見出し画像

二次創作【アイアン・アトラス・サヴァイヴァル!】

◇ニンジャスレイヤー/アイアン・アトラス!の二次創作です◇
ニンジャオン4〜WEBアンソロ「おうちニンジャ」寄稿作品

『ドギャアア〜ン!』『ARGHHHHH!』刺激的効果音に続いて、アンタイ集団避難行動カップルの叫び顔がズームアップされる。『GRRRRRR…!』キャンプ場で吸血ウイルスに感染したジョックが蒼白い顔でゆらゆらと立ち上がる。その歯茎からは……滴る血糊!

「ウグッ! ゲッホ、ゲホゲホーッ!」コミタは毛布を被ったベッド上で激しく咳き込んだ。息を呑んだ勢いでオキアミ・バーが喉に詰まったのだ!「ゼエーッ、ハァーッ、ハァーッ……ゴホッ、ゲホゴホッ」コミタは手探りでケモコーラを掴み、ゴクゴクと飲み干すと、口の端を拭った。テレビモニタの照り返しが彼のメガネを青く染める。

 部屋は薄暗い。カーテンはかたく閉ざされている。コミタは手の中に残ったオキアミ・バーのかけらを口に詰め込み、膝を抱える。虚無的な瞳にパンデミック・サバイバル映画の青みがかった映像が反射する。オキアミ・バーの備蓄は残り三本。だが買い出しに出れば……コミタは肩を震わせた。

「なんなんだよ緑って……クソッ、大学もあるってのに……学生の本分が果たせないじゃないか……!」爪を噛むコミタは己の輝かしい大学生活を振り返ろうとして、やめた。だが大学が臨時休校になった今……彼自身の立場を保証してくれるものは「大学生」という肩書き以外に何もブー。ブブーッ「何だよッ!」コミタは反射的に叫び返し……IRC着信に気づいた。
 
「ア、アイアンアトラス=サンから……」ブブーッ! ブブブーッ! ドン! ガン! インターホンに応答する間もなく激しくドアが打ち鳴らされる。「ああもう!」毛布ごと携帯端末を放り投げ、コミタは玄関に走り、ドアノブを勢いよく引いた。その鼻先、コケシマートの紙袋がワン・インチ距離。

「オウ! UNIXマン!」身を屈めて入ってきた巨躯の男は、スーパービッグサイズ紙袋の上からひょいと顔を覗かせた。コミタは廊下に顔を突き出し、左右を落ち着きなく見渡してからドアチェーンをかけた。「プッ……! 何やってんのお前」「ア、アイアンアトラス=サン、何ともなかった? 外の……なんか緑の……ヤバい」「アッお前アレ何? ピコピコで、なんか、そういうのわかんだろ? なあどうすンだよ! 店やってねえんだもんよ!」「し、知らないよ」

 コミタはアイアンアトラスが放った紙袋を盗み見た。グレーズドドーナッツ。ポテトチップス。サーモン・スシ。コーラ、シャンパン、ダース入りのカートン・ケモビール。ゴクリと生唾を呑む。……緑の繁茂により外出不可能となってから、コミタが食べたものといえば買い置きのカップ・ソバとオキアミ・バーのみ。

当初彼は、滅びゆく緑化都市の片隅で冷静沈着にサヴァイヴする彼自身を夢想した。手始めに彼はゾンビ・パニックホラー専門チャンネルのサブスク契約をし、サヴァイヴの心得を己に叩き込むことから始めた。しかし……現実は容赦がなかった。結局この数日というもの、毛布を被り、延々と流れ続けるパニックホラー映画を虚無的に見つめるばかりであったのだ。

『ズッシャアアーン!』『アイエエエ!』『GRRRRRR…!』『ダーリン!』『ハニー!』ひとときの安らぎシークエンスを終え、映画は再び吸血ウイルス感染者が暗がりから集団ジャンプスケア! アイアンアトラスはテレビを指さした。「オイオイ何だよUNIXマン! 映画観られるじゃんかよ!」「ア、ウン。パニックホラーしか観られないけどね……。サブスク契約してさ」

「ギャハハハハ! マジかすげえな! サケもあるしよォ、もうシネマナイトするッきゃねえじゃんよ!」アイアンアトラスはコミタの肩をバンバンと叩いた。「でも、ポップコーンがないじゃないか」コミタはずれたメガネ掛け直し、さりげなく手にしたポテトチップスの袋を左右に引っ張った。「アッ!」勢いよく弾けた袋からポテトチップスが床じゅうにばら撒かれる!

「ギャッハッハッハッハ!」アイアンアトラスは片手にグレーズドドーナッツ、片手にイカケバブを持ち交互に食いちぎった。『アイエエエエエ!』画面内の吸血ウイルス感染者も犠牲者を食いちぎった。コミタはヤケになって床から直にポテトチップスをつまみながら、アイアンアトラスとケモビール瓶でカンパイした。グレーズドドーナッツ、ポテトチップス、スシ、コーラ、シャンパン、ケモビール! 今夜はシネマオールナイトだ!



【アイアン・アトラス・サヴァイヴァル!】終わり

いいなと思ったら応援しよう!

望月もなか
楽しいことに使ったり楽しいお話を読んだり書いたり、作業のおともの飲食代にしたり、おすすめ作品を鑑賞するのに使わせていただきます。