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[WS音源探訪メモ] Aodyo Anyma V

Aodyo Instrumentsから2024年7月にリリースされたソフトウェア音源のAnyma V(デモ版)を触ってみた記録です。途中試し吹き動画もあります。


Anyma V概要

Anyma VはAodyo Instrumentsが2020年に開発し販売しているAnyma Phiという物理モデル音源搭載の多機能ハードウェアシンセサイザーのソフトウェア版です。 https://aodyo.com/anyma-v/

Anyma社は音源内蔵のウィンドシンセSylphyoを開発販売するメーカーでもあり、Anyma PhiもAnyma VもSylphyoの外部音源としても考慮されて作られているため、デフォルトでウィンドMIDIコントローラーで演奏できるような音色が含まれています。アナログ音源、FM音源的なパラメーターとともに
管弦打楽器シミュレートの物理モデル音源方式のエンジンが搭載されており音源のパラメーターもウィンドシンセ向きなものが多くあります。
私自身YAMAHAのVL70-mとWX5を長く使っていることもあり物理音源ということでAnyma Phiには私も興味は持っていたのですが、そこそこの価格なのとパラメーターが非常に多くて使いこなせるか自信がなかったので遠巻きに見ていた、という状態だったのですが、2024年7月にそのソフト版が出る、新発売イントロ期間の価格は約半額で79ユーロ(約13000円)、デモ版もある、ということで、まずはデモ版を試してみました。
なおデモ版では10分に1回30秒程度操作できなくなることと、作成した音色の保存ができないことの制限はありますが、その他は期間無制限でフル機能で使うことができます。

ウィンドシンセ用的な主な特徴

・最大16音ポリ、モノモードにするとレガート演奏可。
・音の出だしのパツパツはデフォルトで無し
・オシレーター3つの組み合わせで音をつくり、フィルター含むエフェクタモジュール5つ(ルーティング可能)で音を変化させる流れ。
・一般的なLFOやENVに加え、かなり特殊な挙動が可能なモジュレーションソース16個
・MIDI CCのモジュレーションソース5つ(任意のCCアサイン可能9
・多くのパラメーターとモジュレーションソースで自由なマトリクスモジュレーション可能、音色ごとに保存。
・オシレーターの種類は物理モデル音源(管・弦・打楽器)方式、一般的なアナログ音源方式、オシレーターシンク等特定の変調が可能なアナログ音源方式、FM音源方式、簡易的なWavetable方式等から選べる

試し吹き

まずは試し吹きです。プリセットのいくつかをWind MIDI Controller(Teefonics社・MWiC)で吹いています。後半は「empty」と書かれている初期設定的な音色をもとに、オシレーターを変えたり、マトリクスのマッピングをしたりして音色を変えているところです。
https://www.youtube.com/watch?v=VE9hdqc4enc

機材:Anyma Vデモ版Standalone、Apple MacBook Air(M1, 2020)
Wind MIDI ControllerとしてMWiC(Sax-MP、Track Bendモード)
MIDI信号としてはブレスコントロール(CC2)と、グライドプレート(CC5)と、ピッチベンドだけ使用しているので、MWiC以外の一般的なWind MIDI Controller(EWIシリーズ、AEシリーズ、NuRAD、NuEVI等)でも同様にコントロールすることができます。

デモ版を試してみた感想と私的結論

 一言でまとめるとウィンドシンセの設定にかなり配慮されている、アナログシンセと物理モデル音源方式オシレーターを併用してマトリクスでコントロールできる多機能モジュラーシンセだと思いました。
 機能が豊富かつ独特な機能も多いので、最初は途方にくれますが、操作体系自体はよく整理されているので仕組みを理解するとともに自分の出したい音のイメージがしっかりある方はオリジナリティーのある、この音源でしか出せない音がつくれるだろうなと思いました。管楽器の物理モデル音源とアナログ方式を自由に組み合わせられるという音源というだけでも貴重です。(他にはKORGのProphecyあたりでしょうか)
 ただプリセットが71種、そのうちブレスコントロールできるのは半分ほど、管楽器的にそのまま使えそうなプリセットは数個しかないので、圧倒的にプリセット数不足と思いました(購入しても71個のままだそうです)。
 シンセの扱いに慣れている人は自分で作れば良いけれど多くの人はプリセットをベースに少し手をいれると思いますのでそれを想定するとプリセット不足で、かなり残念です。
 私も先の動画の通りプリセットを元にいじる、あるいはイニシャライズ音色とも言える「empty」をベースにいろいろいじってみましたが、どうにも「コレだ!」と言う音色がつくれず、物理モデル音源方式であればIMOXPLUSのRespiroを既に持っていたのでAnyma Vは購入までは至りませんでした。
 イントロ期間の価格は魅力なのですが、、、管楽器的プリセットがもっと豊富だったらなぁ・・・
 でも特徴ある音源だし、機能も自由度も高いので、これでしか出せないウィンドシンセ音色を出せる優れた音源だと思います。 ウィンドシンセ用音源として、音作りをガッツリやる気のある方、あるいはデモ版を試してプリセットに気に入った音色が見つかった方にはおすすめです。

anyma V (standalone) プリセットSaxMechine 3oct 表示画面

良いと思った点:

・管弦打楽器の物理音源搭載。アナログ方式・FM方式ともレイヤーして一つの音色にできる
・管楽器の物理音源モデルは、ざっくりシングルリード、ダブルリード、フルート、金管楽器。モデルはそんなに多くない印象だがツマミでバリエーションを変えて欲しい音に追い込んでいく感じ。特にブレスノイズの出方のリアルさはさすがに物理音源といった感じ
・ブレスによるフィルター開閉ノイズは発生無しとみなせるレベル
・音の切れ目のパツパツも発生しない
・ブレスコントロール(CC2)で音量調節することがデフォルトで考慮されている。
・ブレスでどのツマミがコントロールされているかリアルタイム表示されわかりやすい
・信号とモジュラーのフローが画面上部に表示されるのはわかりやすい
・ほぼ全てのパラメータを1画面完結で操作できるのは良い(そのかわり文字が細かくて老眼世代には辛いwww)
・フィルターが多種・多機能で、エフェクター的使い方で並列・多段直列・dry/wet調節をして組めるのは便利
・自由度の高いモジュレーションマトリクス可能。音色ごとに設定保存可能
・マトリクスのソースとして任意のMIDI CCが5つまで利用可能
・MIDIピッチベンドもマトリクスのソースとして利用可能
・LFO、ENVの他かなり複雑なモジュレーションソースがある
・モジュレーションマトリクス可能な各種エフェクター内蔵
・最大16音ポリ
・グライド可能。カーブ等細かい設定も可。

あと一歩と思った点

・管楽器的に使えるプリセットが少ない
・管楽器物理音源モデルの種類は多くない。限られたモデルでツマミを動かして欲しい音にしていく感じ。操作は簡単なので良い点とも言えるが、スイートスポットを見つけるまでは時間がかかりそうで、だからこそお手本としてのプリセットがもっと欲しい。
・一部の物理音源モデルは出せる音域が狭い(例えばサックスモデルは3オクターブちょっとだけ)

ウィンドセンセでコントロールする際の設定メモ

いろんな方法があると思いますが、私の設定方法のメモです。

ウィンドコントローラー側

・ブレスセンサーからCC2を出す。
・グライドセンサーからCC5(0〜127)を出力
・その他種々のセンサーからMIDI CCを出してそのCCで音源をマトリクスでコントロールできるのでアイデア次第

Anyma V側

・「Expression/VelEnv」というコントローラーに、CC2をアサインする(初期設定でCC2が設定されていますが、画面上部のMIDI端子アイコンをクリックすると任意のCCやAftertouchがアサインできます)
・「Control A」にCC5をアサインする(グライドに使用)

Anyma Vの設定の基本

  1. OSC1〜3の3つのオシレーターについて、好きなオシレーターモデルや波形を選び、ツマミを回して好みの波形にする

  2. MAIN Mix (Main bus)でOSC1〜3の音量バランスを調節する

  3. マトリクスのマッピングで
     FROM Expression/VelEnv
     TO    PAtch OSC Expression
    とするとブレスで音量が調節できる

  4. フィルターはEFFECTSのセクションにある。例えばSFX1でFilter→Ladder Filterを選び、CutoffをマトリクスのマッピングでExpression/VelEnvでコントロールする。管楽器系物理音源の波形では必ずしもフィルターを使わなくても音量コントロールのみでも良い

  5. グライドはマトリクスのマッピングでControl A→ PAtch Glide time、ツマミでグライドタイムを調節。

  6. コーラスやディレイはEFFECTSのSFX1〜5で選んでかける

こんな感じで、波形を選択しツマミで調節、SFX1〜5を選択しツマミで調節した後は、マトリクスのマッピングでブレスやMIDI CCでコントロールしていきます。先の動画もこんな感じでいろいろいじっています。

さらにLFOやENVをかけたい場合はMODULATORSでLFOやENVを選び、それをソースにしてマトリクスをマッピングします。
初期状態ではENVもLFOもフィルターもルーティングされていないのでそこから自分で設定する必要があるのは面倒ですがそのぶん自由度が高いとも言えます。

例として、3.と5.のマッピング画面は下記の通り。

マトリクスのマッピング画面

気付いた問題挙動

Mac版 Anyma V Standaloneでは気になりませんでしたが、Mac版 Abelton Live 11 SuiteをDAWのホストにして、CC2で音量コントロールすると反応が鈍い、タンギング無しでスラーで高速フレーズを吹くとレイテンシを感じるということがありました。この場合、CC2ではなくAftertouchを使用してブレス・コントロールすると問題無くなります。他のDAWではおそらく問題なく、Live側の問題ですが、こういう現象が発生したら試しにAftertouchにしてみると良いかも。

最後に

最初に書いた通りですが私としては「自分が既に持ってるソフトで間に合いそう」なので導入には至りませんでしたが、能力としてはウィンドシンセ用ソフト音源として使えてこれでしか出せない音がだせる強力で優れたソフトシンセと思いました。物理音源に触れてみたい人、音作りをがっつりやってみたい人、プリセットにお気に入りがあった方、にはおすすめできます。試用期間の無いデモ版が用意されているので気になった方はまずは試してみてはいかがでしょうか♪

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