骨盤骨折。Part.33~38
33.フラッシュバック。
消灯後の病室。窓からの月灯りで白い天井を見上げている。
もうすぐ、日付が変わる。
そっか。怪我してちょうど1ヶ月。経つんだな。
そう思った途端、墜落の瞬間に意識が飛ぶ。
またか。何度目だよ。もういいよ。
抑えようとしても、脳内スクリーンに再現映像を映し出されてしまう。
鮮明に。
下からの風に煽られて、着陸場に降りられない。通り越したら崖の上。
Uターンしたけど、やっぱり降りられない。また通り越してしまった。
高度10mくらいで2度目のUターン。
直後に見えたのは、凄いスピードで迫る地面だった。
ヤバイ。地面に突き刺さる。
走れる角度じゃない。足から落ちたら両足骨折。膝から骨が飛び出すだろう。
腰から落下。衝撃の勢いで前転して、顔面から地面に突っ込んで止まった。
骨盤と仙骨が割れて、背骨も潰れた。前歯も折れた。
あの選択は、正しかったのかな。
激痛で開けた目に見えたのは、ヘルメット内側の白。緑の草。黒い土。
腰から下が石の塊になったような凄い違和感。
これ、死ぬかもな。
腰の骨折は間違いない。内臓も無事じゃないだろう。
もうすぐ、破裂した内臓液で腹が膨れて吐血して、気道と肺が血で詰まって呼吸ができなくなる。
心臓が止まるのはその後かな。
救急車が来た頃にはもう手遅れだな。長く苦しむことはなさそうだ。
なんだよ。意外と冷静だな。
心臓が止まっても、脳の機能が完全に無くなるまでは意識あるのかな。
視覚信号を脳が受信できなくなって見えなくなるまで、目は開けておこう。
土と草しか見えないけど、暗闇よりはいい。
最後に見えるものって、こんな物なんだな。
俺の人生、これで終わりか。
思ってたより、あっけないな……。
左足がピクっと動いて、我に返った。
墜落した夏の山から、病院のベッドに戻ってきた。
生きてる。足もある。
あの時、足から落ちてたら、両足とも切断されたかもしれない。
昨日も、リハビリ室に両足のない人がいたな。
両足義足か。
この足がないなんて……。怖すぎる。
今、生きてるんだから、足があるんだから、腰から落ちて正解だったんだ。きっと。
あれからもう、1ヶ月経つんだな。
でも、まだ1カ月。リハビリは始まったばかりだ。
いつまで続くんだろう。
そもそも、リハビリにゴールなんて、あるのかな。
頑張るしかないけど。
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