続・音圧戦争について
音楽業界に関わる全ての方へ
今回はラウドネスノーマライゼーションについて解説します。
この記事は2018/02/21に投稿した「音圧戦争について」の続きとなります。
先にそちらを読んでください。
今回の記事は前回の内容を理解されているという前提で書かれています。
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・自動音量調節の正体
前回、一部のストリーミングサービス等において
全ての曲が同じ音量に聞こえるように
音量を自動で揃えてくれる機能が備わっていることを伝えました。
この機能を「ラウドネスノーマライゼーション」といいます。
人間は聴覚の特性上、音域によって聴こえる音の大きさが変わります。
それを「ラウドネス」といいます。
要するにラウドネスノーマライゼーションとは
文字通り、ラウドネスを基準とした音量調節なのです。
音圧戦争で聴覚上大きな音に聞こえるようにと音圧を出せば出すほど
ラウドネスノーマライゼーション後の音量は小さくなります。
↑ ラウドネスノーマライゼーション前
音圧マシマシで威勢の良かったトラックも
↑ ラウドネスノーマライゼーション後はこのとおり。
随分と小さくなっちゃったね、威勢の良さはブラフだったのかい?
ラウドネスノーマライゼーションという絶対基準を前に
音圧上げというハッタリは通用しないのだ。
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・ラウドネスノーマライゼーションが行われるサービス
2018/09/04現在
ラウドネスノーマライゼーションを採用しているサービスは
YouTube、Spotify、TIDAL、Pandora、AppleのSound Check
の5つです。
これらのサービスはそれぞれ独自のラウドネスの基準を持っており
その基準に従って音量を調節します。
さて、
それぞれのサービスが採用している基準について詳しく見ていく前に
少し専門的な話をさせてもらいます。
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・音量を表す単位と音圧戦争
音量を表す単位をdB(デジベル)といいます。
これと同じようにラウドネスの音量を表す単位をLUFSといいます。
察しの良い方ならお気づきでしょう。
音圧上げをすればするほどdBは最大値固定のままでLUFSが上がるのです。
音圧戦争とは
曲のdBは最大値の状態でLUFSをどれだけ上げられるかの
競争だったのです。
そしてラウドネスノーマライゼーションは
まさにLUFSを基準に音量を調節しているのです。
これが音圧上げをすればするほど音量が小さくなる仕組みの正体なのです。
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・各サービスが採用しているラウドネスの基準値
我々日本人にとって、各サービスの中で
特に重要で関心が高いのはYouTubeとSpotifyの2つでしょう。
この2つのサービスが採用している基準を解説します。
「YouTubeは約 -13 LUFS 」
この基準値よりもLUFSが小さい曲の音量はそのままで
LUFSが大きい曲のみ音量が小さくなる調整が入ります。
どれくらい音量が小さくされているのかは
動画を右クリックした後
詳細統計情報をチェックすることで調べることができます。
↑ この動画の場合は2.5dB下げられている
(75%の音量になっている)ということが確認できます。
※2019/12/19 追記
2019年の10月~11月あたりにかけて
YouTubeのラウドネスノーマライズの仕様が変わりました。
現在は-14LUFSになっています。
「Spotifyは約 -14 LUFS」
この基準値よりもLUFSが小さい曲は音量が大きくなる調整が入り
LUFSが大きい曲は音量が小さくなる調整が入ります。
また、LUFSが小さすぎて調整後の音量が0dB(最大音量)を超える曲は
内部でリミッターがかかり若干の音質変化が起きます。
※2019/12/19 追記
色々実験した結果
Spotifyのラウドネスノーマライズは
WaveGainというソフトウェアによる音量調節によって
同等の結果を得ることができるということがわかりました。
SpotifyはWaveGainと同じアルゴリズムを使っている可能性があります。
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・ラウドネスノーマライゼーション後の音量を調べる方法
とても便利なwebサービスサイトがあります。
↑ こちらLOUDNESS PENALTY: ANALYZERというwebサービスです。
調べたい曲のwavかmp3を投げると
曲を解析して各サービスのラウドネスノーマライゼーション後の
おおよその音量を表示してくれます。
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・結局どれくらいの音量が適切なのか?
これからの時代、音量や音圧はどうすればいいのか?
その答えは、どこのサービスを主体に曲を発信するかによって変わります。
ラウドネスノーマライゼーションを採用していない
ニコニコ動画 や SoundCloud や 物理CD の世界では
音圧を上げれば上げるほど良い曲のように錯覚させることができます。
しかし、音圧を上げに上げた曲をYouTubeやSpotifyで聞くと
上げた分だけ音量が小さくなりショボく聞こえるようになります。
2018/09/04現在の傾向ですが
まだYouTubeやSpotifyがそれほど主流ではない日本のデータは
音圧を上げに上げているものがとても多いと感じます。
対して既にSpotifyが主流となっている海外のデータは
Spotifyで聞いたときにベターな音質になるように
調整されているものが多いと感じます。
ちなみに私が配信しているほぼ全ての曲データは
どちらの環境で聞いてもある程度ベターになる基準値で調整しています。
その基準値は大まかにですが約-10LUFS±2LUFS程度です。
ニコニコ動画 や SoundCloud でマウントを取りたい場合は
マキシマイザーなどを使って-9LUFS以上に
ガンガンに音圧を上げるといいかもしれません。
実際、現時点での日本の曲の多くは音圧戦争大賛成な
音圧マシマシなものばかりです。
対してYouTubeやSpotifyでベターな音を聞かせたい場合は
-14LUFS~やや大きいあたりの音量で調整するといいと思います。
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・おわりに
基本的に音量が小さければ小さいほど音質を良くできます。
音量には最大値が決まっています。
最大値は0dBです。
音量が小さければ小さいほど表現できる音の幅が広がるのです。
音圧マシマシにした結果
メリハリが無くなり音が拉げてしまっている曲をたくさん耳にします。
そういった曲を聴く度に私はとても残念な気持ちになります。
本来もっと良い音のはずなのに、もったいない。
音圧を取るか、音質を取るか
それはエンジニアの裁量に任せられる難しい問題なのかもしれません。
ラウドネスノーマライゼーションやそれと類似した仕組みが
今後より世界に浸透して
より良い音質で音楽を楽しめる時代が当たり前になってくれると
嬉しいなと私は思います。
今後、日本の曲の音圧処理がどう変化していくのか
あるいは変化しないのか、これからも注視していきたいと思います。
先日2018/08/30に自身の4thCD「Crystal」の全国配信を開始しました。
↑こちらの曲をシェア&ヘビーローテーションしていただけると
私は大変喜びます。よろしくお願いします。
最後まで読んでいただきありがとうございます。