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聞こえる……

昨夜のこと。お風呂に入ろうとしたら、脱衣所の洗面台についている鏡のあたりから「ジー」という音が聞こえてきました。

くもりどめの音だろうかと思ってみたら、電源は切れている。中にある電動の何かが動いているのだろうかと鏡を開いて棚を見るも、何も動いていない。何だろう? ちょうど地震があった後だったので、もしかしたら何か電気系統や水道のトラブルかもと思い、母を呼びました。ところが……

「え、何の音もしないよ?」

うそだ。鏡の裏のほうから「ジー」ってなっているのに。耳を近づけると音が大きくなるのに。しかし、どんなに力説しても母は聞こえないと言います。

「ママの耳には聞こえないモスキート音?」

いや、そんな高い音じゃない。「ジー」だもの。どんなに頑張っても気になる音が聞こえてくる私。どんなに耳を澄ましても音が聞こえない母——。母は少し考えるふうにしてから、急に私をくるりと回して背を向けさせ、私の肩と背中を痛いくらいの勢いでパンパンとはたきました。

「はい、これでいいでしょ。気のせいだよ」

いやいや、今お祓いしたよね? こんな水まわりで鏡の前で祓っちゃ、ダメでしょ。家の中ウロウロするがな。祓うなら外に出なきゃ。

しかしまあ、音がするだけで特別に悪い感じはしません。それに、うちは父が視える人。昔と違って視えることは減ったようですが、「嫌な感じ」には敏感です。だからもし本当に何か連れてきていたら、父が気づいてくれるだろうと考え、気のせいということにしてお風呂に入りました。

・・・

今朝。リビングで両親と話していたら、玄関向こうの共有廊下から、トントン・サッサッと音がしてきました。そこで「へー、お休みの日でも、管理人さん掃除してくれるんだね」と話すと……「え、何のこと?」と母。

「え、今廊下のほうから、掃き掃除みたいな感じの音と、何か扉にトントンって当たる音し……」
「え、してないよ。パパ聞こえた?」
「いや?」

えっ……。いや、今確かに……かなりはっきりと大きな音で……。困惑する私の様子に、母が父に話します。

「昨日から翼がおかしいのよ。洗面台からママには聞こえない『ジー』って音が聞こえるって言ったり。だから背中パンパンって、祓っておいたけど、足りない?」
「んー、でも、全然そんな憑いてるみたいな嫌な感じはしないよ?」

そこでふと気になって父に聞きました。

「パパは今でも感じるの?」
「あるねえ。ついこの間も、飲んでたときに〇〇くんがさ、しんどいっていうんだよ。で、やばい感じがしたから『お前、外出ろ』って言って、塩撒いて背中はたいんよ。そしたら、〇〇くん楽にはなったみたいなんだけど、ずっと手形が残ってたって」
「は? そんなあざが残るほど強く叩いたの?」
「違う違う、その服にね、手形が残ったって」
「服に手形?」
「そう。塩落として洗濯して干しても手の跡が」

いーーーやーーー!!! 何それ怖い!!!

そこで慌てて母に話を振ります。

「ママは視えないし感じないから、霊とか信じてないって言ってたよね?」
「信じてないことはないけど、何もないから全然怖くないってだけ」
「怖くないんだ」
「生きてる人間のほうが怖いもん。霊は人殺さないけど、人は人殺すからね」

極端やな……。

そのまま、私にしか聞こえない音問題は原因もわからず解決することもなく、ただの雑談へと消えていきました。

・・・

夜。両親と3人で夕食後にバーへ。すでに夕食時に日本酒を3杯飲んでいた父が左に、中央に私、右手に母で座りました。

しばらく話しながら飲んでいると、左からかすかに歌声が……。

「ママ、なんかうっすらと歌声が聞こえてくるんだけど……」
「怖いねえ」
「これは、ママも聞こえてるよね?」
「聞こえてきたから、ママ帰るね。先帰ってお風呂入ってるから、つーちゃん頑張って連れて帰ってきてね」

そうして本当に先に帰ってしまった母。その会話の後ろで、鼻歌は一段と上機嫌にトーンを上げました。

・・・

帰り道。ずっと後ろから上機嫌な鼻歌がついてきていました。嫌だわ、早くおうち帰りたい……。そう思って少し歩くスピードを上げた途端……

ギュン!!!!

といきなり後ろに引っ張られる力が。慌てて振り返ってみると、父が鼻歌を歌いながら私の服の裾を握って後ろに引っ張っていました。

「歩くの、速い〜」

危ないやんけ! 心臓止まるかと思ったわ! 危うく転けるかと思ったわ!

母よ、やっぱり生きてる人間のほうが、実害あって怖いです!!!

・・・

ちなみに、父はこれだけ酔っていても二日酔いになりません。かなりお酒強い人です。

何度、父と二人で飲んで父のペースに飲まれ、酒に飲まれたことか。その数、片手では数え切れず(その話も、そのうち書こうかな)。

やっぱり、生きている人間のほうが、怖いですね……!

(相変わらず私だけ音が聞こえた理由はわからず。同じようなことが続くことがあれば、編集の打ち合わせとは別でオナンちゃんに依頼して視てもらおう……)

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