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気ままに東京一人旅(1)
自分のことを語るのが、あまり得意ではない。それが容易くできるくらいなら、そもそも小説などを書きはじめたりはしなかったかもしれない。
ここnoteでの記事においてもそれは顕著で、とにかく筆が遅い、重い。今も、書きかけのままほったらかしてしまっていた記事が2つはあるし、これから書こうと思って貯めておいた写真などはもっともっとある。
いつからこうなってしまったのだろう。
思えば、小・中・高校時代はまったくそんなことはなかった。校外学習などの後日に原稿用紙を渡され、その時のことを思い出して、何をしたか、何を思ったかなどを書き出すあの時間は、どんな授業よりも楽しみだった。
つまりだ。生来苦手なのではなく、どこか自分で、ハードルを高く高く上げて、どんどん書けなくなって行ってしまったのかもしれない。
ともあれ、自分を先生として生徒である自分に対し「これを書きなさい」と原稿用紙を与えてしまえばよいのだ。せっかく撮ったのだから……などと、大して上手くもなく、特別珍しくない写真を使おうなどと、思わなければ、筆を途中で止めることもない。もう一度、旅行記などを、幼い頃のように書けるようになりたい。
このようなわけで、過ぎし日に訪れた東京での思い出について、記憶とメモのみを頼りに、自分の体験を書き起こしてみようと思う。小学校の国語の授業だと思って。
前置きに随分と段落を割いてしまった。こんなことでは、筆も重くなるはずだ。いい加減に本題に入ろう。
私の住んでいるところから東京までは、新幹線で片道4時間以上掛る。長い、長い旅になる。幼い頃から何度も通い、また、暮らしたこともあるため、その時間の長さはうんざりするほど味わってきたものだ。
が、その4時間超の時間も、実はさほど苦にならない技がある。いや、技と言うほどのものでもないのだが。単純に、朝早くに出発して、早起きした分の寝不足を寝て取り戻せばよいのだ。そうすれば、起きている時間、長くても体感1時間くらいぼんやりしていれば、あっという間に到着してしまうのだ。
新幹線の車窓からの景色は楽しい。明らかにこちらに向けられた、正体の分からない企業か商品の看板、変わった形の建物、道行く人が犬を連れていたりするとこれはもう一大イベントだし、旅路が長い分、いくつもの観光地を一瞬ずつめぐることができる。富士山が綺麗に見えるかどうかなどは特に、運試しのようでもあり、いつもどきどきしてしまう。
新幹線に乗った時、不思議とその速さを体感することはあまりない。その代わりに、いつもより高い場所を走っているのをはっきりと感じる瞬間がある。窓際の肘掛けに寄りかかり、外を見上げると、空が、雲が、まるで手が届きそうに近くて、つい夢中になって、雲を眺めてしまう。ちいさなちぎれ雲の浮かんでいるような季節には、ぜひ、車窓から空を眺めてみてほしい。
さて、東京駅に着いた後は、どうにか方向音痴なりに日本橋の定宿に辿り着き、荷物を預かってもらい、あと半日、どう過ごすか考える。どんなに朝早くに出発しても、この頃にはもう昼過ぎてしまっている。
寝て過ごしたとはいえ、長時間新幹線に乗っていた疲れもある。あまりアクティブに動きすぎず、コレド室町で映画を観ることにした。
チケットを購入し、昼食をどこで頂こうか、しばらく商業施設内をうろつく。ぐるぐる、ぐるぐる、悩み、迷い、スペイン料理のお店に入った。
入ってすぐに店員さんに「2名様ですか?」と問われた。私の後ろに他に客はいない。何が……いたのだろう……。(まあ、何か接客マニュアルにある対応なのかもしれないが。)
1人だと答えるとカウンター席に案内された。よくある、お洒落で、よじ登るのに一苦労する、座っている間も足持ち無沙汰なタイプの椅子の席だ。これもまた楽しい。お冷すらお洒落なグラスとボトルで提供されるお店で少し固くなりつつ、タコのパエリヤを注文した。
セットに、サラダとピンチョスがついてきた。サラダのドレッシングは少し不思議な味がした。甘じょっぱくて、たぶん、はちみつの風味がした気がする。ピンチョスにはピンク色のペースト状のものが塗ってあり、自分の苦手な明太子を警戒したが、そうではなくとにかく美味しかった。リエットのようなものだったのだろうか。よくわからないまま、さも知ったような顔をして、美味しく頂く。これもまた、海外料理のお店に入った時の醍醐味だと思う。(本当は、もっと知識を持って臨みたいものだが。)
さて、メインのパエリヤはハーブやスパイスの香り高く、黄色いサフランではない、ほんのり赤っぽく色づいたライスだった。マヨネーズが掛っているのが新鮮に感じたが、カウンターの前にディスプレイされていた本によると、スペイン料理にマヨネーズは欠かせないものらしい。勉強になった! タコは中心が半分ほど生の感じが残っていて、食感や味が楽しめて、野菜やライスと合わせて、華やかに色んな味や香りがして、とても美味しかった。炊き込みご飯のおこげが好きな日本人には特に相性もよい料理だと改めて思った。
鑑賞した映画については、語りつくせないほど素晴らしい映画だったので、割愛させていただいて。(また機会があれば個別に語らせていただきたい。)
そのあとは、日本橋三越へと移動した。ライオンさんたちに挨拶しつつ、宝箱の中のような世界をしばし歩き回る。欲しいものはあれど、必要なものは数少ない。我慢も肝要である。少し歩いて楽しんだ後、パイプオルガンの裏の椅子で休ませてもらった。どうやら時間になると、演奏会があるようだった。
せっかくなので、時間にはパイプオルガンと奏者の見える位置に移動し、ホールを覗き込んだ。
パイプオルガンと言えば私の中のイメージにあるのは、音楽の授業で聴いたトッカータとフーガや、教会の讃美歌などで流れるあの調べだった。ところが三越のパイプオルガンの音色を聴いて、驚いた。あんなに様々な音が出せるものなのかと。まるで、オーケストラの楽器を一人で奏でているかのようで、感動と興奮のしっぱなしだった。特に、大好きなウエストサイドストーリーのメドレーの時などは、心が騒いで、跳ねて、仕方がなかった。こんなに踊りだしたくなったことはあまりない。
沸き立つ心を抱えたまま、夕食はデパ地下で購入しようと決めて、階段から下に降りた。ここでもまた、ひたすら目移りする選択肢の中から、ブーランジェリーでベーコンエピとチーズとクルミとベーコンのパン、それから大好きなクイニーアマンを購入した。お酒も買おうか迷ったが、やめておいて、かわりに無花果と生ハムのサラダという洒落たお料理を入手した。
まだほんのり薄明るいうちではあったがホテルに戻り、まったりと夕食をいただいた。(クイニーアマンが特に最高に美味しかったのを覚えておきたい。)
旅行に出かけた時、宿泊先が普通のビジネスホテルでも、そこでゆっくり過ごす時間が好きである人間は、私だけではないと思う。
入浴も済ませ、テレビを流しながら、ベッドサイドのメモを借りて今日一日あったことをつらつらと思い出して書き留めておく。明日は何をしようか胸を膨らませながら。
東京旅行記、1日目について、このあたりで区切りとしようと思う。あったことを書き出しただけになってしまったが、まあ、案ずるより産むがやすし……いや、やすくはなかったな。とにかく、ここまで書くことができた。
続きはまた後日。こんな風に、書いていけたらなと思っている。