、問題がスムーズに解決すると思い込むでしょう。しかし、物語では「簡単にはいかない」ことが必須です。

たとえば、主人公が「この問題さえ解決すれば、すべて上手くいく」と楽観的に構える瞬間、そこに新たなトラブルが訪れます。映画や小説で、主人公が「少なくともこれ以上悪いことは起きない」と言った直後、さらに最悪な事態が起きるのはお約束です。この展開こそが読者を引きつける要因なのです。

悪化の展開が生む緊張感

物語が順調に進むだけでは、読者はすぐに飽きてしまいます。一見問題が解決したかのように見える展開を用意し、その後にさらなる試練を加えることで、緊張感を持続させることができます。特に、主人公が「これで全て解決だ」と安心する瞬間こそ、新たな試練を生み出す絶好の機会です。
こうした展開は、読者の脳に「次は何が起きるのだろう?」という期待感を植え付け、物語を先へ進める原動力となります。

主人公の計画を崩壊させる
主人公が最小限の努力で成功を夢見る一方で、その計画を壊す展開を仕込むことが重要です。たとえば、「この契約がまとまれば成功だ」と思い込んでいた主人公が、信じていた協力者に裏切られるなど、予想外の展開を作ります。

読者を裏切る演出
物語が順調に進むと思わせた直後に逆転劇を仕掛けると、読者の驚きや興奮を引き出すことができます。「次は大丈夫だろう」と思わせた瞬間に、さらに大きな問題を提示するのです。

物語を面白くする鍵は、主人公に簡単な解決を許さないことです。悪化の連続を描くことで、読者は主人公に感情移入し、共に困難を乗り越えようとする気持ちになります。そして、苦難の中で奮闘する主人公の姿を通して、物語が持つ力強いテーマや感動が読者の心に残るのです。

リスクのエスカレートが主人公を成長させる

物語の中で主人公が小さなリスクから大きな賭けへと挑む過程は、キャラクターの成長を際立たせる重要な要素です。主人公がどのように困難に直面し、成長していくのか。その過程にドラマを生むための工夫について、学んだことを紹介します。

リスクの増大とキャラクターの変化

物語の魅力は、主人公が最初は些細なリスクに怯えるところから始まり、物語が進むにつれて大きな賭けに挑むようになるプロセスにあります。このようなリスクのエスカレートを描くことで、主人公の内面的な成長を自然に見せることができます。

ここで、ジョン・ヒューズの1986年の映画『フェリスはある朝突然に』の例を紹介します。

『フェリスはある朝突然に』ストーリー
高校生のフェリス・ビューラーは、学校をサボるために病気を装い、親友のキャメロンとガールフレンドのスローンを巻き込んでシカゴ市内で冒険を繰り広げます。フェリスはキャメロンの父親が大切にしている高価なフェラーリを無断で使い、観光地巡りやパレードへの飛び入り参加など大胆な行動を楽しみます。
一方、彼の不在を疑う校長や姉が彼の嘘を暴こうと追いかける中、フェリスたちはさまざまなトラブルに遭遇。それでもフェリスは機転を利かせてピンチを切り抜けます。
最終的には、キャメロンが父親との対立を乗り越える決意を固め、フェリスは両親に嘘を見破られることなく家に帰り着く、という痛快なエンディングを迎えます。

フェリスの親友であるキャメロンは、最初は父親のビンテージフェラーリをだまって運転することに強い抵抗を示します。しかし、フェリスの巧みな説得により渋々承諾したことで、キャメロンの冒険が始まります。

物語を通じたキャラクターの成長
キャメロンはフェラーリを運転する中で、車が危機にさらされるたびに自分の度胸が試される状況に直面します。最初は文句や不安ばかりだったキャメロンですが、次第にタフさを身に付け、父親に従順だった自分の姿勢を見直すようになります。

物語のクライマックスでは、キャメロンが車を壊した責任を自ら引き受ける覚悟を決めるまでに成長します。この変化は、フェラーリという象徴的なアイテムを通じて描かれることで、強い印象を与えます。

エスカレートするリスクを物語に組み込むポイント

序盤:小さなリスクと葛藤
主人公が些細なことで悩む様子を描き、読者に共感を与える。キャメロンがフェラーリを運転するかどうか悩むシーンがその典型例です。

中盤:トラブルを増やす
主人公が次々と予想外の出来事に直面することで、困難がエスカレートしていく過程を描きます。キャメロンがフェラーリの走行距離が増えるたびに焦る描写が物語の緊張感を高めます。

終盤:大きな賭けと決断
クライマックスで、主人公が自らの意思で最も大きな賭けに挑む姿を描く。キャメロンが父親に真実を告げる覚悟を決める場面は、その成長の象徴です。

主人公が小さなリスクから大きな賭けへと挑む物語は、読者に共感と興奮をもたらします。エスカレートするリスクを通じて主人公が成長し、最終的に困難に立ち向かう姿を描くことで、物語はより強い感動を与えるものとなるでしょう。

主人公に楽な道を選ばせない

物語の中で、主人公に簡単な道を用意するのは禁物です。主人公が努力して何かを手に入れるプロセスこそが、主人公を英雄にするのです。

楽な道には罠がある

主人公が簡単に何かを得ることは、物語の緊張感を失わせるだけでなく、読者の期待を裏切る行為です。物語の魅力は、主人公が困難に直面し、それをどう乗り越えるかを通じて成長する姿にあります。努力せず得られるものは最悪の結果をもたらすことが多く、主人公にとっても読者にとっても満足感のない展開になってしまいます。

試練が物語を進化させる

物語は「試練の瀬戸際で人間がどのように対応するかを試す」ためのものです。読者は、主人公が試練にどう反応し、それをどう克服するかを通じて物語に引き込まれます。予想外の方法で試練に挑む姿を描くことで、読者を飽きさせません。

主人公に努力を求める理由

主人公が試練を経て得る成功は、物語の中で最も感動を生む要素です。簡単に得られるものに価値はなく、困難を乗り越える姿こそが読者の心を打ちます。だからこそ、主人公には決して楽な道を歩ませてはいけません。それは物語を魅力的にし、読者に深い満足感を与えるために必要不可欠な要素なのです。

物語の中で主人公に試練を与えることは、単なる演出ではありません。読者が主人公とともに苦難を乗り越え、物語の旅路を共有するための重要なプロセスです。たやすく得られるものを避けさせ、困難を通じて成長する主人公を描くことで、物語はさらに心に響くものとなるでしょう。

主人公に嘘をつかせて物語をスリリングにする

現実では嫌われる嘘も、物語の中では強力なスパイスになります。嘘をつく主人公は読者の興味を引きつけ、ストーリーに緊張感やスリルをもたらします。

嘘をつく主人公が読者を引きつける理由

嘘をつく主人公は、読者に「なぜ嘘をついたのか?」という疑問を抱かせます。この疑問が読者の興味を引き、主人公の意外な一面や秘密を探りたくなるのです。嘘をつくことで、普段は平凡に見えるキャラクターも一気に魅力的に感じられるようになります。
また、主人公が嘘をついた瞬間、それが読者に明確に伝わることが重要です。嘘がどんな結果をもたらすのか、真実が明らかになるまでの過程を想像させることで、読者にページをめくらせる力となります。

嘘はばれるべきか?

嘘がばれることは、物語の緊張感を高め、主人公の成長や変化を描くために有効です。一方で、嘘がばれない展開も可能です。ただし、その場合も理由が明確でなければなりません。嘘を隠し通すこと自体が主人公の特徴や物語のテーマを補強する場合、読者に強い印象を与えることができます。
たとえば、パトリシア・ハイスミスの小説『リプリー』シリーズでは、主人公トム・リプリーが犯罪を隠し続けることで物語が進行します。リプリーが抱く嘘がばれる恐怖と、読者が「いつかばれるのではないか」と予測しながら読み進めるスリルが、この作品の大きな魅力です。

作者としての嘘の使い方

物語を作る作者も、ある意味で嘘をついている存在です。ただし、その嘘は「読者に気づかれないためのもの」であり、物語の中で真実が損なわれる嘘をついてはいけません。読者が物語を信頼しなくなれば、物語全体の魅力が失われてしまうからです。そのため、嘘を扱う際には以下の点を意識する必要があります。
まず、嘘であることが読者に明確に伝わるようにすることが重要です。嘘であると明示されないと、真実が明らかになったときの驚きや楽しさが薄れてしまいます。また、嘘がストーリーにどのような影響を及ぼすかを丁寧に描くことで、嘘がもたらす波紋が広がり、読者は物語にさらに引き込まれるでしょう。

主人公に嘘をつかせることは、物語に緊張感やスリルを与える強力な手法です。ただし、嘘をつかせる際はその理由や影響を明確にし、読者を引き込む要素として効果的に活用することが重要です。物語の展開に合わせて嘘を巧みに使い分け、読者を惹きつけるストーリーを作りましょう。

敵と時間を利用して物語を動かす

物語を動かすためには、曖昧な脅威ではなく、具体的でエスカレートする「危機」が必要です。さらに「刻々と迫る時間制限」を加えることで、主人公の行動に緊張感と集中力を生み出します。

敵対勢力は曖昧ではなく具体的に描く

物語に敵対勢力が必要です。敵がなければ主人公が立ち向かうものもなく、自分の価値を証明する機会も生まれません。しかし、敵が抽象的だったり、行動に移らず曖昧な存在であれば、物語は緊張感を欠き、退屈になってしまいます。

敵対勢力は必ずしも人間である必要はありません。例えば、「社会の厳しい束縛」や「制御されていないテクノロジー」といった概念は敵になり得ます。しかし、概念は抽象的なものです。こういった敵対勢力は、そのままでは物語を動かすことができません。

概念そのものは、物理的にも感情的にも人に影響を与えることはありません。人に影響を与えるのは、具体的な存在です。もし概念を敵対勢力とするなら、それは主人公の意思を変えようとする特定の登場人物として具現化する必要があります。

時間制限の設定が物語の推進力となる

緊張感をさらに高めるために必要なものが「時間制限の設定」です。時間制限があることで、主人公の行動に切迫感が生まれ、物語の推進力となります。

例文
「真夜中までに遺書を見つけなければ、屋敷が親戚の手に渡ってしまう!」
この設定があれば、主人公は余計なことに気を取られている暇はありません。屋敷中を必死に探し回り、限られた時間内で解決しようとする焦燥感が生まれます。もし時間制限がなければ、主人公はのんびりと行動してしまい、物語の緊張感は失われてしまうでしょう。

時間制限が提示された瞬間に物語は一気に加速します。クライマックスで時間がギリギリまで迫る展開を描けば、読者は手に汗握る展開に引き込まれます。また、時間制限は主人公を焦らせるだけでなく、作者自身の脱線も防ぎます。物語を本筋に引き戻し、目的達成への道を明確にする役割を果たすのです。

危機は時間とともにエスカレートさせる

危機は、時間とともにエスカレートさせなければなりません。最初は小さな障害でも、それが次第に主人公を追い詰めるほどの危機へと発展する展開が物語を盛り上げます。敵が行動を起こさないままでは、物語に「今そこにある危険」が感じられず、読者の興味は薄れてしまうでしょう。
具体的な敵と刻々と迫る時間。これらがうまく組み合わさることで、主人公の選択に重みがでて、物語に緊張感と引き込まれる展開が生まれるのです。

物語に必要なのは、曖昧ではなく具体的な敵対勢力と、緊迫感を生む「時間制限」です。敵対勢力をしっかり具現化し、時間制限を設定することで、読者は物語りをハラハラとしながら読み進め、主人公の選択と成長に共感し、次の展開が気になるようになるでしょう。

完璧だと悪人も善人も単調になる

悪役が「完全に悪」、主人公が「完全に善」という構図は単調になりがちです。たとえば、すべてが完璧な主人公(仕事も家庭も順風満帆、常に正しい行動をとり、欠点が一つもない)が登場すると、読者は不自然さや違和感を覚えてしまいます。「この人、何か裏があるのでは?」と疑いたくなるのも自然なことです。

物語においては、悪役であっても「良い面」や「弱さ」を見せることで人間味が生まれます。その人間らしさがキャラクターの魅力となり、物語に引き込まれる要素になるのです。近年、この手法を取り入れた作品が増えていることからも、その効果が高く評価されているといえるでしょう。

悪役に「良い面」を与える理由

現実の世界でも、悪人が自分を悪だと認識して行動することは少ないものです。たとえ歴史上の暴君や独裁者であっても、多くは「自分は正しいことをしている」と信じ、神や国家、あるいは大義の名のもとに行動しています。
物語においても同様です。悪役がただ「悪いことをするだけの存在」では、読者は感情移入できません。悪役にも良い面や信念を持たせることで、かえってその行動の異常性や嫌悪感が際立ち、より興味深いキャラクターになります。

変化の可能性を残すことで物語が深まる

悪役に少しでも良いところを持たせると、「もしかしたらこのキャラクターは変わるかもしれない」という期待感が生まれます。もちろん、物語の中で必ずしも悪役を改心させる必要はありません。しかし、「変わる可能性」をほのめかすだけでも、キャラクターに奥行きが加わり、読者は彼らに対して様々な期待感を抱くことになります。

魅力的な悪役の描き方
例えば、冷酷無比な独裁者を登場させるとします。彼は人々を抑圧し、反対者を容赦なく排除する悪役です。しかし、その裏では家族を深く愛し、病気の娘を助けるために過酷な決断をしている、といった描写を加えればどうでしょう?

表面:圧政を敷き、多くの人を苦しめる独裁者
裏側:娘を救うために、自らを犠牲にし続ける父親

このように一面だけでなく複数の側面を描くことで、読者は「彼がしていることは間違いだが、その理由には共感できるかもしれない」と感じるでしょう。こうした複雑な感情が、物語に読者を引き込むきっかけになるのです。

悪役を単なる「悪の象徴」として描くのではなく、良い面や弱さ、信念を持たせることで、物語はさらに魅力的になります。悪役の中に人間らしさを見つけたとき、読者は「このキャラクターの行く末をもっと知りたい」と感じるでしょう。

善悪がはっきりしすぎた単調なキャラクターではなく、悪役にも「人間らしい側面」を持たせること。それが、読者を引きつける物語作りの秘訣です。

主人公の弱点と苦悩はさらけ出すべき

物語は安定した日常を描いても面白くありません。読者が夢中になるのは、主人公が試練や変化に立ち向かい、自分自身の弱点や苦悩を乗り越えて成長する姿です。

完璧なキャラクターはつまらない

誰も「完全無欠な人間」には共感しません。幸せな家庭、安定した仕事、理想の人生、これらが何事もなく続く話は退屈です。なぜなら「変化」がないからです。
だからこそ、物語では主人公が完璧な日常を送っているところから、突然の出来事がすべてを壊し始める展開に持っていくのです。主人公の平穏を壊すことで、物語は一気に動き出します。

外面的な変化が内面的な葛藤を引き出す

作者の役目は、主人公が避けてきた「自分の弱さ」と向き合わせることです。外面的な問題が発生し、それが内面的な苦悩を引き起こす構造を作りましょう。

・外面的な出来事:信頼していた人に裏切られる。
・内面的な変化:他人を信じることが怖くなり、自分を見失いそうになる。

主人公には慈悲を与えない

しかし、物語の中で作者がつい主人公に救いを与えてしまうことがあります。その結果、甘やかしてしまうと主人公は成長しません。困難を乗り越え、その先で見せる英雄的な姿こそが、主人公の真の魅力を引き出すのです。

物語を面白くするためには、主人公の「穴点」や「苦悩の源」をしっかりと描き、不安定な状況に追い込みましょう。変化に立ち向かう姿や、内面的な成長を通じて読者の共感を呼び起こすのです。

作者自身が自分の苦悩と向き合え

物語に本当の力を与えるのは、主人公の心の中にある「混乱」や「苦悩」です。しかし、作者自身がそれを表に出すことを恐れてはいませんか?

物語を描くとき、作者はつい主人公に逃げ道を作ってしまうことがあります。その理由の一つは、主人公に直面させる問題が、自分自身の内面にある「混乱」や「苦悩」とリンクしてしまうからです。主人公に逃げ道を与えることで、作者もまた自分の問題から逃れようとしているのです。

しかし、物語とは本来、そんな人間の心の奥深くに隠れた混乱や葛藤を描くものです。多くの人は表面的には自制心や自信に満ちた顔をしていますが、その下には「誰にも見せたくない本当の自分」が存在しています。だからこそ、主人公の「心の暴露」を描くことで、読者は「私もそうだ!」と深く共感するのです。

読者が共感するのは、隠された闇と葛藤

現実の社会では、礼儀や秩序が当たり前とされています。人々は理性的で「まともな人間」であろうと努めますが、心の中ではどうでしょうか?誰にも見られていないと思えば、誰しも一度は「不安」や「混乱」、「野蛮な考え」を抱いたことがあるはずです。

物語の力は、こうした人間の心の真実を描くことにあります。主人公の苦悩を隠さずにさらけ出し、その内面の闘いを描くことで、読者に「自分だけではない」という救いと共感を与えることができるのです。勇気を持って、自分の内面と向き合い、その苦悩を物語に反映させてみましょう。あなた自身の真実が、読者の心に響く物語を生み出すのです。

重要ポイント

①物事は必ず悪化させる
主人公が状況に立ち向かわざるを得ないように、物事は必ず悪化するよう仕向けること。良い顔をせず、社会規範を気にせず、容赦なくプロットを進行させる。

②主人公の秘密や欠点を暴露する
主人公の隠している秘密や欠点を明らかにし、恥ずかしく痛ましい状況に追い込む。内面の苦悩に立ち向かわせることで、成長や気づきを促す。

③努力と代償を描く
主人公が何かを得る際には、それに見合う努力をさせ、代償を払わせること。すべての出来事には結果が伴い、それが新たな行動を引き起こす要因となる。

④努力が逆効果になる展開を作る
主人公が状況を良くしようと努力するほど、事態が逆効果で悪化するように構成する。これにより物語は緊張感を増し、障害が高くなることでドラマが深まる。

⑤敵対勢力を具体的に描く
敵や脅威は曖昧な存在ではなく、具体的で特定のものである必要がある。敵対勢力は人格化され、活発に行動し、危険には明確な期限を設けることで、物語に緊張感が生まれる。


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