【ライブレポ】TOHO BEAT LARIAT vol.2は紛れもなく僕のためのライブだった
序章(自我強め)
「えっ!?東方のライブによくいる妖精みたいな存在かと……」
何気ないこの一言が、僕の心に一生消えない楔を打ち込んだ。
東方音楽ライブイベント、とりわけライブハウスで行われるバンドスタイルのライブに心を奪われて早2年弱。僕は周囲の人々から、「グレクレの妖怪」だの「ライブの妖精」だの名誉なのか不名誉なのかよくわからない東方ライブ新参野郎にはあまりに荷が重すぎる二つ名、もとい十字架を背負わされていた。
自分なんかより頻繁にライブ行ってる人間なんて星の数ほどいるし、向こうもただ面白がってネタで呼んでるだけだろうから正直素直に肯定できないのだが、僕自身のライブ愛が外部に放出できていることを実感できる確かな証でもあった(複雑な心境なのは変わらないが)。
そんなこんなで2024年11月16日、妖精さんこと僕は都内の西武新宿駅近くのライブハウス、新宿motionへ向かっていた。
巡遊主催の東方ライブイベント、
「TOHO BEAT LARIAT vol.2 ニアデスハピネス編(以下東ラリ2)」に行くために。
8月から3ヶ月に渡る地獄のアメリカ出張で、東方系のコンテンツ、というかそもそも日本のサブカルチャーを経口摂取できない拷問のような生活を送っていた僕にとって、この日は「ヲタクとしてのWIRED」に戻るための日だった。
やっと、やっと愛する東方アレンジを生で浴びれる。
しかもグレクレでその存在を魂に刻まれた巡遊、route9、UNKNOWN BEATSが出る上、平成の東方音楽シーンで暴れまくったといわれる半裸帝国も復活する。
──こんなの、"僕のためにあるようなライブ"じゃないか!!
遠い異国の地で、SNSに投稿される即売会やライブの写真やレポを前に、どうすることもできず指を咥えてスマホを見るしかなかった屈辱。
どいつもこいつも楽しい思いしやがってと心の底から湧いて出る無様な嫉妬心。
-15時間の時差のせいで、そんな情報すらリアルタイムで追えない疎外感。
なぜ僕はここにいないんだ、こんな荒野で何をしてるんだと自問自答する虚無感。
「あの仕事がなければ」「有給取れていれば」というたらればという名の逃げ道すら存在できない、やり場のない怒りと悲しみ。
そんなヲタクとして絶望の日々から、これでもうおさらばだ。
これまでに感じたことのない高揚感に、超超高密度のエネルギーが僕の身体から溢れ出ようとしているのを感じた。
全身の細胞が沸騰していた。
いてもたってもいられない中、僕は興奮しながら新宿motionの入り口をくぐった。
━━2024年11月16日18時30分。ライブハウスのBGMが一際大きくなったのち、静寂。
この一夜で、僕は「WIRED」を取り戻す。
UNKNOWN BEATS
新世代東方hip-hop Crewとして、今最も勢いのある東方音楽サークルの一つであるUNKNOWN BEATS(通称U.B)。前回ライブ出演した大阪の「BREAK EMOTION」にて、新メンバーであるYvng FuEeL氏が加入しての初ライブを見事に成功させ、U.Bが4人体制として新たなフェーズに入ったことを大々的にシーンに見せつけた。
今回のステージも、新生U.Bとしてその止まらぬ勢いは健在だ。
「調子どうですか新宿~!!」
といつものお決まりのフレーズと共に登場する、東方アレンジサークルとは思えないガラの悪いイカした格好の面々。新宿サイファーとでもいうべき熱い夜が幕を開ける。
そんなU.Bの一曲目は、今年の秋季例大祭での新譜「MOUNTAIN VIEW」から『U.B.Freestyle』。
新メンバーであるYung FuEeL氏のバースから始まるこの楽曲は、オシャレで軽快なビートに乗せ4人体制としての「今」を回想する、ポップながらもどこかエモーショナルな雰囲気漂うナンバーだ。なお、Youtubeで公開された時からずっと聴きたかった曲なのもあって、この時点で僕のテンションは振りきれてぶっ壊れた。
一瞬にして、フロアの空気が猥雑な横須賀のストリートに変わる。流石ピンチヒッターなのにチケットの大半を売らせたサークルというべきか、開幕からフルスロットルだ。
そのテンションを維持したまま、ライブはMCパートへ。
「23世代で誰よりも早くうた祭に出場し、CLUB CITTAのステージに立つ」。ぎっくり腰と腱鞘炎と扁桃腺腫れを患ったリーダーNkm氏がキレキレのビッグマウスで捲し立て、会場を更に沸かせていく。
批判を恐れぬ歯に衣着せぬ物言いだが、この大胆不敵さもまた、彼らの魅力の一つだ。
応援したくなる。彼らが突き進む覇道の行く末を、一緒に見てみたくなる。
「今日は、"ゆけむりすら超える不死の煙"をォ!二人で見せていこうかなって」
Nkm氏のこの宣言に、次の曲を察しないファンはいないだろう。
U.Bの始まりの曲にして代表曲、『On fire』がくる。
……しかし、それは"これまでの"彼らの話。
ただの『On fire』はもう古い。
Yvng FuEeL氏のバースが加わったニューバさージョン、『On fire Remix』だ。
ただでさえNkmの初期衝動全開でアツい『On fire』にYvng FuEeL氏のクールな新風が交差し、更にカッコよく、最強に見える。いや最強なのだが。
一曲目の『U.B.Freestyle』と併せて、新生U.Bとしての強さをこれでもかと叩きつけてくるが、それは3人体制から一皮剥け一段も二段もパワーアップした彼らによる、東方アレンジ界隈に対する反逆の狼煙だ。そしてそれは、まだ始まったばかりなのだ。
彼らの勢いはまだまだ止まらない。小気味良くも毒気の強いコロッケ節全開の『Local』、ダークで幻想的な『Luna』と初披露の楽曲が続く。
そこから再びのMCパートにて、Nkm氏はこう言い放った。
「まぁいいや、言いたいことは俺、全部ソロのフリースタイルで言うわ」
そう、U.Bの真骨頂ともいえるフリースタイルの時間だ。
待ってました。U.Bのステージはこれを観にきたと言っても過言ではない。
今回は珍しくNkm氏が全編を請け負ったのだが、敬愛するラッパー達への愛を織り交ぜつつ、ありのままの感情を変幻自在、言葉巧みにぶつけるその様を見ているとこっちまで胸が熱くなる。
ねじ曲がってるようで、根っこはシンプル。
ズドンとまっすぐに心に響いてくる。
それがラップの"強さ"というものなのだろう。
そんなフリースタイルから、流れるようにアレンジへシフト。
伸びるような歌メロが気持ちいい『Life Goes On』、NA$$氏の色気あるフロウが冴える『Lightning Stella』、仲間への愛を高らかに叫ぶ『24-7』とメンバー各々の個性全開のナンバーが続いていく。
↓一旦私情パート
というかさ、NA$$くん今回化けたよな……良い意味で大人っぽくなった(とうとうタメ語で絡んできやがったよありがとう)。
特に『Lightning Stella』では男らしく声を荒らげる場面が頻繁にあって、これまで飄々とした印象だったNA$$くんから考えられない化けっぷりを見せたと思う。まだまだ進化は止まらないってことなんだなぁ。
ふぇーるくんがライブで歌う姿見るのも(ぶれえもで悔しい思いをしたのもあって)やっとこさ、念願だった。
前日まで通話して泣き言めちゃくちゃ聞かされたけど、ステージ上がった彼は別人だった。
そこにいたのはふぇーるくんではなく、「Yvng FuEeL」だった。
最高にカッコよかった。遠くへ行ってしまった友人に対する劣等感も嫉妬もそこにはなくて、ただただ、目の前のミュージシャンに対する「憧れ」だけがそこにはあった。
ちなみに、『Lightning Stella』の途中で一旦完全にビートが止まってからふぇーるくんが入って再び曲が始まるとこあるんだけど、そこでノるタイミング合わせられたのフロアで俺だけだったんだよね。まぁ、U.B最前センター年間パスポート舐めんなってとこで。お前らとは格が違うんだよばーか。
次に披露されたのは、U.B初のオリジナル曲であり、ビートメイカーHeel Hold氏がビートを書き下ろした『Joker No Doubt』だ。
これまでのエモーショナルな雰囲気とは一変、深夜のネオン街のようなダンサブルでアゲアゲなビートが始まり、「跳ねろ!跳ねろ!」の煽りでフロア全体を巻き込んでいく。いやなんだこの空間治安悪っ……
ぶっちゃけリリックは過去イチ身内、内輪ネタのオンパレードなのだが、それもまた彼ららしい。ゲラゲラ笑いながら思う存分跳ねさせてもらった。
そしていよいよ最後の曲となるのだが、勿論"アレ"である。
初めての4人全員での楽曲であり、今のU.Bを象徴するギラッギラの必殺技。
「邪魔してくるやつは全員ブッ殺す!『FAKE KILL』!」
U.Bが東方音楽シーンのテッペンをとる。界隈への強烈な挑発。
煽りに煽られ、フロアのボルテージも最高潮に達する。
我が道を貫くU.Bの反骨精神の煮凝りのような尖りに尖ったリリックに、メンバーのラップにも一際感情が乗る。
そのマグマのような熱量はフロア全体に伝染し、一つの大きなエネルギーの奔流となる。
もう何も考えられない。踊る跳ねる叫ぶ、楽しんだもん勝ちの無敵の空間。
それはまるで、U.Bとフロア全体が一体となって、東方音楽シーンへ「かかってこいよ!」と挑戦状を叩きつけているようだった。
逃げも隠れもしない。この音楽で正々堂々と戦いに挑む。そこに僕は、彼らの音楽の"真髄"を見たような気がした。
この爆発的なエネルギーは次の演者へのバトンとなり、最高潮のボルテージでU.Bのステージは幕を閉じる。
彼らの反逆の狼煙は、まだ始まったばかりだ。
route9
二番手は2022年に突如爆誕し、その後の新世代音楽サークル大量発生の起爆剤となったroute9。僕をライブ沼に叩き落とした恐怖のライブイベント「Grazy Crazy!!#5」での運命の出会いから、もう一度現地でライブを観たいと熱望するものの中々叶わず、気付けば1年以上間が空いてしまった。
そうこうしている内にroute9は、「さっきみたゆめ」や「東方フリークス」と様々な対バンイベントを重ね、若手バンドサークルの主力、最前線として着実に経験と実績を積んでいた。僕はその様を画面越しに苦虫を嚙み潰したような顔で見ていたのだが。
即売会や同じ観客側としてライブハウスで何度か顔を合わせることはあったとはいえ、演者としての彼らを現地で観るのは本当に久々だったので、いわゆる感動の再会というやつである。全米が泣いた。
いつものごとく、黒づくめの衣装に身を包み登場する面々。しかし今回は何やら様子が違う。
今回、Gt.くろ氏が残念ながら体調不良で欠席となり、代わりに度々route9のアートワークを担当しているすずめ氏がピンチヒッターとして参加していたのだ。
普通メンバーが替わると色んな意味で違和感が拭いきれないものだが、route9のトレードマークともいえる全身黒づくめの衣装の力はスゴいもので、「これはこれで……」という感じでビジュアル的に違和感なく溶け込んでいた。それはそれとしてrouteSでのくろ氏の復帰楽しみにしてますね。
「二番手、route9です。最後まで、このイベント盛り上げていきましょう!よろしくお願いします!」
Vo.Gt.あぐに氏の挨拶と共に、掻き鳴らされる楽器達。
フロアの空気感が、バンドライブのそれに一瞬で書き換えられる。
──これだ。
これだよこれ。
この生の轟音を。
この灼け付くような爆音を。
僕はずっと、これを待ってたんだ!!!!
爽やかなイントロを挟み、Dr.ようかい氏の暑苦しいスリーカウント。こんなキャッチーな始まり方をするのは一択しかないだろう。
route9二枚目のシングルの表題曲にして、アンセムの中のアンセム曲、『Stargazer』だ。Starburger?何それ。
パチュリーの星に託した切ない想いを、疾走感あるサウンドに乗せ、時に儚く時に激しく歌い上げる。
「一緒に歌ってくれ!」と演奏中に言う程度には声や手拍子の入れどころがメリハリありノッていて本当に楽しく、route9らしい叙情的な歌詞と噛み合って爽やかな風が吹く。
まさか、そんな最強クラスのカードをここで切ってくるとは。それはU.Bがhip-hop一色に染め上げたフロアを、完膚なきまでに粉々に破壊する必要があったのだろう(ちなみに僕は情緒が追い付かず盛大にスタートダッシュをしくじった)。
演者同士の音と音の殴り合い。これぞ対バンの魅力だと思わず噛み締める。
それは僕がこのライブに心の底から求めていたもの、まさにラリアットだった。
そのままの勢いで、route9始まりの曲であり、これまたライブ定番の『EMOTIONS』を披露。
今回披露した楽曲には、今年頒布された
1st album「Re:Im」にて再録されたものが何曲かある。
『EMOTIONS』含め、再録された楽曲はシングル版より遥かに洗練された印象を受けたのだが、なんとライブではそこから更にパワーアップしている。
それは単に観客側の「ライブ会場バフ」というわけではなく、紛れもなくroute9の進化だ。
いやはや、1年余りでここまで化けるとは……
さて、そこからroute9特有のビジュアルの良さと相反したすっとぼけたMCパートを挟み、シュールな笑いを誘う。このサークル、メンバーの根っこがゴリゴリのネット民なので割と様子がおかしいことに定評があるのだ。
そんなMCが終わる手前辺りで、ドッドッドッドッとシームレスにバスが入ってきた。
そこで突如、僕の中のセンサーが作動する。
……ん?
このバス、『ナイトスケープ』じゃね?
『ナイトスケープ』だった。
ファンクながらもアンニュイで、コーラスの重なりが美しい『ナイトスケープ』、あぐに氏の今にも消えてしまいそうな繊細な歌声が鼓膜を震わすスローナンバー『落陽』とroute9らしい儚く叙情的な楽曲が続く。
↓一旦自分語り
route9に限らずというか全ミュージシャンに対してそうなんだけど、知ってる曲流れる前提のライブってイントロ流れた瞬間無意識にイントロドンしちゃうんよな。そして勝手に一人で正解して勝手に限界しちゃうよな。
……お前もわかるだろ?わかる。
3ヶ月間じっくりフラストレーション溜め込んで熟成、醸造したからか今回の東ラリではそれが特に恐ろしく冴えていて、『ナイトスケープ』ではMC中のバスのテンポだけで、『落陽』では始める前の試し弾きの音だけでいち早く察してしまったワケなのだが、その際フライングしてテンションブチ上がった僕を見てようかい氏がめちゃくちゃ嬉しそうな顔してたのが記憶に焼き付いている。ごっつぁんです。
そんなこんなで気付けば残り2曲。
僕からの渾身の「もっかい最初からやろー!」も届かず、時間とは、現実とは非情なり。
次に披露するのは「Re:lm」に収録された完全新曲であり、未だにライブで披露していない曲だという前振りを聞いて、僕はわずか1ミリ秒で曲割り出しを完了する。
ではその原理を説明しよう。WIREDは演者から発射されるプラズマ陰陽エネルギーを浴びてわずか1ミリ秒で曲割り出しを完了するのだ!(ナレーション:大平透)
route9のステージで、というかこの東ラリ2で、僕が一番楽しみにしてた、というかこれを聴きに来たと言っても過言ではない傑作、『ゼロ』。
イントロからアウトロまで轟音脳筋ドラムが爆走し、鋭く研ぎ澄まされたギターが猛スピードで唸る唸る。サウンド面でこれまでのroute9を覆しつつも、歌詞の繊細さはという"根っこ"は据え置きという、とにかくとんでもない破壊力を持った殺人的ナンバーだ。
あの時は間違いなくフロアが揺れていた。
頭を振りすぎて僕の脳も揺れていた。
というかこの時のあぐに氏、ヤバかった。
ステージで彼が歌っている時、いつも陶酔的な切ない表情を浮かべている印象だったのだが、この曲だけは眼光がギラギラにキマッていた。ボーカルも音源と違って感情全開というか、良い意味で威圧的、挑発的でイカしていた。
『U.N.オーエンは彼女なのか?』、もといフランに合わせた真っ赤なライトの激しい明滅も相まって、とにかくこの時のあぐに氏はノリにノッていたのだ。
そんな『ゼロ』でひとしきり暴れたのち、最後のMCパートへ。
そこであぐに氏は、同じ空間に同じものが好きな者同士が集うことの素晴らしさを説く。
それを聴いて僕は、改めてライブというものの楽しさ、面白さを心から再認識した。
──そうだ。バラバラな存在が一つになることへの熱狂と感動に、僕は魅了されたのだ。
だから僕は、ライブが好きなのだ。
あぐに氏のMCで、また一段とフロアの心が一つになる。
その一体感のまま、最後の曲が始ま……らなかったのだが、肝心なタイミングでのミスで一気に和やかな空気に。このアットホームさがどうしようもなく愛おしかった。
さて、気を取り直して最後の曲へ。
浮遊感漂うギターの残響から始まるイントロは、すなわち無重力。
route9らしさである叙情的な歌詞と爽やかな音楽性の極致。
『無重力の夢』が、フロアという宇宙空間に響きわたる。
繊細で透明感ある歌声と重く深いベースが溶け、軽やかに跳ねるようなギターが星のように闇を彩る。
誰もがこの音の波をゆらゆらと漂い、その快感に酔いしれていた。
この空間に永遠に居続けたいとさえ思った。
最後までその世界観でフロアを包み続け、route9の出番は終了する。
ステージをはけた後も、その残響は残り続けた。
半裸帝国
幾度もの解散と再結成を繰り返しラストライブから6年もの月日が経った2024年、再び結成し東方ライブイベントに降臨した半裸帝国。
最後のライブが2018年で、サークルとしての音沙汰がほぼ無くなったのが2020年。
熱狂的なWIREDフリークの諸君ならお気づきかもしれないが、僕が東方Projectもとい東方アレンジに興味を持ったのが2018年で、2020年においてもまだ著名な大手サークル中心に追いかけていて、新規や島中の中堅サークルの開拓に興味のカケラもなかった頃だ。
つまり、半裸帝国に触れる機会が物理的に存在し得なかったのである。
ただ様々なサークルに興味を持ち、自ら調べるようになった今日に至るまで、その噂は聴いていた。当時の東方音楽シーンで熱狂の渦を巻き起こしたと。
そんな話を聞いてしまうと俄然楽しみになる。僕はライブにおいて、初見サークルに対するファーストインプレッションを心から大切にしていて、毎回それを楽しみにしているのだが、今回はその枠が半裸帝国だったワケだ。
……正直に白状すると、あまりにも気になりすぎてYoutubeの公式音源を我慢できずに何曲か聴いてこっそり予習していたのだが、結論としてセトリに一曲もカスらないという珍事が起きた。したがって今回披露した全曲、完全初見である。これはライブの神様から僕への「予習をするな」という啓示なのだろう。†悔い改めて†
そんなことになるとは露知らず、僕はフロアで歴戦の勇士の復活に胸を躍らせていた。
その時である。
「━━え〜6年ぶりのライブですけども、入場SEはいつも通りやらせていただきます!(BGM:20世紀フォックス・ファンファーレ)」
!?
「「「「前回までの、半裸帝国!!!」」」」
!?!!?
「もう一度半裸帝国を結成したい?」
「とんでもねぇ、待ってたんだ」
!?!?!!?
突如始まった、どこからツッコめばいいのかわからない怒涛のナレーションに困惑、爆笑するフロアを尻目にステージに登場するメンバー達。
一体何が始まるのか……いつからか流れていた『-Moonlight-』をバックに、Vo.ふぁいやー氏が語り出す。
「おまえの苦労をずっと見てたぞ、本当によく頑張ったな……」
最近のミームも擦るんだ……などと呑気なことを考えていたら、そんな僕をお構い無しに『-Moonlight-』は急加速し、そのまま一曲目が始まった。
『Identity』。収録アルバム「着ism」同様、二曲が違和感なく繋がる構造になっているのが猛烈にカタルシスを生む、勢い全開のアツく激しい王道のロックナンバーだ。
「今日からここが、半裸帝国だ!!」
激しいイントロの中で高らかにふぁいやー氏が宣言し、フロアのボルテージが一気に上昇する。
ふぁいやー氏の煽りを受け、フロア全体を「オイ!オイ!」の野太いコールが包む。
前の二サークルとはまた違った、燃え盛る炎のような熱狂がそこにはあった。
ステージを縦横無尽に駆け回り、身体全体でフロアを盛り上げていく。
アグレッシブなドラムとギターが全体を牽引し、凄まじい熱量をフロアに叩き込んでいく。
1浪4留1休学大学中退おじさんことBa.バツヲ氏のコーラスも加わり、とにかくパワフルでエネルギッシュなステージングで魅せるのが衝撃だった。ふぁいやー氏とバツヲ氏でマイクを共有するパフォーマンスには、心底痺れた。
ネタとミームで初見の心を鷲掴みにし、ひたすらにカッコいい楽曲で正々堂々と殺す。
「これが半裸帝国か……」。僕は興奮に震え、改めてその名を心に深く刻み込んだ。
6年ぶりのMCパートとイカれたメンバー紹介だが、年季を感じさせる「ふぁいやー!」の黄色い声援を浴びつつも、全くブランクを感じさせない。合間合間に平成のネットミームをねじ込みながら展開させる軽妙なやり取りは、聞いていて飽きず、むしろフロアは大盛り上がりだ。
なおバツヲ氏についてなのだが、元々少女理論観測所のベースとして認知していたものの、少なくともこんなハイテンションオモシロお兄さんだとは思っていなかった。いやー強烈すぎる。やっぱしょじょろんの時は猫被ってたんすね……
さて、「もうMCのやり方も忘れてしまったので」などと寝言を言いながら次の曲へ。
一曲目同様「着ism」からの『曲宴エレジー』では、腕振りが楽しいノリのいいテンポながら、二人の切ない掛け合い、重なり合いがを厄神の哀愁を誘う。
まだまだ曲は続く。「みんな、パチェマリは好きかい?」の問いかけから始まった『ラクトガール』は、ハイペースな曲展開ながら美しくメロディアスで、それでいてめちゃくちゃ暴れる。
ライブは後半戦に突入しているものの、フロアの熱気はずっと衰え知らずの最高潮だ。体力がありすぎる。
……いや、本当はとっくに体力は限界に突入してしまっているのだが、バンドの熱気とフロアの熱気が高まりすぎた結果、相乗効果で身体がボロボロでも気力がMAXなため幽鬼の如く動けているという状態だった。これがライブの恐ろしさである。
そうこうしている内に残すところあと2曲となり、最後のMCへ。
定番の物販紹介、今後の予定と続き、最後までネタたっぷりの明るく楽しいノリでいくのかと思いきや、一転して真面目な雰囲気に。
今回のライブを振り返り、その感慨から戻らない過去に思いを馳せるふぁいやー氏。
「6年後とか7年後くらいにまた再結成してバカやるバンドがあるから、仮に一回音楽やめたとしてもまたこうやって東方の世界で楽しんでいただけると俺は嬉しいです」
解散含めて酸いも甘いも経験したからこそ言えるこの言葉に、フロアの誰もが界隈で遊び続ける勇気をもらったことだろう。
そんなMCでしんみりした空気のまま、ライブはラストスパートへ突入する。
しっとりと切なげな雰囲気の中で、エネルギッシュながらもどこか甘いふぁいやー氏のハイトーンボイスが光る『瑠璃色幻想郷』。
千年幻想郷のメロに乗せて人間の歴史を回想する歌詞は、半裸帝国とそのメンバーとしての過去を回想しているようだった。
そして曲の最後、瑠璃色のライトに照らされながらのロングトーンは、男臭い空間なはずなのになぜか耽美で、美しかった。
──しかし、そんなフロアを支配していた感傷的な空気は、一瞬にして破壊される。
静寂を切り裂いて休む間もなく始まったラストナンバーは、『六つ目の難題』。竹取飛翔の壮大で幽玄なメロに乗せ、ふぁいやー氏の渾身のパワーボーカルが炸裂する。
まだまだ暴れ足りないとフラストレーションを解き放つかのように暴れる楽器隊と、轟くシャウト。
「まだまだ終わんねぇからな!!」
「みんなの声聞かせてくれ!!」
ラストへ向け、ふぁいやー氏とバツヲ氏、二人の漢が魂を燃やしフロアを鼓舞する。
Cメロの「さぁ行け!さぁ行け!」が、新宿motionにこだまする。
フロアも巻き込み、演者も観客も渾然一体となった”半裸帝国”が、夜の新宿に「さぁ行け!さぁ行け!」と叫ぶ。
それぞれの想いを乗せ、何度も何度も繰り返される「さぁ行け!さぁ行け!」は、メンバーとファンが6年間溜めに溜め続けた想いを噛み締めながら解き放っているように見えた。
「6年後にまた会おう!!」
万感の表情でそう高らかに叫び、半裸帝国のステージは幕を閉じる。
きっとまた、彼らはライブハウスに帝国を築きに来るに違いない。
巡遊
さて、いよいよ最後のサークルにして主催、巡遊の登場である。
昨年、今ライブの前身となる「TOHO BEAT LARIAT」にて、主催&初ライブという二度見、いや三度見レベルの衝撃のデビューを飾ったのち、若手サークルの登竜門こと「Grazy Crazy!!#7」でシーンに堂々たる登場を果たした巡遊。
今回で3度目のライブとなるのだが、再び「TOHO BEAT LARIAT」を立ち上げ、しかも活動休止状態であった半裸帝国にオファーをかけるという恐ろしいまでのアグレッシブさには脱帽である。ライブなんてなんぼあってもええですからね。
その媚びないストイックな音楽性は新譜を出す毎にキレを増し、群雄割拠の東方バンドシーンで埋もれぬことのない絶対的な個性として、今回のステージでも唯一無二の輝きを放っていた。
突如フロアにド派手に鳴り響く、ドギツいベーススラップ。
ハイスピードなインスト曲『念力少女』をBGMにメンバーが登場し、黙々と演奏の準備を始める。
なぜかフロントマンであるVo.Gt.まによん氏がいないが、そんなことお構いなしにBGMは止まり、一曲目のイントロが始まった。
沈み込むような、刻み込むような重厚感溢れる始まりは、何か物凄いことが始まるカウントダウンのようで、皆が期待に胸を膨らませる。
そしてイントロが一層激しさを増したその時、“彼”はやってきた。
いよいよまによん氏がステージに躍り出る。真打登場とでもいうべきそのアツい展開に、フロアから歓声が上がる。
僕は妖精らしく最前センターでこの様を見ていたのだが、この時のまによん氏、意味わかんないぐらいかっこよかった。“ヒーローは遅れてやってくる“ってこういうことを言うんだなとめちゃくちゃ滾った。
その勢いのまま、一曲目『スーパーソニックジェットガール』が始まる。3rd Single「ノンパラメトリックな生き方」収録のこの曲は、タイトル通り、そして風神少女らしくイントロからラストまで一気に駆け抜けていく疾走感溢れるナンバーだ。
これまでの三組の狂ったような熱量を受け止め、MAXボルテージで走り切っていく。まだ一曲目なのに。
なお、この「ノンパラメトリックな生き方」以降の楽曲は(時期的に)ライブ未披露だったので、一発目から実質新曲だった。いや流石にラリアットが過ぎる。情緒壊す気か?
まだ彼らは止まらない。そのまま始まったのは、侍が刀を引き抜くような、鋭く冷たくうねりにうねる緊張感漂うイントロ。
巡遊始まりの曲にして、巡遊のライブを象徴する一曲、『フラワリしましょ』だ。
ハイスピードなフラワリングナイトのフレーズが、目まぐるしく鼓膜を突き刺していく。
わずか1分56秒という短い時間の中に、これでもかと詰め込まれた轟音と狂気。
その狂気に当てられたか、動きに定評のあるBa.秤一仁氏もいつも以上に暴れていた。
そして曲のラスト、「楽しい夜になりそうね」をもって、まによん氏は文字通り今宵のライブ、いや宴を大いに讃える。ここから巡遊の宴は始まるのだ。
「Yeah〜he〜he〜こんばんは〜巡遊でーす!!」
大掛かりな導入ともいえる始めの2曲を終え、MCパートへ。
「3回目のライブ、2回目の主催イベント、どうしてこうなった!」とライブに誘われないことを真っ先にネタにする姿がなんとも哀愁を誘うが、それはそれとして笑いが起こる。フロアの雰囲気は良い意味でアットホームだ。
それもそうだ。僕らからするとこんな素晴らしいメンツで、こんなアツいイベントを開いてくれたのだ。何度でも言うが、ライブなんてなんぼあってもええですからね。
僕自身、去年の東ラリ1に現地参加できなかったのが本当に悔しくて心残りだったので、こうして再び東ラリを開いてくれたことに対し感謝しかなかった。
なお今回の参加サークルは、どこも石鹸屋の影響で東方アレンジを始めた、言うなれば石鹸屋チルドレンとでもいうべきメンツである。そんなこともあって、MCで「秀三さん見てますでしょうかー?」とガッツリネタにしていた。いい内輪ネタってこういうのを言うんだよなぁと思った。
ちなみに、秀三氏はちゃんと見ていた模様。よかったね。
秀三氏への愛を盛大に漏らしたのち、再び曲に移る。
不器用ながらも愚直な愛情を、ノスタルジー溢れる曲に乗せて力強く歌い上げる『トラぺジア』では、歌詞が不穏さを帯びるCメロでまによん氏の歌唱に劇的に熱が籠るのが鮮烈で、心を揺さぶられる。
続く『キョンシーブギウギ』では一転し、皆が楽しくステップを踏むダンスフロアに。最高のタイミングでビブラスラップがカーッ‼︎と鳴り響き、Dr.ハラチョウ氏の軽快なドラムソロ、まによん氏のタンバリンがポップに暴れ狂う。
巡遊の音楽性を体現したこの歌詞のごとく、全力で己の音楽をフロアにぶつけていた。
そんな音に揺られ、Aメロとサビで思いっきり「ブーギーウーギー!」と叫んだのは、僕だけじゃないはずだ。
さて、再びのMCパートで、まによん氏は今回のライブの副題である、「ニアデスハピネス編」について語る。
Near death=臨死、死にかける
Happiness=幸福
すなわち、「ライブで暴れて死にかけた状況ってそれはそれで楽しいよね」という意味である。
……いやこれ、僕そのものじゃね?
勝手に最前行ってソロだろうがモッシュだろうが勝手に暴れて、曲、もしくはライブが終わる頃に酸欠になってぶっ倒れ(かけ)る。
死ぬほどキツい、というか死んでるのだが、なぜだか心は満たされている。
それは一体なぜか?
そんなこと、とっくに本能でわかっている。
2〜3時間という、長い目で見れば一瞬ともいえる時間の中で、己が溜め込んだものを全てそこに吐き出す、ぶつけるからだ。
フラストレーションを、この時間の中で完膚なきまでに爆発させるからだ。
演者も僕らも、己の全てを燃やし尽くすからだ。
僕の中のライブ観と、この副題は完全に合致していた。
そして再び思うのだ。
━━やっぱり"僕のためにあるようなライブ"じゃないか!!
このライブに来て本当に良かったと、心から思った瞬間だった。
そんなアツいMCを終え、最後の曲へ。湧き上がる「え゛〜〜〜〜〜!!」の声。
ラストナンバーは、おてんば恋娘の切ないメロに乗せて、幸せへの願いを歌う『願えない』。
始めは感情を漏らすがごとくぽつりぽつりと、しっとりと歌うものの、ラスサビではその想いが爆発したかのように情熱的に、感情的に歌い上げる。
フロア全体がエモの波に包まれる中、最後突き放すように曲を〆るのがどうしようもなく切なく、美しかった。
こうして巡遊のアツい想いを込めたステージは完結する。
……ワケもなく。
流れるように始まったアンコール(手も肺も限界、テンポ早すぎ!)を受け、メンバーがステージに帰ってくる。東ラリ1では想定外のアンコールにテンテコ舞いだったが、今回はお手のものだ。
「リリックビデオ出した曲なのでみんな覚えてるよね?」で次の曲を察する中、始まったのは盆踊りを彷彿とさせる軽快なリズム。
ドン ドン ドン(アソーレ!)ドドンガドン(アヨイショ!)
それに合わせ掛けられる、威勢のいい掛け声。
ロック一色だったフロアに、突如として現れた和の心。
『雷鼓ちゃん音頭』のビートが、満を持して高らかに打ち鳴らされる。
そのリズムに合わせ、どこからともなく始まる手拍子。
ライブは皆で楽しんでナンボと言わんばかりに、フロア全体が手拍子に包まれる。なかなか異常光景だけど始原のビートだしこれはこれでロックだよな!
フロアが一体となってリズムに乗り、誰もが音楽を楽しむその光景に、メンバーの顔にも笑みが溢れていたことを、僕は見逃さなかった。
そして最後は皆で「アソーレ! アヨイショ!」の大合唱。フロア全体が笑顔に包まれた。
曲が終わり、和気藹々とした楽しい空気。
気持ちが和んだのも束の間、それを破壊するように突き刺さる歪みに歪んだギターサウンド。
「最後の曲です……『GESEN FOX』!!」
正真正銘、本当のラストナンバーは、リズミカルな轟音の中で典の悲哀と苦悩を激しく切なく容赦なくぶちまける『GESEN FOX』。
先程までのユルい雰囲気が嘘だったかのように、感傷的なメロの中でナイフのように研ぎ澄まされた冷たいギターが乱舞する。間奏でのGt.なおきしん氏の切ないギターソロは、歌詞がなくとも感情がありのままに迫ってくるようだった。
ラストに近づくにつれ、なおきしん氏とのかけ合いの中でまによん氏のボーカルに激しく熱が籠っていく。
己の全てを振り絞るがごとく、彼は魂で歌っていた。
主催である彼自身が、「ニアデスハピネス」を体現しようとしていた。
ラストの彼の叫びを、魂の慟哭と言わずしてなんとしようか。
魂を吐き出すような咆哮と儚く消え入りそうなアウトロをもって、巡遊の壮絶なるステージは、そして「TOHO BEAT LARIAT vol.2 ニアデスハピネス編」は終結した。そこ、写真撮影や物販あるだろとか言わない。
終章(自我強め)
まず率直に言う。めちゃくちゃ楽しかった。
どのサークルもベクトルは違えど凄まじい熱量を帯びていて、新しくそのサークルの音楽に触れる人を絶対に好きにさせよう、そして予てからのファンは更に虜にさせようという凄まじい気概と覚悟をビシビシと感じた。
ライブの最中、何度か観客側を見たのだが、皆が各々の想いをステージにぶつけ、その表情は笑顔だった。
そんな最高のステージを最前で浴び、僕は本能のままに暴れ狂った。
彼らの圧倒的熱量を受けて、それに応えたかったからだ。
そして何より、あの3ヶ月間で溜まった負の感情を、全て洗い流そうとしたからだ。
まぁその結果、過去最悪のダメージを負い晩飯も喉を通らなかった(3000mガチ目に走った直後を思い出してほしい、あの感覚である)のだが、後悔はしていない。むしろ心スッキリだ。
これこそが、「ニアデスハピネス」。この達成感、爽快感があるから、ライブはやめられない。
また今回、ライブハウス内で演者観客問わず沢山の人に声をかけられ、沢山話した。
何度「おかえりなさい」「お疲れ様でした」と言われたことか。その度に目頭が熱くなったことは口が裂けても言えないが、心同じくする同志達と会えて、そのありがたみを実感できる場所としても、ライブっていいなと強く実感した。
ちなみにroute9のセッティング中にステージ上のあぐに氏から「もしかしてWIREDさんですか!?」と声かけられた時は流石に焦った。これ自慢な?
ライブが終わって暫く経ったが、妖精扱いされることに対して未だ答えは出ていない。
しかし、こうして悩みながらネットを見ていると、いち観客として僕のやってきたことに対してわざわざ声を上げて肯定してくれる方々が、驚くべきことに存在した。
面倒臭い、一歩間違えれば害悪にもなり得るヲタクなのは重々承知している。
ただこうして、“妖精として“僕の居場所を作ってくれる、妖精としての僕に意味を見出してくれる人がいるのならば、「ライブの妖精・WIRED」として東方音楽シーンをほんの少しでも盛り上げ、界隈に活性化に寄与できたら僕も周りもWIN-WINなのかなとぼんやり思った。
結局僕も、真性のライブキッズなのかもしれない。
やっぱり僕は、ライブが好きだ。
爆音轟音に身を委ね、フロアの同志達とその時間、瞬間を分かち合う。
誰もが一つに、誰もが友達になれる場所、それがライブ。
この東ラリ2は、それを改めて僕の心、いや魂に刻み込んでくれた。
そして、「ヲタクとしてのWIRED」を取り戻すことができた。
終わった今だからこそ、確信を持ってこう言える。
TOHO BEAT LARIAT vol.2は、紛れもなく僕のためのライブだった。