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劇団白色「大莫迦者絵巻」稽古場レポート

10月12日、あんなに粘り強かった夏があっという間にどこかへ去り、突然の肌寒さで秋の到来を感じはじめたこの日、劇団白色の稽古場を訪れた。
本番まで1ヶ月を切った稽古場では、登場人物の心境の細部にまでこだわった、とても丁寧な稽古が行われていた。

劇団白色のロゴマーク 雲と歯車があしらわれている

劇団白色は2020年に大川朝也さんが中心となり旗揚げし、「もくもくと、カラカラと。」をキャッチコピーに、年に1回のペースで公演を行っている。
大川さんが社会人になってからも演劇がしたいという思いから、いくつかの劇団を転々としていたが思うようにいかず、いっそ自分で旗揚げしたらいいのではと考え、劇団白色を旗揚げした。現在のメンバーは6人。その6人全員が社会人として働きながら演劇活動を行っている。
劇団白色はこれまで、360度カメラを使った無観客配信公演や火ゲキなどのイベントへの参加に留まらず、大川さん含め劇団員が様々な団体への出演やスタッフとして参加するなど意欲的に活動している。


「大莫迦者絵巻」のチラシビジュアル
今回の出演者でもあるモモトモヨさんのデザイン

そんな劇団白色が今回2024年度WINGCUPで上演する「大莫迦者絵巻」は、秋雨の降る夜に「私」が小さな古いお寺で多様な人たちと出会い、言葉を交わすなかで、「愛」とはいったいどういうことなのかを考え、悩み、自分自身と世界を見つめなおす物語となっている。空想が入り混じりながら世界について語らっている現在のシーンと、そことは無関係に起きている社会の生々しさを映した過去のシーンの二つの軸で作品が構成されている。
現在のシーンと現在と過去が邂逅するシーンの2か所の稽古を拝見した。

「私」が登場する現在のシーン
過去と現在が邂逅するシーン

稽古場を訪れた時はご飯休憩中で、出演者がご飯を食べながら和気あいあいと過ごしていた。そこに大川さんも交じり、お芝居のことだけではなく、大川さんが最近印象に残ったことなどを話していた。
休憩が終わり、稽古が再開。
まず雨が降る中お寺で雨宿りしている登場人物たちを描いたシーンを入念に繰り返す。実際に雨音をスマートフォンから流しながら稽古を進めていく。

1時間ほど稽古を繰り返し、次は現在と過去が邂逅するシーンの稽古に移る。こちらも先ほどのシーンと同様に何度もシーンを通しながら稽古を繰り返していく。

どちらのシーンの稽古でも印象的だったのは、かなり丁寧にフィードバックを行い、何度も繰り返し稽古を行っていた点だ。
まず、一度シーンを通してみる。その後大川さんからフィードバックが行われるが、大川さんが受け取った印象と共に、俳優にどういう風に演じていたか、どういった感情でその台詞を発していたかを聞き、互いの認識をすり合わせて再度シーンを繰り返していく。それを演出と俳優のずれがなくなるまで繰り返していた。
かなり根気のいる方法で、細かいところまで俳優の演技を見ていないとできない方法で稽古を積み重ねている。

フィードバックを行っている様子

今回の作品「大莫迦者絵巻」は、はじめは大川さんが恋愛物を書こうと考えていたところ、YouTubeで排除アートの話を見たり、子供のボール遊びが禁止になるというニュースを見たりしたことで、世の中では不寛容さが目立っているのではないか、愛がなくなっていっているのではないかという風に考え、愛について様々な角度から考えた話ができあがった。
私は今回の作品で描かれている愛は誰かが好きとか嫌いとかそういうことではなく、自分とは違う他人や他者をどう受け入れるか、どう赦すかを書いている作品のように感じた。
そういった目に見えにくい、感じられにくいものを表現するために、俳優と演出で細かく丁寧に稽古を重ねて行っているのだろう。

稽古終了後に居酒屋に行き大川さんと少し話した。
大川さんは雑食でいろんなジャンルの作品が好きだという。いつかは違うジャンルのことを1つの作品でできたらいいなと考えているそうで、それを叶えるために、今はひとつひとつのジャンルに絞って作品を作っており、今回は会話劇にチャレンジしている。

大川さんは本当に演劇が好きな方なんだなと感じた。だからこそあそこまで細かく丁寧に俳優とすり合わせを行い、根気よく稽古を繰り返すことができるのだろう。劇団白色は今後さまざまなジャンルの作品を創作し、いつかはこれまで見たことのない作品を創り上げてくれるのではないだろうかという期待が膨らむ。その裏にはとにかく根気強く丁寧に、稽古と、演劇と向き合う大川さんがいるからこそ、その作品はきっと誰もが楽しめる作品になるだろう。
その一歩目となるであろう今作「大莫迦者絵巻」をぜひ劇場で目撃していただきたい。

文:豊島祐貴

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