MWiCメモ06 FW8.54新機能PreNoteON(パツ消し機能)について
開発テスター(私)の経験談としてMWiCファームウェア8.54で追加された機能である「PreNoteON」について解説いたします。
MWiC詳細は開発・販売メーカーであるTeefonics社のサイトを御覧ください。
https://teefonics.jp/
はじめに
MWiCは発売以来ファームウェア(FW)のバージョンアップで少しずつ機能追加されています。基本機能は発売開始時に揃っているので、後から追加されるのは比較的マニアックで、あるユーザーによっては全然関係ないけれどあるユーザーにとっては大変役に立つ、そんな性格のものが多いですが、FW8.54で追加されたPreNoteOn機能もそんな機能のひとつだと思います。
PreNoteOn機能
公式の機能紹介はMWiC Facebookの公式リリースの通りです。
https://www.facebook.com/groups/214255840991927/posts/498009949283180/
これの補足として使い方、注意点、制限、音源の設定をまとめます。
1. PreNoteONをONにしておくことで、音源によっては気になる演奏時のNoteONで発生するパツッというノイズ(ここではパツ音と呼びます)を消すことができます。
PreNoteOnの使用設定その1
MWiC設定項目「04 Breath」の4番目「PreNoteON」をONまたはOFFにします。ONにするとMWiC使用中常にONとなります。
PreNoteOnの使用設定その2
MWiC設定項目「16 XtraKey」で「Function PreNoteON」を選択すると、XtraKeyを触っているときにON、触れていないときOFFになります。04 BreathでのPreNoteONのON/OFF設定にかかわらず、XtraKeyが優先されます。
演奏中、基本OFFで使いたいが特定部分だけONにしたい場合などに利用します。
OFF時の動作
OFFだとFWアップ前と全く同じ、通常の挙動です。パツ音が気にならない音源ではOFFのままで問題ありません。むしろONにするとトラブルの原因を増やすことになるので、現状パツ音に不満がなければOFFを推奨します。
ON時の動作
ONにすると次の挙動となり、音源側の設定とあわせて息を吹き込んで音が鳴るときにパツ音が目立つ音源でパツ音を避けることができます。
【PreNoteON=ON時の挙動】
・息を吹き込まなくてもオクターブローラーを触った時点でMIDI信号の「Note ON」が出る。そのまま運指するとその運指のNote No.のNote ONと前の音のNote OFFが出る。
・オクターブローラーから指を離すと3秒後に「Note OFF」が出る
・Note ONは出てもブレスセンサーからのMIDI信号(例えばCC2)はゼロのまま
シンセサイザーは多くの機種でNote ONのときにパツ音が出ます。鍵盤で演奏した場合パツ音によって音のアタック感が出ることもあり機種によってこれが大きいものと小さいものがあってそのシンセのVCAの個性なので悪いことではないのですが、ウィンドシンセ演奏ではピアニッシモから静かに入りたいというときなど「パツッ」としてほしくないことがあります。多くの音源では、VCAのENVのADSRの、AとRをわずかに上げることでパツらなくなりますが、一部のパツ音の強い音源の場合はAとRをかなり上げないとパツ音が消えず、Aが大きいことで立ち上がりが鈍すぎる音になってしまいウィンドシンセとして演奏しにくくなります。
このようなパツ音が大きい音源の場合にPreNoteOn機能を使ってあらかじめNote ONにしておくことで、ピアニッシモ時のパツ音を避けることができます。
なお、ローラーを触れたときに1回パツ音は出るので注意してください。つまり曲中の目立たないところで先にローラーに触れてパツっておく必要があります。
ところで、「吹かなくてもNote Onを一回出しておく」という挙動は既存のウィンドシンセ(EWI、NuRAD、MWiC、おそらくAEも)でも可能で、ブレスセンサーの閾値や感度を上げて、吹かなくてもブレスセンサーが反応している状態にしておけば良いです。
MWiCであれば、05 Breath-Aのmin値(グラフ左下の数値)をマイナスの値(例えば-10)にしておけば、MWiCの電源を入れた瞬間に1回Note Onが出ます。
ただし、この方法だとブレスセンサーからのMIDI信号(例えばCC2)として、小さい値が常に出ている(例えばCC2=3が常に出ている)状態なので、「吹いていなくってもずっと小さい音が出ている」という状態になります。
PreNoteON機能では、Note Onは出ているけれどCC2=0のまま、という状態になるので理屈上は「無音」という状態にすることができます。ブレス閾値を変えた場合に比べてのPreNoteOn機能のメリットはここにあります。
2. (注意点)Note Onされても、息を吹いていないときは無音になるように音源側を設定する必要があります。
例えばブレス(CC2=0〜127)でローパスフィルターのカットオフをゼロ(全閉)から全開までコントロールする音色があったとします。
この場合、Note OnしてもCC2=0であればカットオフ=ゼロなので無音になる、と普通思いますが、特にハードウェアシンセではカットオフをゼロにしていてもうっすら音が出るということは良くあることなので、PreNoteOnでパツ消ししながらも吹いていないときには無音にするためには、そのシンセ音源個別に工夫した設定を合わせて行なう必要があります。残念ながらPreNoteON機能をONにしただけで全て解決するわけではありません。
どのシンセでどんな設定をするかの例は後述。
3. Judd音色のようなマルチトリガー音色には不向きです(最初の1音目はトリガーがかからないため)
あらかじめNote ONしてしまっているので、Note ONのときにトリガーがかかるマルチトリガー音色では、吹き出した最初の音はトリガーがかかりません。例えばJudd音色は、音の出だしに短く「ビャッ」という音程変化がつく音色ですが、吹き出した最初の音はこの変化が起こりません。残念ながらこれはどうしようもありません(ちなみにブレスセンサー閾値調整でパツ消しした場合もこれは同じ挙動)
音源別PreNoteON効果と設定例
試したシンセのリスト
PreNoteON=ONでパツ音低減効果を感じたもの
・KORG minilogue XD
パツ音低減効果が感じられなかったもの
・Roland S-1
・Behringer Neutron
・全部は試していませんが、ソフトウェアシンセの多く
あくまで私が試した範囲の結果です。「効果が感じられなかった」というのはOFFのままで十分パツ音が少ないので、あえてONにする必要を感じなかった音源という意味です。
KORG minilogue XD 設定例
MWiCからCC43またはCC2(ジョイスティック下側)を出してCUTOFFをゼロ〜任意の値までコントロールしている音色が多いと思います。ピアニッシモから音を吹き出そうとすると不規則に大きなパツ音が鳴ると思います。
このときPreNoteON=ONにすると、パツ音は消えますが、吹いていなくても小さく音が鳴り続けてしまいます。
フィルター全閉していても少し音が鳴ってしまうのはこの音源の仕様なのでしかたないと言うしかありませんね。
そこでCC11またはCC7のどちらかを同時に出します。こうするとパツ音無しで、かつ吹いていないとき無音になります。
タンギングして吹けばアタックがつきますし、タンギングせず息だけで吹き込めばパツ音やアタックはつかないので、管楽器的な奏法がうまく再現できると思います。
MWiC設定例
04 BreathのPreNoteON = ON
02 MIDI-1で、Breath CC-A = #2、 Breath CC-B = #11
※この設定をテストするときの注意点:息を止めるとCC11=0になるため、その後CC11をOFFにしても音が鳴らなくなるので息をMAXまで吹きながらCC11をOFFに切り替えると良い
minilogue XDのウィンドシンセ設定は以前の記事も参考にしてください。
おわりに
ということでPreNoteOnが効果的な音源はそんなに多くないとは思いますが有効な音源には有効かつ効果的ですので、お手持ちの音源でパツ音に悩んでいる場合はぜひお試しください。