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素直になれば、「かわいい」は魔法の呪文になる

会場のスタジオについたのは、入室開始時間の15分前。ちょっと気合い入れ過ぎたかな。でもこれより後だとギリギリだしな。スタジオ入口前で首を回してストレッチをしながら待ちます。

約3年ぶりに参加する、今井純さんのインプロワークショップ。純さんご自身も対面のワークショップを開催するのは2年2カ月ぶりだそうです。事前の検温に抗原検査、クリアマスクの着用。これまでとは勝手が変わったこともあるけれど、オフラインの場で人と向き合って、全身で感じながらインプロをできるようになってよかった。

時間になり、一番乗りでスタジオへの階段を降りていくと、スタジオの扉を入ってすぐに純さんが立っていました。

「おはようございますー」

挨拶をすると、純さんは少し意外そうな表情。あれ、少し期間があいていたらか、誰かわからないのかしら。まあ、その間に髪型も変わったし、髪色も変えているし、マスクもつけているし。そういうものかなと思いながら、笑って名乗ります。

「あ、廣瀬です、おひさしぶりです!」

「ひさしぶり〜!  ちょっと、ふっくらした?」

「あ、えっと、はい、多分。最後にお会いしてから、3キロくらい……?」

マスクつけていても見えるものなのか! 思わず笑い。けれど純さんのことばは悪い意味ではなったようで、うれしそうに目を大きくして笑いながらこうつづけました。

「いいじゃない、むしろ素敵になったねえ」

「えっ、そうですか? ありがとうございます!」

ワークショップの参加者に「悪くなった」といったことは言わないけれど、本当に思っているわけでもないのに「良くなった」とも言わない人。だから、びっくりしました。そっかあ、私、なんだか良くなったんだあ。うれしくなりました。

・・・

7時間のワークショップ。14人の参加者。身体の動きや参加者とのやりとりで気づく、感性や自分のパターン。スッキリする、いい時間でした。

そのワーク中の振り返り時間、表情で感情まで変わるという話になりました。

「朝、鏡を見て『おじさんだな』『疲れているな』と思ったりする」と話す参加者。へえ、みんな、そう思うものなんだ……。私、毎朝自分を見て「お、今日の私かわいい」と思うんだけどな。

そう思ってから、「あれ?」となりました。多分、「疲れた顔しているな」とか「くすんでいるな」とか思うほうが一般的なんだろうし、私も以前はそうだった気がする……。

転職前・インプロをはじめる前までは、私も毎朝鏡を見て「疲れてるなあ、やつれてるなあ」と思っていた気がします。鏡は好きじゃなかったし、自分のことを「かわいい」なんて思いもしなかった。「かわいい」と言われても、「いやいや、そんな」と言っていたし。

ああ、私、変わったんだなあ。

・・・

「いいじゃない、ほんとうにいい感じになったねえ」

ワークショップ終わり、挨拶をすると改めて純さんが言ってくれました。

「ありがとうございます!」

そうこたえて、ふと付け足しました。

「最近は『かわいい』とか『素敵』って言ってもらえたら、ありがとうって受け取ることにしているんです。以前は謙遜して『そんな、そんな、そんなことないですよ』って言っていたけれど。素直に受け取るようにしてからのほうが、良い自分な気がします」

純さんは、力強くこたえました。

「それ、大事だねえ。すっごく大事」

・・・

鏡の自分を「お、かわいい」と思えるようになったのは、人からの「かわいい」や「素敵」を受け取るようになってから。

それ以前の私は、“かわいい”を世間の標準と自分が思っているもの、つまり他人と比べていた気がします。比べることで自分を低く見積り、美容室にお金をかけたって、化粧をしたって、いい服着たって、自分なんてたかがしれていると思っていました。

でも、転職から少しして気持ちに余裕ができて。インプロの「ありのまま、みんな素が素敵。だからありのままのあなたそのものを丸っと受け入れたらその素敵さが出てくる」という考えに触れて。友人と一緒にやる中で、友人のありのままが魅力的だなと真っ直ぐに感じて。

そういった積み重ねで、少しずつ人と比べなくなっていった気がします。そうしたら、「かわいい」も「素敵」も、少しずつ素直に受け取れるようになってきました。

「かわいい」は、人と比べる必要はないのです。私もかわいい、あの子もかわいい、その子もかわいい。それぞれの「かわいい」がちょっとずつ違う。それでいいじゃないか。

きっと、素直にそのままことばを受け取って、他人と比べることなく素直によろこべば、それは自信になり、人相になり、本当にかわいくなっていくんじゃないかな。

以前は「かわいい」など褒められるのが嫌でした。むしろ惨めになるような気がして。

だけど、今は思います。

受け取る自分が素直になれば、「かわいい」はどんどん変身していくための魔法の呪文になる、って。

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