
劇団ヘラヘラ企画「だんっ!だんっ!」稽古場レポート
今季最強、最長寒波が翌日に予報されていた2月3日、かつて近畿大学に通っていた際に毎日のように眺めていた東大阪の風景を懐かしみながら、劇団ヘラヘラ企画の稽古場へ向かった。

劇団ヘラヘラ企画は、2022年に佐伯龍さんを中心に、東住吉高校芸能文化科の卒業生で立ち上げた劇団である。劇団員は2名で、公演ごとに出演者などを集め公演をしている。
今回4回目の本公演となるが、小規模なイベントでの上演や学生演劇祭への参加公演を特別公演と銘打ち、現在までに合わせて9回程度の公演を行っている。会話劇をベースに「ポップでダークな演劇をしている。らしい。」(公式Xより引用)
稽古場は市民センターの会議室のうちの一室。扉を開ける前から彼らのエネルギッシュな声が漏れ聞こえてきた。扉を開けると「おはようございます!」と元気な挨拶。上演される作品さながら、高校生の部室に入り込んでしまったのかと思う程だった。

今回、劇団ヘラヘラ企画が上演する「だんっ!だんっ!」は、とある高等学校の「男子女装ロボットダンス部」が舞台となっている。
通称男ダンと呼ばれているこの部活は、その名の通り、男子が女装してロボットダンスを踊る…というわけではなく、実際は部室で漫画を読んだり、ゲームをしたり、クラスになじめない男子たちが集まって過ごしている彼らにとっての避難所のような場所になっている。ある日、活動の不透明さによって生徒会から廃部を告げられ、彼らの唯一の居場所が無くなってしまう危機が訪れる。
彼らはこの部活を守ることができるのか。という物語である。


今作は三幕構成で書かれており、今回拝見したのは二幕の後半、今作のハイライトと成りうるようなシーンだった。作演出の佐伯さんは自身も出演しているため、演出席から稽古を見ていたかと思うと、自身も俳優として稽古に入っていき、演出として見えていたことと、俳優として見えていることのどちらともを取りこぼさないように稽古を進めているように感じた。
稽古を見ていた中で一つ印象的だったのは、台詞をバシバシ削ったり、変更したりと台本の変更をものともしていないところだった。
(たまたまそのようなタイミングで私が稽古場に来ただけなのかもしれないが、)今作は登場人物全員が男子高校生ということもあり、台詞の内容だけではなく、会話のテンポや俳優同士のグルーヴ感を優先して台本の変更をしているように感じた。

実は今作「だんっ!だんっ!」は2024年10月に開催された「関西版月いちリーディング」という企画で一度発表されている。この企画は日本劇作家協会関西支部が行っており、公募で選ばれた1本の戯曲をリーディング形式で発表。当日参加したゲストや観客全員で作品についてディスカッションを行い、戯曲をよりブラッシュアップさせることを目的としたワークショップである。
私もこちらの企画を見に行き、ディスカッションに参加した。このワークショップを経て、台本を一度すべて見直し、多くの場面を書き直したとのこと。
ディスカッションでも触れられていた、佐伯さんのセンスが光るセリフ回しや、社会の捉え方などが、さらに磨き上げられたのかと思うと、上演が楽しみだ。

稽古も終盤にさしかかり、廃部を告げられた男子女装ロボットダンス部の部長が、自身の思いを吐露するシーンの稽古に入っていた。
部長役の俳優がしっくりこない様子で演技をしているのを見て、「本番は持ってないけど、その小道具を力の限り握りしめながらやってみましょうか」と佐伯さんが伝える。彼はかなり具体的に、身体の形や台詞の言い方、声の使い方を俳優にフィードバックしているかと思えば、例え話や演劇における一般論などから認識の共有をしたりと、手を変え品を変え、俳優と共に作品を作り上げているように感じた。
それはきっと、彼は学生ながらも学内だけでなく様々な公演に出演したり、スタッフとして演劇に関わっていくなかで得た知識や実体験なのだろう。月いちリーディングも、その中で得た縁で応募することにしたと語っていた。
佐伯さんが現在まで培ってきた経験や得た知識をすべて活用し、自身が面白いと思うものに真っ向から全力でぶつかって上演される今作。約75分の上演時間とは思えないような熱量をぜひ劇場に足を運び、全身で浴びていただきたい。
文:豊島祐貴