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NEW FACE「GREEN MONSTER」稽古場レポート

新年を迎え、WINGCUPも折り返しにかかった1月8日、私は3団体目の参加団体、NEW FACEの稽古場を訪れた。

NEW FACEの劇団ロゴ

NEW FACEは作・演出を務める関下怜さんによって2019年に設立された一人ユニットだ。大阪芸術大学短期大学で劇評家の九鬼葉子氏に師事したのち、旗揚げ。2022年度のWINGCUPにも参加し、2年に一度のペースで継続的に作品を発表し続けている。
稽古場を訪れると、ちょうど、ウイングフィールドの実寸のバミリをとり、舞台美術をセッティングしているところだった。聞くところによると、初めて実寸を取ってみての稽古だという。演出の関下さんから、実寸をとっての稽古で立ち位置のバランスも考えたいと稽古の目標が共有される。

「GREEN MONSTER」のチラシビジュアル

今回、NEW FACEが上演する「GREEN MONSTER」は、暴力的な父親が支配する家庭で育ったみのりと、両親を失い身体を売って生きるあおいが、それぞれの絶望的な現状を変えようともがく中で、いつの間にか社会の暗闇に飲まれ抜け出せなくなっていく様を描いた物語だ。

みのりとあおいが、お金欲しさに犯罪へと手を染め、“仕事”を紹介したあきおに絡め取られていってしまう決定的な瞬間を描いたシーンの稽古を拝見した。

稽古の様子

物語の転換点となるシーンなだけに、俳優陣も試行錯誤を繰り返す。そこに演出の関下さんから、「もっと、あおいを巻き込んでいってほしい」「自己開示することで信頼関係を持とうとしている」とディレクションが加わる。関下さんの演出は、俳優に直接演技の指示をすることはあまりなく、このシーンがどんなシーンになってほしいのか、登場人物の関係性や心情にどんな変化が起こっているのかを説明し、そうすることで俳優から演技を引き出そうというスタンス。そこに関下さんとの付き合いも長く経験豊富な坂ノ上さんが舞台上での演技で答えるだけでなく、「ここは横からパー(パーライトという照明の略称)があたるんちゃうか?」など、他の俳優がやりやすいようさらなるイメージを追加して膨らませていく。稽古時間一杯このワンシーンに割き、根気強く俳優と創っていこうという関下さんの思いが見える稽古だった。

フィードバックの様子

稽古終了後、関下さんとお話しさせていただいた。2年前と比べて変わったことはあるかと尋ねると、俳優のことを信じてみる、待ってみることができるようになったという。私もその変化は如実に感じていた。2022年度のWINGCUP参加時も、劇場稽古の様子を拝見したが、その時は直接的な演技の指示が多く(映像がメインで舞台作品への出演は初めてという子が主役だったということもあるだろうが)、良く言えば明確なビジョンがあるということだが、悪く言えば俳優の創造性は発揮しづらい稽古場に思えた。それが今回の稽古場では、ガラリと変わり、俳優から演技を引き出そうという風に変わった。
なぜこのような変化が起こったのだろう。話す中で印象に残った関下さんの発言がある。「戯曲が舞台に立ち上がった時に初めて、自分ってそうなんだ、そういうこと思ってるんだって気づかされることがある」。これが明確な答えにはならないかもしれないが、自分の持つビジョンに向かうだけでは、なかなかこうは思えないはず。俳優の創造性によって作品が自分の手を離れ大きくなる経験をしたのではないかと期待が膨らんだ。

今回の作品「GREEN MONSTER」は、どこまでも暗く、とことん救いのない物語となっている。だが、それは決して観劇していてしんどくなるような作品であることとイコールではない。作劇や演出の仕掛けでその部分はエンターテイメントとしてのバランスが取られているように私は思う。むしろ、そのように見続けることが出来てしまう作品だからこそ、「こんな暗い時代に明るい話なんか書けるかと思って、思いっきり暗い話書いてやろうと思って」と関下さんが言ったように、この作品がこの時代に生まれたということを手放さずに劇場にお越しいただきたい。気づかぬうちに絡めとられないために。

文:泉宗良

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