【楽曲解説】 2024課題曲IV 『フロンティア・スピリット』
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この動画では今年の課題曲4番フロンティア・スピリットの楽曲分析、演奏のコツについてだらだらお話ししていきたいと思います。動画の後半には実際の吹奏楽のリハーサルの風景も載せておきますので、ぜひご覧ください。
今からお話しする内容の多くは、私が東京芸大の附属高校やドイツのライプツィヒやベルリンで学んだ楽器演奏に関わること、和声学や作曲法に基づくもので、どちらかと言えば、私が自身で考えたことをお話しするというよりは、優秀な教授陣から直に学んだことを、そのまま皆さんにお話しするというようなものですので、ある程度の信頼性を持ってお聞きいただけるのではないかと思います。
冒頭から練習番号Aまで
T1 (T=タクト=小節の略)作曲者による解説に「全体的にmfを基調としており、音量の変化を細かく指示していません」とあります。冒頭のこのフレーズは金管のファンファーレと解釈することもできますが、ニュアンスとしては煌びやかな派手さではなく、燻銀のような落ち着いたもので、このサウンドを楽譜として表現しようとするとmfになっていると感じます。物理的な音量がmfであるべきではなく、音楽のニュアンスとしてmfの要素を取っておいてほしいと解釈します。ですから、mfだからといって音量が不足してこの曲の題名にそぐわない音色が冒頭から鳴ってしまうと、聴き手もしょっぱなから聴く意欲をなくしてしまうように感じますので、あくまでも立派で格式の高い落ち着いたサウンドを目指されると良いかと思います。
それを考えればT1のスネアの入りのニュアンスが、全くのアクセントなしにふわっと入ることはないでしょうし、伸ばしも無機質なロールになることもなく、金管と一緒に演奏している自覚があれば、自然とスネアに緩やかな抑揚が生まれると思います。
冒頭にはGrandiosoという指示もあります。金管はフルパワーのfではなく、余裕のあるダイナミクスレンジの中で演奏してほしいという作曲家の思いがmfとして表現されているのではないかと思います。
T1-8の和声進行はほぼ毎拍変化があり、わくわくする音楽になっています。反して、パートに関してはトランペットは3パートユニゾン、ホルンも3パートユニゾンに加えてユーフォニアムともユニゾン、それにトロンボーン3本のハーモニーにベースというシンプルな構造です。この曲全体を通じて共通することは、多くの箇所でユニゾンがあるということで、これは演奏上非常に注意が必要です。どのパートとどの箇所でユニゾンなのか。これを知っておかないと、音程が非常に取りにくく、音同士が喧嘩をする可能性が高いです。ユニゾンについては、例えば8人がユニゾンであれば8人の音がそれぞれ聴こえるのではなく、原則的には1本の音に聴こえるような音、全員で一つの音を作るような考え方が大切になると思います。
トロンボーンについてです。T3,4では1,2番トロンボーンが急にユニゾンになります。私はもともとトロンボーン奏者で、多くの管弦楽曲を演奏してきましたが、古典的、またはオーソドックスなトロンボーンセクションのハーモニー進行においては、このように急にユニゾンが生まれてしまうようなハーモニー進行は回避するように多くの著名な歴史的作曲家は作曲されています。対して今回の曲では、急なユニゾンが生まれてしまうハーモニー進行が多くの箇所で見られるので、音が急に重なった場合、急にそれらの音が強く、また音が喧嘩すると雑に聴こえてしまうので注意が必要です。対処方法は複数ありますが、一番簡単なのは2番パートがそのようなシーンで2,3割引いて吹くことです。ただその際、その箇所の音楽の雰囲気を疎かにしてしまうことのないように注意します。例えば、パリッとしたシーンなのに、弱く吹けと言われたと勘違いして一人で音の発音が柔らかくなってしまうというようなことがよくある誤解かと思います。
次に冒頭8小節のアーティキュレーションについてです。
まず私は多くの曲で常に基本としているのは「アクセントは音の発音に関する音楽的指示であり、音の長さに影響するものではない」と説いています。多くの中学校などで誤解されているのは、アクセントを見ると発音と同時にすぐに音を減衰させてしまって、音価分音が伸びていないとうことです。きっと今回もこの曲の演奏で冒頭から8分音符のように演奏してしまう学校があるのは容易に想像できます。ただこれをしてしまうと、せっかく音を伸ばして音圧を稼ぎ、ボリューム感を生む出せるパッセージであるのに、自分から音がこじんまりと聴こえてしまう方向へ行くのはもったいないことだと思います。ぜひ試しにしてみていただきたいのは、冒頭4小節を音のアーティキュレーション、つまりここで大事なのはアクセントですが、これを残したまま4小節間スラーがかかっていると思って演奏してみてください。スラー、ここではフレージングスラーのことになりますが、これを意識すると息は何も考えない時よりも長く出続けている状態になると思います。これで明確になるのは、金管セクションとしての音圧が全く異次元のものになるということです。実際に音を出して実験するときっと皆さん驚かれることと思います。これは音楽解釈にも関わることですからここで発言するのは難しいことですが、どれくらい今私がお話しした要素をこのシーンに入れていくかだと思います。当然やり過ぎればベタベタ感が増しますし、マーチのニュアンスからは離れていくかと思いますが、息を出し続けると音圧を稼ぐことができ、ひいてはバンド全体のボリューム感を大きく左右するということに繋がります。
同じく冒頭8小節間のアーティキュレーションについて、別のお話をしたいと思います。トランペットの最初の3音、ホルンユーフォやトロンボーンの最初の4音、これらは全てアクセントがついています。作曲家の方はどんな意図でアクセントを記譜したのでしょうか。簡単に言えば、はっきりとした発音で吹いてほしいということだと思います。例えばこの曲がベートーベンなどの古典派時代の音楽であると仮定した場合、ベートーベンはこの箇所にアクセントを置いたかと言えば、それはそうではないと思います。この曲調のこのシーンで明確な発音をするのは音楽的に当然のことであり、演奏者が当然そう演奏してくれると分かっているから、その程度のことでアクセントをおかず、もっと本気でアクセントをしてほしい時にその指示を取っておくことになります。
話が少しそれましたが、この吹奏楽コンクールの課題曲は多く中高生にも演奏され、教育的意図も含まれているでしょうから、ちゃんと分かって欲しいから念のためちょっとしたことにもアクセントやテヌートで音楽のニュアンスを伝えようとしているということです。
例えばそれが垣間見えるのがT4のテヌートとスタッカートです。和声を見るとEs-Durのなかでサブドミナントからドミナントに半終止するシーンです。T3からT4へ向かって、T4の1拍目から引く。すなわちフレーズとして重みが来ている音にテヌートを入れてくれている訳です。和声進行を勉強して音楽経験がある程度ある人であれば、ここに音楽的フレーズの小さな山が来ていることに容易に気づくと思いますが、音楽を始めたばかりの人であればそうはなりにくい。それをこれらのフレージングやアーティキュレーションで気づかせてくれようとしている。あるいは、気づかなくともこれらの記号を頼りに演奏すれば、それっぽく聴こえるように作曲家がしようとしてくれているということです。
次にスタッカートについてお話ししたいと思います。これは経験に基づいた見解になりますが、日本で育った演奏者の多くが、スタッカートを短くしすぎる傾向が強いと感じています。中学高校へ指導に行くと良く目の当たりにするのが、スタッカートは「短く」であり、どんなテンポでもとにかく同じように短く扱ってしまうということです。国際的または一般的にはスタッカートは寄付されている音価の半分程度に演奏するのが通例とされているようですから、いま自分が演奏したスタッカートは本当にそうなっているか、短すぎないかどうか確かめてみると良いと思います。短過ぎれば、先にお話しした音圧の話同様、自分で音を短くして音圧を削りに行ってしまうということになります。また同時にスタッカートで気をつけるべきことは音の処理です。どんなに短い音でも必ず響きを残して丁寧に扱う。これを大事にするとさらに上のレベルのサウンドを得ることができると思います。
T4の1拍目の話に戻りますが、サブドミナントからドミナントへの和声進行。2つめの8分音符をスタッカートだからといって短く、また軽く扱ってしまうとドミナントが聴こえずに、アーティキュレーションを「飲んだ」状態になってしまいます。特にホールではテヌートの方が大きく、次を引きすぎて短くしすぎてしまうと前の音にかき消されてその音が全く聴こえないというようなことも起きえます。T4の1拍目2つめの8分音符のスタッカートの解釈には注意が必要です。私はこのスタッカートは記譜されていなくても、またはされていない方が誤解を招くことにつながることなく良かったのではないかと思います。
次に打楽器についてです。例えばT4のスネア、シンバルとバスドラムですが、管楽器のようにアーティキュレーションの指示がありません。これはこの曲に限らず多くの吹奏楽曲に見られることですが、このシーンでは金管楽器と同じ動きをしていますから、同じアーティキュレーションを施す必要があります。曲全体において、打楽器はスコアを見てアーティキュレーションを書き込んでおくと打楽器群のより立体的な演奏につながると思います。
再びトロンボーンのお話になりますが、中学校の吹奏楽部などでは毎年ついて回る話である「どのパートを何年生が担当するか」という問題です。T2の2拍目はEs-Durの第2転回形という和音になっており、普通のE-Durの三和音のベースがBbになっているというものです。このシーンで和音構成上非常に大切な第3音を担当しているのは2番トロンボーンだけです。基本形の第3音よりも転回形和音の第3音の方がさらにハーモニー上大事であり、音をはめていくことが難しいものです。さぁこの大きな責任ある役割を楽器を始めたばかりの1年生一人に任せて良いものか。ここは非常に悩ましいものだと思います。
オーケストラでもそうですが、トロンボーンは多くの場合2番パートが第3音などの決定的な和声構成音を担当することが多く、太く真っ直ぐ安定的に音を提供できる2番奏者は重宝されます。そう考えると、もし私が高校の吹奏楽部の顧問であれば、あえてスキルの高い上級生に2番を担当してもらうということも十分に考えられます。ただこれは下級生が常にヘ音記号の上のFまでが問題なく演奏できるスキルを持っているということが前提です。中学校となるとそうも行かないと思いますから、必然的に3年生1番、2年生3番、1年生2番という図式になってしまうのだと思います。これは仕方のないことですが、大事なのはいかに2番奏者が下級生であった場合、パートととしてその後輩を育ててあげるか。自分だけ上手くても3人の共同作業であるというのがトロンボーンパートの宿命ですから、3つの音が揃って初めてスタートできるという認識を持つことが大事かと思います。
次のお話です。先に作曲家の方のアーティキュレーションの指示について触れましたが、T8を見ていただくとトランペットのメロディのフレーズ最後にアクセントがあります。冒頭8小節のメロディは4小節が2回というフレージングになっており、フレーズ自体は8小節で収まるのが一般的ですが、ここにアクセントがあることで次のクラリネット、サックスのメロディーに繋げていってほしいという思いがここに隠されているように感じます。このT8のアクセントがなければ、私が指揮者であればT8でdim.してフレーズを収めるところですが、それ以外の楽器を見てもT7-8すべての音にアクセントがあることから、音楽が前へ進む推進力を持っていることが感じられます。正しく題名に相応しい抑揚であると思います。
T9で引き継がれたメロディは冒頭のトランペットと同じニュアンスで吹く必要が音楽的にあります。それだけどのようにテーマをフレージングするのか入念に研究し、全員で共有することが大切になります。
T9では和声はc-mollになります。一瞬顔を見せるこの短調の空気をどのような音で作るのか。要はT9のトロンボーンです。このc-moll第2転回形が一定の硬さと寒さを持ってコンパクトに鳴ると音楽の面白さが出てくると思います。つまり、冒頭8小節間はファンファーレの和音担当、T9からは性格も変わり、リズムも担当する。必然的に音の出し方や吹き方も変わる。このようにシーンシーンでそこに求められている役割を果たす、またそのような楽譜の見え方をしていけるようにすることが大事かと思います。
T12はT4と同じものです。T12はD7-Gmという和声進行ですが、D7はF#がベースに来ている第1転回形です。このベースのF#は音程が合いにくいと思いますから注意が必要です。T4ではテヌートとスタッカートしか表記されていませんでしたが、今度はテヌートがアクセントとなり、スラーが追加されています。T4では控えめであったものが、T12では思いが増して強めになっていると解釈します。そのようにエネルギーを増していき、堂々とT17のEs-Durに辿り着くという構図です。
T14,15のホルンとユーフォについてです。最初の2音はメロディの追いかけになっています。3,4つ目の音は4つ目の音、すなわち15小節目の全体のアクセントを助長するための予備運動を伴った5度の跳躍であると解釈します。この副旋律的な動きは、常にメロディの下に支配されているのではなく、時に最優先パートである主旋律を超える時があっても、そこに明確な意図があれば良いということです。T15のF-Bb-Bbという付点が少し表に出ることにより、ハリウッド的なニュアンスが生まれ曲調に相応しいものになると思います。
A4前からのトロンボーン以下の動きは、例えば50人の弦楽合奏がこのパッセージをどう演奏するか、または映画音楽のオーケストラがどう演奏するかを想像すれば、このスタッカートが乏しいものではなく、ある程度息の量を必要とされていることに必然的に気づくと思います。余裕のあるゴージャスさを少し出すことができれば良いのではないかと思います。
練習番号AからBまで
さてAからの第1テーマです。冒頭3回とも8分のアオフタクトを活用し、跳躍の度合いを増して動力を増していくフレーズです。
今ここまでスコアを読んできて、B2前のメロディフレーズの最後にアクセントがあることで少し見解が変わりました。先ほど曲の最初T8にアクセントがあるので、その先へ繋げていくように音楽解釈できるとお話ししましたが、このアーティキュレーションを見ると、どうやら作曲家の方はそういう意図でアクセントをおいているのではなく、あくまでも発音を明確にして欲しいという希望からアクセントを置いていると感じました。つまり、音楽フレーズの作り方にはそのアクセントは影響力が低いというように私は考えます。言い方を変えると、A8もB2前もアクセントがあるからフレーズを引いてはいけないということではないということです。
そう考えるとAからのフレーズは5小節目に重さがきて、エコーとして7小節目にも若干というのがオシャレかと思います。和声的にはサブドミナント(Abベース)に一番重みが来て、ドミナント(Bbベース)に引くということです。
第1テーマの後半8小節も同様のフレージングで、フレーズの5小節目、すなわちB4前のサブドミナントに一番の重さが来て、次の小節で少し引き、B2のEs-Durに解決するということになります。
さて次に第1テーマのトロンボーンをはじめとしたハーモニーと和声進行についても見てみましょう。
古典的なマーチでは多くの場合シンプルな和音が使用されていますが、この曲は「開拓」特にアメリカ西部を思わせる曲調になっているのは、色々な要素がありますがそのうちの一つに7度の和音が使用されていることが特徴的です。
それらは例えば、A3の1拍目1番トロンボーンのD、A4の1拍目3番トロンボーンのBb、A8の2拍目2番トロンボーンのAbなどです。これらの音程が正確に取れていることはもちろん、この音があるのとないのでは和音の響きが大変に変わりますから、しっかり聴き手に認知されるように音が通ることが大事です。
話は少し戻りますが、A4前からのトロンボーンの和声進行は、Es-Durから四六の和音、EbM7まで行って戻ってくるという、その音の方向性同様、明るさや空間の感じ方が推移していって良いと思います。そういった感覚を持ちながら演奏するのとそうではないのでは、音楽の立体感に大きな差が出ると思います。
B2前のトロンボーンのハーモニーについてです。この曲の特徴となっている1度の和音から四六の和音へ行き来するムーブですが、今の話を考えれば、B2前の2拍目は少し明るくほんの少し強くなりB1前で落ち着くという演奏となり、B2-1前が平坦な演奏にはなりえないことがわかるかと思います。また今回はEsDurの四六の和音ではなくその際のベースがBbになってより膨らみを持たせてあります。このベースもDであり、次のEsに終止することを考えると、Bbが自然とテヌートのような扱いになるのは自然かと思います。
ベースラインについてです。A3の2拍目にあるBb-Hの動きですが、次の小節のCに向かったBbからの経過音としてHが入っています。言葉で表現するのは難しいですが、ベース進行に経過音を含ませることで音楽の盛り上がりやボリューム感、また同時にベース進行への聴き手の注目度が上がります。そのため、これらのBb-H-Cという動きはなぞるように、若干強調されるように演奏するのがこの曲のみならずベース演奏の通例となります。
練習番号BからCまで
音楽は色々な意味で対比というものが大事な働きをします。この曲の第1テーマとBからの第2テーマも同様です。一つはメロディの流れ、もう一つは和声です。
第1テーマのメロディは輪郭のある縦乗りなものでしたが、第2テーマではスラーも多用されていることから横流れであることがわかります。第1テーマとの対比を明瞭にするために、第1テーマは機敏に凛とした性格、第2テーマはレガートと歌い込みを大切にすることなどで、それぞれのテーマにコントラストを持たせることができ、ひいては聴き手が飽きずに、わくわくしながら聴けるということになります。
第2テーマはB1をはじめ、Bからの8小節間は短調を基調として作られていることもあり、第1主題の長調とこれもやはり対比となっています。さて、先ほど歌い込みというワードが出ましたが、短調には短調の特徴があり、このシーンは押し込むように歌い込むことで、短調のグッとくる雰囲気を醸し出すことができます。ですからBからのメロディは何もないかのように涼しい顔をして演奏できるはずのない、そんなシーンです。Bからのメロディの仕組みは、2小節でトライする。しかしそれでは足りず形を変えてもうワントライ。この形を変えているというのが味噌で、Eb-Gb-Bb-Abという細かな動きが明確に聴こえることはもちろんのことながら、圧が高まっていく様子が表現されると聴き手もドキドキすると思います。そしてさらに音の高さを変え(転調し)同じ2回が繰り返され、ひとまずの頂点へという流れです。
メロディだけでも増していく緊迫感は表現できますが、3番クラリネットやテナーサックス、ユーフォなどが担当する対旋律によっても、さらにその効果を倍増させています。特にB3のシンコペーションなどは高まっていく様子が描かれていて、この音も必然的に抑揚が生まれる音であると思います。またB1で入った後、B2では前の音が掛留音として残り非和声音、ぶつかる音に自然と変化していることとなり、この瞬間に一番圧がかかるようにDbの音で少しcresc.というか圧をかけていくのが自然であり、和声に基づいたより良い演奏につながると思います。
バロックやクラシック古典派の音楽でも同様ですが、メロディが音を伸ばしている時に、合いの手のように対旋律が入ってきたり、動きがあったりすることが良くあります。その際の入りというのも、そこに食うように入ってきているというのが明確になる方が、音楽の緊張感が増して良い効果が生まれると思います。
Bからのメロディの話に戻ります。最初の4小節のメロディは単旋律ですが、5小節目からは3度下のハモリが加わります。2番フルートや3番トランペットがそれらです。これらはこのオーケストレーションですとパートの割合が少なくなっていますが、ほぼメロディと対等に音量が出ている方が音楽の圧が出て良いと思います。T44ではさらにメロディが3分割され3つの声部になります。この時も同じように全パートがしっかり鳴っている方が、ここまで音楽的にも音が増していっている感じが出て良いと思います。
B8の2,3番クラリネットやアルトサックスなどの16分上行系の動きですが、音楽において細かい音符で上昇するというのは、次へ向かうエネルギーの動力となります。ですから、記譜されていなくとも自然にcresc.傾向になるはずであり、cresc.は記譜されていないからやってはいけないのではなく、当然そのようなニュアンスが生まれるものであり、それは禁止されていることではないどころか自然なことであると改めて認識することも大事かと思います。
Bからのホルンについてです。シンコペーションは食い気味で入るというのは、音楽の鉄則で広く周知されていると思います。ここのアクセントはそれを念押しする程度のためであると解釈します。気をつけたいのはそれぞれ2拍裏のスタッカートです。これを律儀に再生してしまうと大変にナンセンスなものになりがちですので、丁寧にシンコペーションを強く入ったからそれをおさめるという程度のものと解釈するのが相応しいと私は思います。ここも前の話同様に、同じ動きをしているスネアはホルンと同じニュアンスで演奏する必要があります。
ベースラインにも同様のアーティキュレーションがありますが、私はこれは同じようには扱わず、ベースに関してはB1やB3最後の音は次の頭拍へのアオフタクト、B2や4は先のホルンと同様に引いて収めるというように解釈します。若干形は違えどバスドラムも基本的には同じ動きなのでやはりニュアンスを揃えます。
この辺りは解釈次第で色々な選択肢が生まれます。ベースも後打ちもメロディー同様に2小節ずつの波にするということも可能だとは思いますが、綿密な楽曲分析の上でそれを奏者全員が正確に共有し把握する能力も必要となり、この場合は難易度はそう低くないので、私は先ほどのようにホルン、ベース、メロディ、対旋律1、対旋律2はそれぞれ独立して考える方をお勧めします。
C8前からの和声です。この部分はこの曲が今の時代に課題曲として採用されることになる大きなアドバンテージとして働いたのではないかと思われる、また同時に私も大好きな斬新な和声進行の嵐です。フランスのエリックサティを思わせる並行和音を用いたエスプリ的なシーンです。作曲家の方が植民地時代のフランス系移民などを想像してこのようなパッセージを入れられたのかどうかは、ぜひお聴きしてみたいところです。話がそれましたが、クラリネットの2,3番やアルトサックスの1,2番などは先ほどの並行和音、並行音程になっていて、4度の音程が連続しています。なかなか珍しい音程間隔ですが、和物の吹奏楽曲などでは4度や5度の並行音程が良く出てきますので、2パートで4度の音程を保ちながらハーモニー練習をしてみたりするのも、このシーンの改善につながる練習になるかと思います。例えば、Bb-Durの音階のロングトーンを一人は普通に吹き、もう一人は同じBb-Durですが4度上のEbから吹き始めるということです。このシーンの音程を綺麗に響かせるのは至難の業ですが、音程が合っているかのみならず、各奏者の音色感、透明感のある音色を追究することも非常に大事です。
若干専門的な話になってしまいますが、C8前の綺麗なコード進行で特徴的な音はどれかというとそれぞれ2拍目のテンションコード13thです。これがエレガントさを出してくれる大事な音になります。ではこの音を強調するべきかと言われれば、私はここはどの音も同じように鳴っている方が綺麗に響くと考えています。しかしこういった珍しいスパイスが使われているということを知っているのとそうでないのとでは演奏へのアプローチも変わってくるのではないかと思います。ちなみに先ほどの13度のテンションノートが鳴っている時の最上声部のメロディは9度になっていて、これもまた和声的にテンションのかかった色のある音となっています。それぞれ1拍目はシンプルな長三和音、メロディはその倚音として見ることもできる9度が乗っかっています。
さてここまで和声の仕組みをお話ししましたが、じゃあ結局どうやって演奏したらかっこよく聴こえるの?と聞かれれば、イメージはこうです。Bから次第に盛り上がり、まだ転調を続けるのかと思ったらBの10で破裂し、星が弾けちって3小節間で落ちていくようなイメージ。49小節からは4小節のフレーズで51小節に重さをかけていき、T52で落ち着く。ただここまでがあまりに斬新すぎて、聴き手は心の整理に時間が必要なので、必要だろうと作曲家の方は思ったのだと思いますが、Cの前に1小節間の余白を入れてくれています。実にオシャレで気の利いた音楽だと思います。私はいっぺんにこの方のファンになってしまいました。
C1前のスネアはソロとしてのmfです。自信を持って演奏し、聴き手が安心できるニュアンスを心がけると良いと思います。
練習番号CからDまで
メロディはクラリネット、アルトテナーサックス、ホルン、ユーフォというそれぞれがそれぞれの音色の良さを残したままマッチしやすい楽器の組み合わせです。それぞれの楽器をどれくらいの割合で出すのかは、現場の奏者のスキルやバランスなどにも左右されるかもしれませんが、ホルンが多めであればハリウッド、フロンティア感は増すとは思いますが、同時に気をつけないと雑な演奏であると評価されうる注意が必要な部分かもしれません。
これも好みにもよりますが、私はテナーサックスとユーフォを太めに吹いてもらって、乗っかるというまではいきませんが、その上で余裕を持ってクラやアルトサックス、ホルンに吹いてもらうのが、エネルギーを無駄にすることなく心地よく響くバランスだと思っています。
Cからのフルートピッコロ、1番クラリネットとグロッケンの細かい動きですが、どうしても演奏することに一生懸命になりすぎてただの音の羅列になりがちです。これを解消する良い方法があります。バロックの演奏法として知られている順次進行と跳躍進行をコンマで軽く区分けして考えるというもので、クヴァンツのバロック音楽演奏の原理という文献の中で触れられているものなのです。専門的な内容になってしまうので今は省きますが、ここではCの1小節目2拍目裏からのBb-Abと次の小節の同じ箇所のC-Bbを切り離して考えることで、連続した音の羅列ではなく、聴き手にも、また奏者にもより演奏しやすく、また抑揚につながる演奏法です。あとは作曲家が書いてくれているように2つの音にかかっているスラーを再現し、スラーの最初の音をそれぞれ明瞭に発音すれば、とても聴きやすく、また主旋律を邪魔しない飾りとして機能すると思います。
C4前からフルートとクラリネットはメロディの追いかけになります。テーマと同じように発音します。4分音符のアクセントがあるのは、追いかけであることが聞き手に伝わってほしい気持ちの表れと想像します。
D1前のテナーサックス、ホルン、ユーフォの副旋律についてですが、音楽においてオクターブほどの跳躍というものはとても表現効果のあるもので、単純に音楽の広がりが表現できます。上へ跳躍していく場合に大事にしたいのはその前の踏み込み。つまりここでいう低い方のEbとそのアオフタクトです。これらをしっかり長めに深く息を入れてあげることで広がりをさらに表現しやすくなり、また同時に金管楽器において奏法的にも息の流れを活用するので跳躍が安定的になります。
D1前のフルート、クラリネットですが、16分の飾りをここまで担当してきて、Dのアオフタクトからはメロディになります。メロディに流れ込んだり、メロディを気づかずに吹いてしまってはもったいありません。G-Bbの音から立ち上がった音になるよう、頭でまずは理解することが大事です。
Dから3回モティーフが繰り返され、都度転調します。この時聴き手が転調をフォローしやすいように、毎回メロディが聴きやすくあることが大事です。特に2回目はテナーサックスとホルンだけなので埋もれがちになるかと思います。
このように転調の多いシーンでは、本番で緊張したりなどするとミスが目立ちやすい場所でもあります。そのような箇所を本番で確実に成功させるためには基礎力が要です。D4のためにGb-Dur、D6のためにH-Durを練習しておく。つまり、フラットやシャープなどの敵が非常に多い調がいかに自分にとって近しい存在になっているかどうかが大切なので、これらをさらい込んでおくと安定性が増すと思います。
74小節目からFまで
このシーンはAs-Durがベースとなっています。As-Durはフラット4つ。日常的にこのあたりの調性まで音階練習や、特にコラール練習をしている学校は案外少ないのではないでしょうか。このシーンの響きが良くなるためには、この曲だけを仕切りに練習するのではなく、各パートやセクションでAs-Durのコラールなどに取り組むことが有効だと思います。
T74からのハーモニーの動きですが、開離配置に近い和音構造になっています。ベースのAbの上がトロンボーン3番やホルン2番の5度、ベースから10度上の第3音がホルンやトロンボーンの1番です。これは非常に和音が綺麗に響く和音構造です。密集配置よりも開離配置の方が、響きに伸びがあります。この和音構造に慣れるために、まずはトロンボーン2番とホルン3番を省いて練習します。次にトロンボーン1,2番やホルン1,3番だけでも練習して、それぞれの響き方のポイントを体で感じてみます。このように色々な角度から和音や和声を見えるようにしたり、練習アプローチしてみると、都度新たな発見があり、それらが経験値に結びついていくことと思います。
T74からの和声進行はベースのAbの保続音の上に、ホルンやトロンボーンの和音が上昇、下降するというものです。最上声部は抑揚をつけようとせずとも、上の音に行くにつれて音は通りやすくなるので何もしようとしなくとも普通に吹けば良いかもしれませんから、非常にミニマムな話になりますが、T74から4小節かけて最高音まで向かって行き、ベースのEbの音、すなわちドミナントとともにT78に収まり再び同じことを行い最後フェードアウトするというのが音楽的には自然かと思います。
練習番号Eです。メロディは細かなフレージングスラーを作曲家が書いてくれているので、ぜひその通りに再生すると最初のAb-B-Cという音の流れやこのソロがトランペットであるべきイメージが感じられるのではないかと思います。
ソロについてはTuttiでも良いとされています。スキルの高いトランペット奏者がいれば、ソロでも良いでしょうし、同じようにユーフォにも高い奏者がいれば、二人で楽に安心して演奏するのもまた良いと思います。好みで決めれば良いかと思います。ユーフォを追加する場合には私ならオプションのチューバもプレイにして深みをバックグラウンドの音量も少し増やしたいかなと思います。
Eからのクラリネットのハーモニーは、先にトロンボーンのハーモニーのお話で触れたように、突然他のパートと同じ音に重なり合うところがあります。これらの音が突出しないようにバランスや鳴りに気をつける必要があると思います。8分音符の連なりや付点からの8分音符のちょっとした動きなどは、ポップスでいうところのドラムの小さなフィルインのようなものですから、少し顔を見せてあげると綺麗だと思います。
Eからの和声です。最初の4小節はこの曲のテーマとなっている上行下降系ですが、その先5小節目は平行調のf-mollから次のサブドミナントマイナー的な音を経てAs-Durの第2転回形へ展開します。このf-mollからBbの減3和音、As-Durの流れをどんな風に感じるか。それをメロディは前と同じなのに和声の流れが変わっていることで、それを背景にどんな音色へと変化させて行きたいのか、和音やベースもそこに想いを馳せて音楽表現できれば、自然と温かみを帯びた素敵なグラデーションが実現できるのではないかと思います。
練習番号FからGまで
Fからのホルン、トロンボーンの副旋律についてです。フレーズの山はそれぞれ3小節目に来るのが自然かと思います。そこへ向かい、そこから引くというイメージです。ここで面白い音は3小節目のD、6小節目のFbです。3小節目のDはDbではなく半音の刺繍音となっています。この狭い音程感をテンションに表すと、音楽の面白さが表現できると思います。次に6小節目のFbですが、1回目はF2小節のF、2回目がこのように半音下がって、先ほどお話ししたようにサブドミナントマイナー的な音である非常に特徴的なFbなので、これをなぞるように丁寧に演奏すると和音の深みが演出されると思います。
練習番号GからHまで
Gからはバロックや古典派にも見られる対位法を用いたパッセージになっています。横流れのフレーズではなく、1音1音を独立させて弦楽器がデタッシェで演奏するようなイメージがふさわしいかと思います。これは私の味付けですが、Gの4小節目1拍目の音を吹き切ったらコンマを入れて1拍目裏から新たなパッセージが始まるように演奏すると、なおこの対位法の曲調が浮かび上がるのではないかと思います。これはテナーサックス、1,2番トロンボーン、ユーフォの動きのみに該当します。
G2の木管のトリルは中低音域で大事なパッセージを演奏しているので、音を張り続けるのではなく少し引いてそれらの人たちにスペースを作ってあげると良いと思います。
T121の2拍目では、このたった1音だけで全てを魅了するような音を出せると良いと思います。次の転調への誘いとでもいいましょうか。この1音がきっかけでその後の音楽が展開していくというイメージです。T121からは転調と共に音楽の緊張感は増して行きます。この音の圧を無段階的にグラデーションとして変化させていくことができれば、素晴らしい音楽になることと思います。
T132からのフレージングはそれぞれ1拍目に倚音が来ているので重みが来るのが自然です。重みからは必ず弛緩します。金管のトリプルタンギングも同じように方向性を持って演奏すれば、自然と息も流れやすく停滞してしまいにくくなると思います。音楽的なフレーズにおいては、毎小節の重みではなく、ベースの流れからT133,135,137の1拍目にそれぞれ向かって行き、T138は1つ目の8分音符に重みがありHからのBb-Durに対してドミナントであるF-Durに収めていくのが自然かと思います。マーチですので、どちらも強目でもらしさが出て良いかもしれませんが、音楽理論的にはこのような背景もあるということをお話ししました。
T134のテナーサックス、1,2番トロンボーン、ユーフォのファンファーレはどうしても最初の音の発音が甘いと最初から明瞭に聴こえないというのが良くあるパターンです。また低い音から始まるので、最後の高くて長い音だけが聴こえるようなことも良くあるパターンです。最初の低めの音にしっかり息を入れ込んであげることが大切です。
練習番号HからIまで
テーマが繰り返されるたびに若干のアレンジを作曲家の方はいれてくれています。例えばH8のティンパニです。度々繰り返されるテーマに聴き手が飽きないように、このようなパーツが聴き手にしっかり届き、あ!今回はこんなふうに変えてあるんだなと気づくように、聴かれやすいように演奏する必要があるかと思います。
I4前の16分音符2つと付点4分についてです。まず木管上声部の同じ音でのものも、サックスやホルンの上行系のものも、長い音符は耳に良く通りやすく、細かい音符は聴かれにくいという性質を知る必要があります。4分音符にアクセントがあることから、さらにこれを悪い方向へ助長してしまいそうに感じます。最初にもお話ししましたが、この曲のアクセントの多くは「しっかり発音してほしい」という作曲家の願いであるように感じます。管楽器演奏の技術的に言えば、16分音符2つの方にもアクセントをつけても良いくらいです。16分音符がよく粒立って聴こえるように気をつけたいところです。またこれらにはスラーがついていないので、しっかり二つとも発音することもポイントです。
練習番号IからJまで
Iからのメロディはトランペット1番とクラリネット1番です。トランペットはある程度きつい高音域になりますので、流れを持って演奏しないと硬くきつい音になりがちです。4小節単位のフレーズで、それぞれ3小節目に向かって持っていくようなイメージが良いと思います。またトランペットは一人ではなく、クラリネットと一緒であるということをイメージして強すぎる音にならないようにすると良いと思います。
Iからの木管の細かい動きですが、単純に見える順次進行の中に、色のある音が隠されています。最初の4小節間で言えば、Cbの音。いわゆる非和声音です。ここが少し強調されるように、前3つくらいの音で押していき、I3に軽い重みが来るように、そして引いていくように楽に演奏すると良いかと思います。I5からは非和声音のみならずアクセントを用いてシンコペーション的なリズムを入れてあり、これもやはり明確に出ることが大事です。この2回のアクセントで緊張感を増していき、非和声音のGbをなぞるように吹き、Cbを引っかけながら楽に降りていくというイメージです。16分全てが大事ではなく、あくまでもメロディが最優先的であり、これらの飾りの動きは総じて楽に響くことが大事です。そしてその上で圧のかかる音やアクセントで存在をアピールするという考え方です。
I9からのハーモニーです。ベースが下降順次進行をしているため、和音が転回形になっているために周りとの音程が取りにくい音もあります。最初の音はAb-Durの3度バス、前のメロディがCであることからベースを担当するテナーサックスの音量や音程にも注意が必要で、しっかり鳴りすぎると前のCと重複して聴覚的に強すぎるように聴こえることもあります。この和音進行はゆっくりと練習し、みんなで感覚を磨いていくことが良いと思います。このパッセージを抜ける際のT173の2拍目は減七和音で圧のかかる音です。
J1,2小節前の2拍目に入るパートは音は減衰するにしても音価は、次の拍頭まで伸ばす方が曲が集結する感が出ると思います。
練習番号Jから終わりまで
Jからは単純にEbのベースに1小節目はEb-Dur、2小節目はf-moll、3小節目はGb-Dur、4小節目はAb-Durが乗っている仕組みです。純粋に各三和音が良いバランスで鳴り響くことが大事です。
T182は中上声部がEs-Durで響いている中、低音が音をぶつけにいきます。特に大事なのはFbの減5度にあたるBbです。これがしっかり出ると、なお一層ぶつかっている感じが強調され、最後にEbに解決した際に、解決した感じをしっかり感じることができます。
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