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ワインソムリエ講座61/シャトー・オー・ブリオン

1. はじめに

シャトー・オー・ブリオン(Château Haut-Brion)は、フランス・ボルドー地方のグラーヴ地区に位置する歴史的なワインシャトーであり、メドック格付け1855年で唯一「グラーヴ地区」から第一級(プルミエ・クリュ)に格付けされた名門ワイナリーである。その長い歴史と卓越した品質により、シャトー・オー・ブリオンはボルドーワインの象徴的な存在となっている。

本稿では、シャトー・オー・ブリオンの歴史、テロワール、ブドウ品種、醸造方法、特徴、ヴィンテージ、評価などについて詳しく解説する。

2. シャトー・オー・ブリオンの歴史

2.1. 起源と創設

シャトー・オー・ブリオンの歴史は非常に古く、最初の記録は16世紀に遡る。1533年、ジャン・ド・ポンタック(Jean de Pontac)がこの土地を購入し、ワイン造りを本格的に開始した。オー・ブリオンの名前は、ケルト語で「高い丘」または「小高い場所」を意味する「Briga」に由来すると考えられている。

2.2. 王侯貴族と著名人に愛されたワイン

17世紀にはイギリス王チャールズ2世の宮廷でも愛飲され、サミュエル・ピープス(Samuel Pepys)という英国の著名な政治家・作家が1663年の日記にオー・ブリオンを絶賛した記録がある。これにより、イギリス市場でも評価されるようになった。

2.3. 1855年のメドック格付け

1855年のメドック格付けでは、オー・ブリオンはグラーヴ地区から唯一、第一級(Premier Grand Cru)に選ばれた。この格付けはナポレオン3世の命により、パリ万国博覧会でのワイン展示のために制定されたもので、当時の市場価格と評価に基づいて決定された。第一級に選ばれたのは以下の5つのシャトーである。
• シャトー・ラフィット・ロートシルト(Château Lafite Rothschild)
• シャトー・マルゴー(Château Margaux)
• シャトー・ラトゥール(Château Latour)
• シャトー・オー・ブリオン(Château Haut-Brion)
• (後に1973年にシャトー・ムートン・ロートシルトが昇格)

2.4. 20世紀以降の発展

1935年、アメリカの銀行家クラレンス・ディロン(Clarence Dillon)がシャトーを購入し、以降はディロン家が所有することとなった。彼の孫娘であるプリンセス・ロール・ディロン(Prince Robert de Luxembourg)が現在もシャトーの運営に関与している。20世紀後半から21世紀にかけても、最新の醸造技術を導入しつつ、伝統を守り続けている。

3. テロワール(Terroir)

3.1. 立地

シャトー・オー・ブリオンは、ボルドー市内から南西約5kmに位置し、グラーヴ地区のペサック(Pessac)にある。この立地は他の第一級シャトーとは異なり、都市部に近いため独特の環境を持っている。

3.2. 土壌

オー・ブリオンの畑の土壌は、グラーヴ地区特有の小石(Graves)が豊富に含まれる。これにより、水はけが良く、ブドウの根が深く伸びることで複雑な味わいを生み出す。また、石が日中の熱を蓄え、夜間に放出することで、ブドウの成熟を助ける。

3.3. 気候

ボルドーの温暖な海洋性気候の影響を受けるが、都市部に近いため、やや異なる微気候が形成されている。冬は比較的温暖で、霜のリスクが低い。夏は乾燥しており、ブドウの成熟に適した気候条件となっている。

4. ブドウ品種と栽培

4.1. 主な品種

シャトー・オー・ブリオンでは、以下のブドウ品種を栽培している。

赤ワイン
• カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon):力強い骨格と長期熟成に耐えるタンニンを提供する。
• メルロー(Merlot):まろやかさと果実味を加える。
• カベルネ・フラン(Cabernet Franc):エレガントなアロマと複雑さをもたらす。
• プティ・ヴェルド(Petit Verdot)(少量):スパイシーな風味と色調を強化する。

白ワイン
• セミヨン(Sémillon):豊かなボディと蜂蜜のような風味を持つ。
• ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc):爽やかな酸と柑橘系の香りを与える。

5. 醸造方法

5.1. 収穫

ブドウはすべて手摘みで収穫され、厳選されたものだけが使用される。区画ごとに成熟度を確認し、最適なタイミングで収穫が行われる。

5.2. 発酵

発酵はステンレスタンクと木製の発酵槽で行われ、温度管理が徹底されている。マセラシオン(果皮と果汁の接触時間)を長めに取ることで、豊かな色合いとタンニンを抽出する。

5.3. 熟成

オー・ブリオンの赤ワインは、フレンチオークの新樽で約18~24ヶ月熟成される。新樽比率は高く、ワインにバニラやスモーキーな香りを与える。

6. シャトー・オー・ブリオンのワインの特徴

6.1. 赤ワイン

オー・ブリオンの赤ワインは、エレガントで洗練されたスタイルが特徴。香りにはブラックベリー、カシス、タバコ、スパイス、革のニュアンスがあり、長期熟成によってトリュフや森の下草のような複雑な香りを持つ。

6.2. 白ワイン

オー・ブリオンの白ワインは生産量が少なく希少。濃厚でありながら、爽やかな酸を持ち、ハチミツ、白い花、シトラスの香りが特徴的。

7. 代表的なヴィンテージと評価

シャトー・オー・ブリオンの優れたヴィンテージには、1945年、1961年、1989年、2005年、2015年、2019年などがある。特に1989年ヴィンテージは「伝説的」とされ、ワイン評論家のロバート・パーカーから満点評価を受けた。

8. まとめ

シャトー・オー・ブリオンは、長い歴史と卓越した品質を誇るワインであり、今後も世界中のワイン愛好家を魅了し続けるだろう。

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