「女性のキャリア」を考える前に
どうして、女に生まれちゃったんだろうなぁ——。
シーツと下着を手洗いしながら、ふう……と小さくため息をついて、そんなことを思いました。ああ、面倒くさい。シーツにまで血が漏れたのは、少し久しぶりです。今回は気圧の不安定さも重なって、眠気と怠さがいつも以上だったから、寝返りも打たずに長時間寝過ぎたのでしょう。
今月はいつもよりちょっと働きにくかった。眠いし怠いし、どうにもやる気が起きなくてマイナス思考が強くなる。終わって冷静になった今は、「こうしたら、もっとうまくやれたのに」とか、「あれは考えすぎだった」が見えてくるけれど、この2週間はそんな視野は私にはありませんでした。
女性のキャリアとか話題になることがあるけど、結局周囲の環境じゃなくて、自分の体調が一番どう働きやすさを生み出していくかに直結するんだよなあ、なんて思います。
普段は「女性で良かった」と思うことのほうが多いです。女性であることも私のキャラクターの一要素で、そんな自分が好き。
仕事においても、これまで女性であることで損したとか、ジェンダーがハードルになっていると感じたことは、ほとんどありません。たまたま私の入った会社や周囲のスタッフとの環境、業界が、私にとって水のあった場所だったというだけで、きっと企業や業界によっては違うんだろうけれど。でも、少なくとも私は、自分の“外側”の理由で、女性であることに働きにくさを覚えたことはほとんどないのです。
だけどやっぱり、女性であることで働きにくい・しんどいと思うことはあります。それが、毎月の月経です。
今日は、できれば学生さんに伝えたい、月経と仕事のお話です。
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月経は人によって重さも反応も異なりますが、私の場合はだいたい1週間前から眠気が強くなり、憂鬱になります。マイナス思考が強くなって、理由のわからない不安が広がることも多々。それから、ちょっと火照りを感じたり、腰痛が起きやすくなったりします。
月経が始まると3日目くらいまでは眠気と痛みや不快感。貧血っぽさや疲れやすさを感じることもあります。その度合いは15年以上、月一回のお付き合いを続けてきてもまだ掴めなくて、月によっても変わるのですが、鎮痛剤を使ったりブランケットなどでお腹や腰を温めたりしながら調整しています。
そして体調が戻ってきて元気weekに入ったら万事解決かと思いきや、だいたい月経前後で後回しにしていたお仕事がドーンと乗ってきたりしてワタワタ。だから振り返ってみると、「100%フルパワー!」って思えることは本当に少ない。月の半分以下、もしかすると1週間あればいいほうかもしれません。
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月経の話って女性同士ですることはあっても、互いの痛さとか経血量とかをシェアできるわけではないから、自分が重いのか軽いのかもあまり分かりません。私は母と妹が重い人だったので、家族の中でも健康優良児だった自分は「軽いか普通か」なんだと思っていました。
だから、月経周期に振り回されて思ったように仕事ができない自分が、すごく嫌だった。月経周期のせいだとも気づけず、だからそういうものだと思えずに、「どうして今週はこんなにやる気が出ないんだろう」とか、「サボってるなあ私」とか、そう感じることが多かった。
月経周期で集中力が下がったり眠気が増したりしている、その体調のサイクルに気がつけたのは、社会人2年目くらいです。手帳に毎月記録をつけていたのを見返して納得しました。
以降はびっくりするほどの腰痛も月経が近いからだなと冷静に判断したり、漢方や鎮痛剤をためらうことなく活用したりしています。直前は少しコーヒーや刺激物の摂取量を減らすなども意識するようになり、飲み会などプライベートの予定も体調の波を考慮して調整。また、多少効率が下がっても「そういう時期だ」と把握できるようになっただけで、だいぶ楽になりました。
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以前、「女性のキャリア」について学生さんから「女性が働きやすい職場は、どこを見ればいい(分かる)か?」という質問を受けたことがあります。ちょうど社会人2年目のときでした。
そこで当時25歳の怖いもの知らずだった私は、あろうことか「その質問、あんまり意味ないです」と返したのです。そして「あなたの思う『女性の働きやすさ』が何なのか具体的に深まっていないのであれば、アドバイスも的外れになる。それよりもまずは、自分の身体、特に月経の影響を知っておくのがいい」と話しました。
今思うと、きついなぁ(笑)。でも、その考えはやっぱり変わっていません。
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「女性のキャリア」「女性の働きやすさ」と一口に言っても、どんなキャリアを歩みたいのか、どういう環境が働きやすいのかは、一人ひとり違うはず。早くから出産・子育てを視野に入れて働きたい人なのか、体調に合わせて調整して働きたい人なのか、反対に女性だからと配慮されるのが嫌で関係なくバリバリ働きたい人なのか……それによって、合う環境は全然違うはずです。
なので、「女性の働きやすさを測る上でどこを見たらいいか」への模範的な解答はいくつかあるのですが、なんというか、あんまり本質的ではないと思うんですよね。
また、模範解答的なポイントでは大企業のほうが有利になりやすいのですが、スタートアップや中小企業だと、適した働き方や環境を一緒に模索してくれる場合もあります。それに、“外側”の環境は、終身雇用が前提ではなくなりつつあり転職が比較的増えている現在は、合わないなと思ったときに変えていけばいい。
だから、そういった“外側”の働きやすさを考えることは、もちろん無駄ではないし大切だと思うけれど、後からでも構わないというのが個人的な意見です。
そしてそれ以前にもっと知らないといけないのが、自分の身体、特に月経周期やその影響についてだと考えています。
なぜなら、それは変えようと思っても変えられないから。そして好むと好まざるとずっとお付き合いしていかなければならず、かつ自身のパフォーマンスに大きく影響するポイントだから。
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「自分の身体、特に月経周期やその影響について知る」をもう少し具体的に話すと、あくまで私の個人的な意見ですが、以下のようなことを把握していくといいかなと思います。
自身の月経の周期・平均的な日数と経血量などの傾向
月経前後の体調の傾向(眠気、気分の浮き沈み、腰痛etc…)
食生活や生活習慣と月経の重さの傾向(刺激物をこの時期に多く摂ると痛みやすいetc…)
自身にとって快適な生理用品を知る・確保する
自身の身体にあった鎮痛剤を、できれば2種類以上知っておく
特に鎮痛剤は、もし普段あまり使っていなかったり一種類しか試してなかったりするのであれば、ぜひ生活への影響が少ない学生のうちにいくつか試してみてほしい。
というのも、私にとってうまく痛みや怠さをコントロールして活動するのに欠かせないものですが、一方で私は鎮痛剤で一度意識がなくなったことがあるからです。
高校時代、置き薬の販売員さんに「今度新しく出る月経用の鎮痛剤です」とサンプルをもらった薬を使ってみたときのこと。服用から30分後、急に痛みが引いていきました。それはいいのですが、痛みと共に感覚も消えていって、意識が保てなくなり、そのまま授業中にもかかわらず机に突っ伏してしまったのです。その30分後、終礼の号令でふと目が覚めて慌てて立ち上がったのですが、今度はまったく鎮痛剤の効き目を感じない。本来3時間かけてじっくり効くはずの成分が、その30分に集中して一気に作用してしまったような感覚でした。
以降、私は新しい鎮痛剤を試すのが怖くて怖くて、実家に常備している月経用ではない鎮痛解熱剤を使っていました。ただ、その鎮痛解熱剤を使うと、心なしか経血量が増えて、月経期間が一日くらい長くなる傾向が見られたので、本当に我慢できない痛みのときだけ服用するようにしていました。
でも社会人になって働きだすと、「本当に我慢できない痛みまで我慢する」がものすごく不快だし、なかなかそうもいかなくなってきます。そこで鎮痛剤ともう少しうまく付き合えないだろうか、他に自身に合う鎮痛剤はないだろうかと考えるように。そうして調べるうちに、やっと鎮痛剤にもいろんな成分があって、月経向きのものだとか性格が異なるということを知り、最初は恐々ながらもいくつかの種類を試してみました。
今はバファリン・ルナをメインに、ロキソニンSも選択肢に入っています。これなら大丈夫だぞという鎮痛剤を見つけて常備していることで、気持ちもだいぶ楽になりました。
「できれば2種類以上」をおすすめするのは、1商品しか候補がなければ、薬局に必ずその商品があるとは限らず手に入らない場合があるから。また、リニューアルで内容が変わったり、企業の都合で生産停止になったりする可能性も0ではないからです。
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こんな偉そうに、自分の身体と周期を知ろうと言っていても、やっぱり気分は上下するし、うまくコントロールできないことも多いんですけどね。今月の私はあまりうまく付き合えなかったから、長く寝過ぎて、こうしてシーツを手洗いしているわけなんですけど。
でも、きっと意識していたほうが、ずっと働きやすく、そして生活しやすくなると思います。
こういう話をすると「そこまで話すの?」と驚かれることがあるのですが、いやいや、話せないと不安になるから。実は話したらもっと早く解決できたってこともあるから。健康の話として、オープンに話題にできるようになるといいですよね。
<補足1>
ここに書いたことは、あくまで「私の場合」の話です。健康のことだから、一人ひとり異なります。
また、もし「月経が重いかも」と気になる場合は、レディースクリニック(婦人科)に相談に行きましょう。低用量ピルの活用などの治療もありますし、実際に重いのか鎮痛剤だけで大丈夫な程度なのかをお医者さんの視点から知れるだけでも、安心につながると思います。
<補足2>
「女性が働きやすい環境」について「模範的な解答はいくつかある」と書きましたが、一応それについても「私ならここを見る」という点を記載しておきます。
・従業員の男女比率
(女性比率が高いほうが女性が働きやすいと考えられる)
・有休消化率(高いほうがいい)
・時間外労働時間(短いほうがいい)
・産休育休取得率(高いほうがいい)
・産休育休の取得日数(長いほうがいい)
・時短勤務制度の有無と活用実績(子育てとの両立に便利)
・男性の育休取得率と平均取得日数
(男性も育休取得に積極的なほど、出産育児に理解あると考えられる)
・「くるみん」などの認定
・そのほか子育て支援制度にどのようなものがあるか
(社内に保育園があったり、子連れ出勤OKだったり、病児保育を月1回使えたりと独自の制度があるところもあります)
ここまでは「産休育休」「子育て」と仕事を両立できるかという視点。以下は、「昇進に男女の性差がバイアスとしてかかっていないか」という視点です。
・役員の女性の割合/女性登用率
・総合職での女性の割合
検索などである程度手に入る情報としてはこれくらいでしょうか。挙げればほかにもあると思うのですが、逆にこれ以上を知りたい場合は、OBOG訪問をして実際の社風など聞いてみるのがいいんじゃないかな。