ワインソムリエ講座50/カヴァ
カヴァ(Cava)は、スペインを代表するスパークリングワインで、特にカタルーニャ地方で広く生産されています。そのスタイルや生産方法はシャンパーニュに似ているものの、独自の特長や魅力を持っています。この解説では、カヴァの歴史、特徴、生産地域、製造方法、主要品種、品質基準、そして世界市場での評価について詳しく説明します。
1. カヴァの歴史
カヴァの起源は19世紀中頃に遡ります。1860年代、スペインのワイン生産者たちはシャンパーニュ地方でのスパークリングワインの成功に触発され、新たな製造方法を模索し始めました。
カタルーニャ地方にあるサン・サドゥルニ・ダノイア(Sant Sadurní d’Anoia)の生産者であるジョセップ・ラヴェントス(Josep Raventós)は、シャンパーニュの伝統的製法を取り入れ、1868年にスペイン初のスパークリングワインを生産しました。これがカヴァの誕生のきっかけとなりました。
「カヴァ」という名前はカタルーニャ語で「洞窟」や「セラー」を意味し、ワインが熟成される地下貯蔵庫に由来しています。1970年代には、この名前が公式に採用され、スペイン産スパークリングワインのブランドとして広く認識されるようになりました。
2. カヴァの生産地域
カヴァはスペイン全土で生産されているわけではなく、特定の地域で生産されています。その大半はカタルーニャ地方に集中しており、特にサン・サドゥルニ・ダノイアがその中心地です。カヴァの生産地域はDO(原産地呼称)規制によって厳格に定められており、次の主要地域で生産されています:
• カタルーニャ地方(D.O. Cavaの約95%)
サン・サドゥルニ・ダノイア、バルセロナ周辺の町村を含む。
• その他の地域
アラゴン、バレンシア、リオハなど。
これらの地域は地中海性気候に属し、ブドウ栽培に適した温暖な気候と多様な土壌が特徴です。
3. 使用されるブドウ品種
カヴァの特徴を形成する重要な要素として、使用されるブドウ品種があります。カヴァには主に以下の地元品種が使われます:
1. マカベオ(Macabeo)
フレッシュでフローラルな香りを持ち、酸味が控えめ。ブレンドのベースとして使われる。
2. チャレッロ(Xarel·lo)
カヴァに骨格を与える品種で、独特のミネラル感と酸味が特徴。
3. パレリャーダ(Parellada)
繊細でアロマティックな特徴を持つ品種。カヴァに軽やかさとフルーティーさを加える。
その他、近年ではシャルドネやピノ・ノワールといった国際品種も使用されるようになり、高品質なカヴァの生産に寄与しています。また、ロゼのカヴァには主に**ガルナッチャ(Grenache)やモナストレル(Monastrell)**が用いられます。
4. 製造方法
カヴァの生産には「伝統的製法(Méthode Traditionnelle)」が採用されています。この方法はシャンパーニュと同じですが、カヴァならではの違いもあります。
1. 一次発酵とベースワインの生成
収穫されたブドウを圧搾し、ジュースを発酵させてベースワインを作ります。
2. 二次発酵
ベースワインに糖分と酵母を加え、瓶内で二次発酵を行います。この過程で発泡性が生まれます。
3. 熟成
カヴァは最低9カ月の瓶内熟成が義務付けられていますが、熟成期間が長いほど複雑で奥行きのある風味が生まれます。
4. デゴルジュマン(澱抜き)とドサージュ
瓶内で発生した澱を取り除き、必要に応じて糖分を加えて甘味を調整します。
5. カヴァの品質基準と分類
カヴァは熟成期間や糖分の量によって以下のように分類されます:
熟成期間による分類
• カヴァ:9カ月以上熟成
• レセルバ(Reserva):15カ月以上熟成
• グラン・レセルバ(Gran Reserva):30カ月以上熟成
• カヴァ・デ・パラヘ・カリフィカード(Cava de Paraje Calificado):特定の単一畑で栽培されたブドウのみを使用した高品質なカヴァ。
甘辛度による分類
• ブリュット・ナチュレ(残糖分0-3g/L)
• エクストラ・ブリュット(0-6g/L)
• ブリュット(0-12g/L)
• その他、ドゥミ・セックやセミ・セックなど甘口のスタイルもあります。
6. カヴァの特徴
カヴァは以下の点で他のスパークリングワインと区別されます:
• コストパフォーマンス
シャンパーニュに比べて価格が抑えられているため、日常的に楽しめるスパークリングワインとして人気。
• 多様性
辛口から甘口まで幅広いスタイルがあり、料理との相性が良い。
• 環境への配慮
多くの生産者がオーガニック栽培やサステイナブルな生産方法に取り組んでいます。
7. 世界市場での評価と課題
カヴァは世界中で親しまれ、特にヨーロッパや北米での人気が高まっています。一方で、シャンパーニュやプロセッコと比較されることが多く、独自のブランド価値を確立することが課題となっています。近年では高品質な「グラン・レセルバ」や「カヴァ・デ・パラヘ・カリフィカード」の生産が注目され、プレミアム市場での競争力を高めています。
8. 料理とのペアリング
カヴァはその多様性から、さまざまな料理と合わせることができます。以下はペアリングの一例です:
• ブリュット・ナチュレ:寿司、刺身、カキなどのシーフード。
• エクストラ・ブリュット:白身魚のグリル、軽めのサラダ。
• ロゼカヴァ:タパス、パエリア、ローストチキン。
カヴァはシャンパーニュやプロセッコと肩を並べる存在感を持ちながら、独自の歴史と個性を持つスパークリングワインです。手頃な価格と多様なスタイルから、初心者から愛好家まで幅広い層に愛されています。その品質と魅力を理解することで、カヴァの楽しみ方がさらに広がるでしょう。