2019.11.03 秋吉台サファリランド
10月某日、よく晴れた、空も景色も眩しい日だった。
実はこんな日は、動物たちを見るにも、写真を撮るにも、最適というわけではない。個人的には、曇りや雨の日が、過ごしやすさの面でも、眩しさにまけず動物たちを見られるという面でも、動物園日和なのだ。
だが、この日行ったのは秋吉台サファリランド。坂道も多く、広い敷地を歩くには、やはり明るく晴れたこんな日でとても運がよかっただろう。
今回はサファリゾーンには入場せず、通常の動物園のように歩いて廻れる動物ふれあい広場を訪れた。
「動物ふれあい広場」というと、ウサギやモルモットや、ヤギやブタなどのいる、柵に囲まれた限られた空間を想像するかもしれない。もちろん、動物園の中のそんな空間はうれしいのだが、それだけを目当てに訪れることは、私はあまりしない……。
秋吉台サファリランドの「動物ふれあい広場」はとても広く、普通の動物園ならば遠くから眺めていることしかできないような、様々な動物たちと触れ合うことができるのだ。
まずは入り口から遊園地を通り抜け、動物ふれあい広場に入場する。
それから、ちょっとした坂もある道をしばらく歩く登ったり下ったりしていると左手に見えてくる、大きなドーム状の屋根や、遊具の集まった場所を目指す。
日の当たる場所で、こちらを見るでもなく、どっしりと構えて地面に身を横たえているカピバラ。
挨拶しつつ撫でさせていただくと、その毛は見た目のまま、ホウキにできそうなくらい硬く、一本一本がしっかりしている。乾いたワラか、枯れた針葉樹の葉のようだった。
耳の質感も面白く、これまた見た目通りまるでキクラゲのようだ。後ろからそーっと突くと、反射的にぴくぴくと振って、小虫のように払いのけようとする。
そうしてあちこち撫でながら、ふと、犬がそうすると喜ぶのを思い出し、お腹にもそっと手を触れた。すると、カピバラは毛を逆立てて、まるで巨大なタワシのような姿になってしまった。
嫌だったのだろうか……?
撫でる手を離すと、ゆっくり元通りの毛並みになる。また撫で始めると、毛を逆立てる。
嫌がっているのなら申し訳なかったが、その変化が面白くて、何度か繰り返してしまった。
後で調べて知ったのだが、カピバラは撫でられて気持ちが良いときに、毛を逆立てるらしい。つまりあれは、よろこんでいてくれたのだ。
最後には、お腹以外、どこを触れても毛を逆立てていたのは、人に撫でられるのが本当に好きなのだろう。それならもっと、撫でてあげればよかったと思う。
中には、猫のように、わざと人間の体のぎりぎりをすり抜けて体が触れるようにして歩いていく子もいたので、カピバラも体が大きい分、人間ともしっかりコミュニケーションを取る動物なのかもしれない。
屋外に展示されているリクガメやプレーリードッグの姿をひとしきり眺めた後、ドーム状の屋根の下に入る。
ドームの中では小さな動物との触れ合いができた。ベンチに座り、モルモットやヒヨコを手に載せて触れられる。
まだ午前だったからだろうか、人出も多く、特に小さな子供も多い中でも、彼らはまだまだ元気に動き回っていた。だというのにベンチに置かれた小さなカゴの中から、蓋もなしに逃げ出さないのは面白い。
やはり小動物にとってはそこが安全で、安心できる場所なのだろうか?
手袋をはめて、ハリネズミに触れることもできた。
ハリネズミも、そしてさきほどのカピバラも、特に毛が硬いからその差ではっきりと感じてしまうのだろうか、どちらもお腹が温かく、ふにふにとしてやわらかい。動物のお腹の感触が大好きなので、やさしく、慎重に、けれどもしっかり堪能させてもらった。
触れることはできないが、すぐ近くでは、フクロウも枝にとまっている。
フクロウは、くちばしが顔面から突き出していないからだろうか、鳥の中でも特に表情を感じられて面白く、またかっこいい鳥だ。
メガネフクロウは、その模様が、まるできりりとした眉のようだ。このときは、ウインクしてくれた……!
お腹の羽毛の白さと、背中の羽の模様の美しいメンフクロウは、くりくりと丸い黒い目をしておとなしくいたが、口笛を聞くと、突然に激しく動き出した。我に返って、飛び立ちたくなってしまったのだろうか?
ドームの外には、ミーアキャットもいる。
ドッグなのに犬じゃないプレーリードッグと、キャットなのに猫じゃないミーアキャットは隣り合って展示されていることの多いイメージだが(私の古い記憶だが、徳山動物園がかつてそうだった……?)、ここでは同じドームの外でも少し離れたところにいる。
ミーアキャットは二足立ちできるその足や背筋と、先に行くにつれ細くなるしっぽがかわいらしいのが、おすすめポイントだ。真面目くさったような表情と、小さな前足もチャーミングだ。
実は、この日はあまりここばかりで時間を使っている暇はなかった。(というのに、ついつい長居してしまったのだが。)
今年生まれた双子のライオンの赤ちゃんとの触れ合いの機会があるのだ。時間は決まっていて、これを逃す手はない。
水浴びをするカピバラたちをしり目に、坂を上って、ふれあい事務所を目指した。
が、すぐに私はがっかりすることとなった。
仔ライオンとの触れ合いは、申し込みが殺到していたため、次に参加できる時間では、帰りのバスに間に合わなくなってしまうのだ。悔しいが、どうすることもできない。
何事も諦めも肝心。その中で最高の楽しみ方をすべきだ。
私はガラス越しに、触れ合いの準備のためにお色直しをしている仔ライオンたちを写真に収めた。
こうしているとまるで大きな猫のようだが、よくよく見ればやはり小さな猫とはちがう。この手や足のがっしりとした太さ、肉球の厚み、しっかりした顎。とても強そうだ。
大型のネコ科肉食獣は、ここがたまらないのだ。
気持ちを切り替えていこう。ここへ来た時の楽しみは他にもあるのだ。
この秋吉台サファリランドでは、アカカンガルーとも触れ合うことができる。檻の外で売っている餌を買ってはいれば、カンガルーの方から抱き着いてきてくれるほどなのだ。
ところが……。
カンガルーたちは、だれも、これっぽちの、やる気も意欲も見せてはくれなかった。撫でれば嫌がりもせず、受け入れてくれるが……。
どうやら、この時間にはもう、先に来園した人々からたくさん餌をもらい、お腹もいっぱいだったようだ。
めいめい、好きなように横たわったり、少し体を起こしてみたりしているばかりで、こちらには何の興味をしめしてもくれなかった。
いつ、どこでであったかで得た、忘れていた教訓をこれで思い出せた。
動物園は平日に来るか、開園時間と同時に入園するか、或いはそのどちらもをかなえた方がいい。動物たちがまだ、人間に対して飽きていないから。
それか、閉園時間が迫るころでもよいのかもしれない。
少し更に坂を上ったところに、このサファリランドのマスコットキャラクターにもなっている、ホワイトタイガーもいる。
白い動物は、たとえばホッキョクグマなど、成長につれてその純白は失われ、どこか黄ばんだような色になりがちだが、ホワイトタイガーはいつでもその美しさを保っている。
大きな太い足、くっきり浮かび上がる縞模様、もふもふの毛並みと、太いしっぽ。かわいく、美しく、いつまでも眺めていられるようだ。
ちょうど道を挟んで反対側のあたりにいる、どこの動物園でも大人気のレッサーパンダは、ちょうど餌やり体験のために人がごった返していて、写真を撮ることはできなかった。
まあ、よい。彼らは、いつでもどこでもかわいらしい。それは、写真を撮らずともかわらないのだ。という負け惜しみを言っておく。
さて、そのあとは、園内イベントのダイナミックフライトのショーで人気の、ハゲコウにも会った。
陸上の飛ぶ鳥の中では2番目に大きいらしい。間近に見たその大きさに感心していると、ハゲコウは翼を広げて見せてくれた。
写真ではわかりづらいかもしれないが、翼を広げると約2.5mにもなるらしい。
いやはや、トラやライオンに負けず劣らず、喧嘩になりたくない相手だ。
バスの時間も徐々に迫り、ふれあい事務所の傍の鳥コーナーは飛ばしてしまったものの、だいたいは場内を回ることができた。
ここ秋吉台ではいつも強い風が吹いているのだが、そのおかげで、とても絵になる写真が撮れた。
こちらは、バーバリーシープというウシ科の動物だ。
長い毛を風になびかせて岩山の上にたたずむ、まるで映画のワンシーンのような姿がかっこよすぎてつい笑ってしまった。
それから、キリンたちの姿も見た。
背が高く首の長い彼らのために設けられた餌台に、一度に4頭が集まっていた。さながら、三銃士とダルタニャンが掲げた剣のように首を突き合わせていた。
このように一緒に食べられる場所に小さなキリンにも食べやすい高さで餌場が設けてあるのが、当たり前とはいえ、なんだか温かい気持ちになった。
サファリランドを出て、バス停へ向かう途中、今回は入場を見送ったサファリゾーンの餌やりバスの停車場で、インコたちがいるのを見た。
青い空に白い雲、背景の背の高い南国の木と、鮮やかな青色と黄色のルリコンゴウインコたち。
こんな姿を見るためにも、曇り空や雨ではなくこんなに晴れた日で良かったと、心から思った。
今回は短い時間だったが、なかなかに充実した時間を過ごせた。晴れた日の動物園の良さを再発見できたことも大きい。
これからは寒い季節も迫ってくるので、また同じ場所で同じ動物たちに会っても、きっと違った姿を見せてくれるはずだ。
それを楽しみに、次はどこへ行こうか、考えてみることにする。
(2019.11.03に別ブログで掲載した内容を少し手直しして写真を増やしています。)